第14話_女の正体と支配者の招待
男が気絶した後、レオンは舌打ちをしながら乱暴に男を壁に括り付けたところで、同時に彼女が目を覚ました。
「......こんなやつ殺してもいいのに......何で......」
レオンが独り言のようにそうつぶやいた。
「大丈夫?さっき回復薬を買ってきて飲ませたんだけど......無事でよかった。」
リーンが安堵した表情を彼女にした後、その手が微かに震えているのを見てリーンはレオンをきつく睨んだ。
「あなた、人を殺したことないわよね。怒りに任せて初めて人を殺すところだったのよ。この国ではどれくらいの重罪か分からないのに勝手なことをしないでもらえるかしら」
レオンは男を軽蔑したような顔をして、リーンのほうに歩いて行った。
「そうだったな......この国に来た理由にたどり着く前に追放されかねなかったな。悪い」
申し訳なさそうなレオンの表情を見て、リーンはこれ以上は何も言わなかった
「あ、あの。ありがとうございます。でも......」
目を覚ました彼女は、安堵するよりも先にガタガタと肩を震わせ、自分の服の裾を強く握りしめた。
(感謝のノイズの裏にあるもの......恐怖?男から助けたのにまだ何かに怯えている......)
「当然のことをしたまでよ。......長居は無用ね。血の匂いか騒ぎを聞きつけて誰か来る前に、私たちがいる宿に戻りましょう」
リーンがそう言うと、レオンが周囲を警戒しながら、宿に戻った。
「......ワコル様......」
路地裏の影から誰にも聞こえないような小さい声でそうつぶやいていたのを誰も気が付かなかった。
「さて......あなたは何であんなところを危ない男と一緒にいたの?」
リーンが問いかけた。
「えっと......ごめんなさい。あなた達はこんなことをして大丈夫ですか?」
レオンとリーンが目を合わせながら不思議な顔をしていた。
「私、カナエって言います。この町を支配しているワコル様のお世話係として、数か月前に雇ってもらったんです。最初は優しかったんです。。。でも次第に扱いがひどくなっていって......あの男はワコル様の息子であの男と行動を共にするように命令をされて......うぅ......」
(カナエ......確かカードの名前......)
カナエが言葉に詰まって泣き出したのを、リーンとレオンはただ眺めていることしかできなかった。
「みゃうぅぅ」
ミアは、鳴いているカナエの膝の上に座って、なでてほしそうにしている。
「ミア......そうね......ありがとう。カナエ、だいぶ疲れているでしょうから、夜まで少し寝ていなさい。ミアそばにいてくれる?」
リーンはそう言うと、レオンと一緒に部屋を出た。
「レオン。あなたの部屋で少し話せるかしら?」
レオンは頷くとレオンの部屋に2人で入って行った。
「なあ、なんだよ。カナエを一人にしてよかったのか?」
レオンがリーンに聞くがしばらく黙っていた。
「ごめん。ちょっと考えことをしていたわ。あのカナエって人、あなたから見てどう感じた?」
リーンは、慎重に言葉を紡いだ。
「そうだな......ちょっと俺たちとは違う何かを感じてるんだよな。うーん......ワコルってやつを恐れているだけじゃない、自分自身に対して何か恐れているような......でも俺の暴走とは違う感じだな」
(レオンもそう感じているのね......そう、極度の恐怖。この感覚は本人が落ち着いたら聞いてみましょうか。)
レオンの回答が自分の感じている違和感と合致していることを確認すると、リーンは話し始めた。
「実は、カナエが情報屋のおばあさんから買ったカードの人物なの。でもカードを見ると、秘密を持たない?っておばあさんの情報も不完全だったのよね。何かを私たち、いや。自分以外の全員に対して隠している気がするのよ。」
リーンはそう言い、カードへ記載されている情報をレオンに見せた。
「なるほど。それはお前の秘密でも分からないのか?」
レオンがリーンのほうを見て聞いた。
「ええ。私でも分からないわ。厳密にいえば、何かを隠しているのは分かるんだけど、詳細までは......ね、」
(私の秘密はレオンには話していないはず。レオンも何かを感じ取れるようになっているのね......ミアが原因かしら?)
