第12話_文明の香りと腐敗の臭い
「おし、じゃあ今度こそ出発だな。」
レオンがそう言いながら、客間を出て屋敷の入り口に向かい始めた。
「......お前らのせいで......」
恨めしげな声を背に、私は足早に屋敷を後にした。
リーンのノイズには権力に固執する者たちの腐った野心と、そして城全体から漂う古い石造りの建物が放つカビ臭い空気。
(何か愚痴を言っているようだけど、感情としてあるのは恐怖のみ。私たちにこれ以上手を出す気はなさそうね......)
リーンはそう感じ、相手にするのをやめた。
「んで、次はどこに行くんだっけ?」
レオンがそうつぶやくとリーンはカードを見て言った。
「そうね。カナレレ王国の辺境にある町まで行くわ。3日くらいかかるだろうけど、途中の町とかも楽しみながら行きましょう。」
道中、レオンは時間があれば素振りをミアはこれまで見たことがない景色を楽しそうに匂いを嗅ぎ、リーンはカードを眺めながら何かを考えていた。
「ふうーー疲れたぜ」
レオンがそう言いながら、酒場の椅子に腰を掛ける。
「でも何とか着いたわね。来る途中に何もトラブルがなくてよかったわ」
リーンは周りを見渡しながら、そう言った。
この町に来てから感じている清涼感があるとまで感じる澄んだ空気、そして酒場の客は魔法をパワーアップさせるための方法や生活にどう生かすかの話をしているのが、聞こえてきた。
「この町のほしいもって何だかすっきりとした味がするわね。芋の成長にもこの魔力が使われているのかしら」
そう言いながら、目を真ん丸にしながら、新しいものに出会った子供のような表情をしている。
「なんかよ。俺はこの町の空気苦手だな......作られているような気がするんだよな」
レオンはそう言いながら、手元にあるお酒に手をかけぐびぐびと飲み干していた。
「ねえ、レオン?あなたは前にもこの国に来たことがあるとそして魔力が全ての国だ......とも。この町も似たような感じなのかしら?」
リーンはそう聞くと、少し酔った感じでレオンはめんどくさそうに、目の前にあるほしいもを手に取ろうとしていた。
「ちょ......これ私のよ」
「いいじゃねえか。答えてやるから」
そうレオンに言われると、渡したくなさそうにしながらも渋々了承した。
「そうだな。俺が行ったことがあるのは国王がいる町だけだが、空気感は似たような感じだな。どこに行っても魔法の話ばっかりだし、魔具を使って生活を支えているってのはこの町も変わらないぜ。ただ......」
レオンは何かを言いかけたが、これ以上話すことはなかった。
「......そう。やっぱりこの国でもあるのね」
リーンがそう言うとレオンは静かに頷いた。
「私もカナレレ王国の町を見たことはないわ。少し町を歩きたいのだけどいいかしら?」
そう言うと机に置いていたほしいもを平らげて酒場を後にした。
再び町に出たリーンたちには新鮮な光景ばかりだった。夕暮れ時に松明に火をつけるもの、洗濯をする桶に水を入れるもの、空には子供が遊んでいるであろう泡。
「町の人たちはこうやって生活に生かしているのね。かなり便利そうなのは分かるけど、文化の違いなのかしら......やっぱり不自然だわ」
そう言いながら町を歩いていると、外から見えるショーケースに魔具が並んでいるのが見えた。
「このお店入ってみてもいいかしら?」
リーンがそう言うとレオンとミアが続いてお店に入ろうとしていた。
リーンがドアに手をかけた瞬間、ドアは自動で開いた。
「おや、いらっしゃい。ここらでは見ない格好だ。デシラ王国から来たのか?」
そう言うと店主の若い男が出迎えた。
「お邪魔します......」
ドアが自動で開いたことに驚きながらリーンはお店の中に入った。
「そっか。それは驚くよな。このドアは、人を識別して自動で開くんだよ。逆に人間以外の動物が、近づいても入れないようになっている仕組みだよ。これも魔具の一種さ」
「みゃう」
(ミアは......レオンのすぐ後ろにいたから、ドアをすり抜けられたのね......)
リーンはミアも入ったことを確認すると、軽く会釈をして店内を見て回った。
店の中には、デシラ王国では見慣れないものばかりが並んでいた。店主に聞くとすべてに魔法が付与されているとのことだった。
寝るときに使うと深い睡眠に誘われれるというお香、
首にかけているだけで体力の消費が減るようなペンダント、
体に塗ると動物が寄り付かなくなるクリームなど、
生活のインフラを支えているといってもいい代物ばかりだ。
「なんか......便利なのも考えものね......」
そうリーンが言いながら、店の中をぐるぐると回っていた。
「なあ、もういいだろ。早く行こうぜ。宿が取れなくなるかもしれねえぞ。」
レオンが剣に軽く触れながら、そう言うと、ミアとレオンは店の外に出ていった。
「もう、せっかちなんだから、この楽しい時間が分からないなんて......」
そう言うとリーンも慌てて店の外に出ていった。
「おい。あれ......」
レオンが指さした先を見ると、そこには今にも倒れそうな状態で壁にもたれかかっている貧相な服を着た老人がいた。
町の人はその様子を見ても、誰一人声をかけることもなく軽蔑すら感じさせる表情をしていた。
(このおじいさんに対しての町の人の感情は軽蔑、嫌悪、忌避......この町に来た時には幸福、満足、便利しか感じられなかったわ)
「おい、大丈夫か?何があった?」
リーンがそう感じるや否やレオンが声をかけると、老人は小さい声を絞って伝えた。
「あんたたち、旅のものか。わしは魔力を使って働いているんだ......だが、今日はもう魔力を使いすぎたんじゃ」
「じゃから少し休めば問題ない......明日の働かなくてはのう......」
そう言うと、体力が限界だったのか、そのまま寝てしまった。
「......この人、奴隷ってこと?」
リーンがそうつぶやくとレオンはこぶしを強く握りながら言った。
「......分からねえ。でもカナレレ王国の地下にも労働場があってな......
魔力を限界まで使わせて生活をしているのを見ちまったんだ。
ホントに頭がおかしい国だぜ......」
その態度を見たリーンは言葉を詰まらせた。
「そう。だから......」
「まあ、慣れていくしかないよな。。まずは宿だ。そこに行ってそのカードのことを調べようぜ」
そう言うと宿に向かって歩いて行った。
「今日は疲れたわ。また明日このカードにつながる情報を探しに行きましょう。」
リーンはカードをタッチするだけで、自動で鍵がかかる仕組みに悪戦苦闘しながら、部屋に入っていった。
カチリ、と無機質な音を立てて扉が閉まる。デシラ王国では考えられない。
リーンは手元のカードを見つめ、指先に残る魔具を触ったときの微かな魔力の感触を確かめた。
「......便利すぎて、自分の手で何かを成し遂げている感覚が薄れるわね」
部屋の明かりも、彼女の気配を察して自動で灯る。その明るさが、かえって外で見たあの老人の”影”を脳裏に焼き付けた。
隣の部屋からは剣を振る音が聞こえている。
「レオンは変わらないわね......」
そう言うとミアを抱えながら眠りについた。
続く
次回更新:7月24日(金)18時30分




