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世界中の能力を喰らい尽くす偽りの遊戯~とある終末の観測者より~  作者: 古谷 怜
第一部_第一章_リーン編

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第13話_奴隷の女と戦士の誇り

「いや......もう......止めて......痛い。」


 町のはずれの裏路地でかすれた声で女が目の前にいる男に懇願している。


「ははは。嫌だね。昨日俺が受けた屈辱をお前の体にも染み込ませてやる」

「ウインドカッター」


 男がそう唱えると、目には見えない風の刃が彼女を襲う。何度も何度も止まることなく......彼女がもともと着ていたボロボロの布の服が破れ、彼女の肌からは血が出ている。

「痛い。痛い。なんでこんな目に私が遭うのよ......」


 数か月前、泥水をすする彼女にパンを差し伸べてくれた商人の優しい笑顔は、ただの『壊してもいい玩具』を手に入れただけの歪んだ欲望だったのだ。

「秘密のない人間なんて、こうやってストレス発散以外に生きる価値なんてないんだよ。なんで今まで気が付かなかったんだよ」

 笑いながらそう言うと、続けて魔法を唱え続けた。

「誰でもいい......助けて」

 彼女がそう言うと、目の前で鼓膜を破るような重い金属音が響き、不可抗力の風の刃が、ただの一太刀で霧散した光景を目にした。

「わりい、遅くなっちまった」



「なあ、リーン。今日は何をするんだ?」

 朝になり、宿の受付の近くでレオンはリーンに尋ねた。

「そうね。私としては図書館で少しこの国について調べ物がしたいわね。ついてきてくれるかしら?」

 リーンがそう言うと、レオンは手に持っていた剣を背中に担ぎ、移動する準備を始めた。

「まずはここから一番近い町はずれの図書館に行きましょう」

「おう。俺は本なんざ興味がないから図書館の近くで素振りしとくぜ」

 笑いながらレオンがそう答えると、快晴の日の光を浴びるがごとく宿を後にした。


「確か昨日、店主が言っていた図書館は......この辺に......あった」

 リーンが図書館の目の前につき、入ろうとしたところ、ミアが突然、路地裏のほうに走っていった。

「ちょっと、ミア。どこに行くのよ。そっちは図書館ではないわよ」

 リーンが必死にミアを説得するもミアはまるでそっちに何かがあるかのように一目散に走っていった。

「おい。ミア。ランニングなら俺もついて行かせろよ。」

 レオンは笑いながらミアを追いかけ、リーンも仕方なくミアの後を追い始めた。


 角を曲がったタイミングでレオンは何かに気が付き、笑顔がスッと消え、冷たい戦士の顔になった。

「なあ。リーン......この感覚。」

(なんだこの変な感覚は、人工的に作り出された風か......魔法を使ってるのか?)

「ええ。急ぎましょう」

(この、不協和音がするノイズは、まるで自分が支配者のような傲慢さ、そして不安、恐怖を感じている感覚だわ)

 路地裏の奥から、男の下衆な笑い声と女の悲鳴が聞こえる。

「~~~......助けて」

 目の前で繰り広げられている光景を目の当たりにしたリーンが止めようとするのも束の間、レオンが背中の剣を抜いて彼女の前に立ち、風を一太刀で切った。

「みゃう」


「なあ、お前は今、何をしてるんだ?」

 レオンは今まで聞いたことのないくらい低い声で、男を睨みつけていた。

「お前誰だ?なんだっていいだろ。」

 笑いながら言う男に向かって、レオンは再び声をかけた。

「今、何をしてたんだって聞いたんだよ」

 男はまだ笑い続けながら、レオンの問いに答えた。

「ストレス発散だよ。それ以外に秘密を持っていないゴミの利用価値なんてないだろ」

「そうか。分かった。」

 レオンはそれだけ言うと、剣を男を目掛けて一太刀入れようとした。

「ふん。剣か。そんなもの近づけなければ怖くないんだよ。ここは魔法の国だぞ」

「ウインドカッター」

 男がそう唱えると目に見えない風の刃をレオン目掛けてではなく、彼女目掛けて攻撃をしようとした。

「いや、もうやめて......」

 そう言う彼女に風の刃が当たったかのように思えたが、風の刃は通り過ぎていった。

「な、なぜだ。確かに肉を裂く感触があったはずなのに!それに彼女は秘密を持っていないはずだ」


(......『浮遊』で体を持ち上げて軌道から外し、『嘘』で斬られた幻覚を見せた。単純な脳みそで助かるわ)

 リーンは男の視界に入らないように、彼女を浮かせると、リーンの後ろに避難させた。

「あなた。大丈夫?ひどい血ね......今すぐはどうしようもないけど、ちょっと待ってて。あいつは強いから」

 彼女は頷くとそのまま意識を失ってしまった。


「......魔法が力、ですって?

 盤面すら見えず、目の前の弱者を弄ぶことにしか使えないその感性......

 クズを通り越して、視座が低いわね」

 リーンは冷たくも哀しそうな声で、男に声をかけた。


「お前......どこから......」

 男は少し驚いた表情をしたが、すぐに正気に戻ると、リーンそしてレオンに向けて魔法を連発し始めた。

「ウインドカッター、ウインドカッター、ウインドカッター」

 リーンは、男を冷たい目で蔑みながらも、レオンに向かってこう言った。

「無駄よ。人の感情が乗っている攻撃なんて当たるわけないじゃない。

 いい、レオン。私が言うとおりに動いて」


(看破)


 レオンは笑いながらリーンのほうに腕を見せると、男に集中した。

「左に4歩、前に3歩......右に7歩、後に1歩、前に4歩......」

 風の刃に当たることなく、レオンは着実に男の前まで移動していく。

「なぜ当たらねえ......ブレーンはあいつか」

「ウインドカッター」

 そう言うと、風の刃はリーン目掛けて進んでいったが、リーンは後ろに1歩、左に4歩移動すると、風の刃が当たることはなかった。

 男がレオンのほうに目をやると、目の前でレオンは剣を振りかざしていた。

「おい。どこ見てやがるんだ。この野郎」

「ウインド......」

 男は、振り下ろされる大剣の重圧と、死の恐怖に顔を歪ませた。

「あ、が......っ」

 喉の奥で情けない音を漏らすと、レオンの剣が届くよりも早く、その精神が限界を迎えて弾けた。


「待って......」

 リーンがそうつぶやくと、男は気絶をして目の前で膝から崩れ落ちた。


「秘密:『増幅』を手に入れました。」


 続く

次回更新:7月25日(土)18時30分

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