リーンが答えると、レオンは剣を振り始めた。
「まあ、なんにせよ。お前が選んだカードだろ。仲間にするために、この町を追放されてでもワコルとかいうやつをぶっ潰すんだろ?」
リーンは微笑みながら椅子から立ち上がった。
「そうね。でもまずは、情報をカナエから聞いてみるところからね」
「ん......んーー」
カナエが目を覚ますとすっかり夜になっていた。
「どうかしら。少しは落ち着いたかしら?」
リーンが机で本を読みながら、そう声をかけた。
「は、はい。だいぶ落ち着いたみたいです。」
ミアをなでながらカナエは体を起き上がらせた。
「カナレレ王国って結構昔からあるようね。デシラ王国の歴史よりずっと長くて、ずっと闇が深いようね。」
本に書いてある史実を見ながら、リーンは独り言のようにつぶやいた。
「そう......みたいですね。私も数か月前にワコル様の書斎で見た記憶があります。魔法なんて目に見えない秘密があるわけがないって昔から虐げられていたって......」
カナエがそう言うと、リーンは本を閉じて、椅子をカナエのほうに向けた。
「ねえ、カナエ。ワコルのもとに戻りたい?それともほかの誰かのところに行きたいの?」
まじめな顔をして話すリーンにカナエは少し戸惑いながら答えた。
「えっと。ワコル様の元にしか私の居場所はないのよ......ワコル様の手からは逃げられない......。あの町で逆らった人がどうなったか、私は見てきたんです。......どこへ行っても、あの人の影が追いかけてくる......」
そう答えようとするカナエに対してリーンはすかさず椅子を近づけた。
「そういう表面的な回答は求めていないわ。できるかできないかじゃなくてカナエの気持ちはどうなの?」
「もっと......自由に生きたいです......」
そうカナエが震えながら言うと、リーンは頭をなでた。
「それなら、私の”駒”になってくれるかしら?レオンと一緒にね。どうせ私たちも何もしなければ、この町を追放だから......あがいてやろうじゃないの。」
リーンがそう言うとカナエは驚いた表情を見せて、泣きながら頷いた。
「契約成立ね。」
リーンがそう言った束の間、パリーンという鋭い音とともに、夜の冷たい風が部屋に入り込む。床に転がったのは、血のように赤い封蝋で閉じられた一通の書簡だった。
(気配を完全に遮断する魔具でも使ったのかしら、一瞬でノイズが消えたわ......)
「こ、これは?」
リーンがそうつぶやくと隣の部屋で剣を振っていたレオンも部屋に入ってきた。
「どうした!!」
その書簡には、真っ赤な血のような文字で”招待状”と書いてあった。
投げ込まれた紙から漂う、鼻をつく鉄錆のような血の匂い。真っ赤な文字はまだ乾ききっておらず、書いた者の執念というノイズが滲んでいる。中を見るとそこにはこう書いてあった。
『俺様の所有物に手を出すな。これ以上、匿うようなマネをするなら、この町から追放させてやる。明日の14時にそこにいるものにアジトまで案内させろ。お前たちの処遇はそこから決める。』
書かれているひどすぎる内容に、リーンとレオンが戦慄し、カナエはガタガタ震え始めた。
「......許せねぇ」
レオンがそうつぶやくとリーンも頷いた。
「人を人と思っていない......自称支配者様はさすがにやりすぎね。カナエ、明日アジトに招待して頂戴。」
ガタガタ震えるカナエを抱きしめながら、リーンが言うが、カナエは首を横に振っていた。
「いや、もう、会いたくない。また地獄に戻ってしまう。でも......リーンさん、レオンさんは逃げてください。私が明日一人で戻れば済む話です。」
カナエは、震える声で精一杯の嘘をついた。自分が地獄に戻れば、救ってくれた二人は助かる。その自己犠牲を、リーンは冷徹に、けれど確かな意志を持って切り捨てた。
「拒否するわ。もう私の”駒”なんだもの。なんとしても助けるわ。レオンもそうよね。」
リーンがカナエの提案を拒否し、レオンが同意する。
「ああ、もちろんだ。行くぞ敵のアジトに!!」
続く
次回更新:7月26日(日)18:30




