喜劇
私は、案内人さんに、あることをお願いした。
それは、早紀ちゃんと一緒にある思い出を最後に観たいと。
私の願いを、優しく聞き入れてくれるとは、なんて素敵なの!
そう、早紀ちゃん。
私の可愛い妹よ。
早紀ちゃんは人間だから、ゆっくり生きている。
私と生きる時間が違う。
そんなことは分かっていたのに、いざこうなると寂しいものね。
人間は、早紀ちゃん以外は好きじゃないの。
でも、案内人さんみたいな人は好き。
私のことが、何でもわかるようで助かるわ。
隣の人間は、捨て置きましょう!
案内人さんが、大きく黒い扉を開き、入るようエスコートしてくれる。
「さぁ、ごゆっくりどうぞ。」
私は、お言葉に甘えて部屋の中に入った。
すると、大きな白い壁が目の前に現れる。
ゆっくり前に進むと、聞き馴染みのある大好きな声が聞こえた。
「かっちゃん!」
そう、この声!
早紀ちゃんよ!
私は、早紀ちゃんの座っている椅子の隣に飛び乗る。
でも、ここでは居心地が悪いわ。
そのまま、早紀ちゃんの膝の上に落ち着く。
「かっちゃん。もう、本当にここが好きなのね。」
そうして、私の頭を優しく撫でる。
大好きな手だ。
温かい。
くつろいでいるうちに、部屋が暗くなる。
すると、白い壁が光り始めた。
――――――――――
映し出されたのは、春の暖かい日。
早紀ちゃんママが、白い布に包まれたものを抱いて部屋に入ってくる。
「かつおぶし。ただいま。」
私は、急いで出迎える。
そして、白い布に包まれたものの匂いを嗅ぐ。
なんだろう。
やわらかいミルクの香りがする。
「この子はね。早紀っていうのよ。今日から、あなたに妹ができるの。よろしくね。」
早紀ちゃん。
私の可愛い妹。
これが、はじめての出会い。
そして、私の守りたいもの。
それから、沢山の時間を一緒に過ごしたわ。
ご飯を食べる時も、遊ぶ時も一緒。
いたずらをして、ママに怒られる時も。
幼稚園?学校?という所へ行くようになったときは、妹を取られたようで寂しかった。
でも、必ず私にただいまと言ってくれて嬉しかった。
そして、家にいるときは必ず私を膝に乗せてくれるの。
この時間がずっと、ずっと続けばいい。
そう、思っていたのにな。
――――――――――――
こうして、上映が終わる。
部屋が明るくなると、早紀ちゃんの目から温かいものが流れていた。
これは、涙というものね。
私は、涙を拭うように舐める。
少ししょっぱい。
でも、やわらかい。
「かっちゃん。私のこと、妹だと思ってたんだね。嬉しいな。」
早紀ちゃんは、私を強く抱きしめる。
私は、お返しするように、尻尾を腕に巻きつけた。
私の言葉が伝わるのか分からない。
それでも、きっと伝わると信じて。
「大好きだよ。」
「え……。今、何って?」
残念ながら、タイムリミット。
次の言葉が紡げないまま、暗転。
明るくなった時には、早紀ちゃんは居なくなっていた。
「いかがでしたか?」
優しく案内人に抱き上げられる。
うん、悪くないわ。
「はい、私も伝わっていると思いますよ。」
案内人は、ゆっくり出口に向かう。
そうよね。
私も、伝わっていると思う。
そう、信じてる。
映画館の入り口に到着する。
私は、勢いよく飛び降りて、お礼を伝えた。
「本当にありがとう!」
すると、ヤンチャな人間は隣ですすり泣いている。
あら、案外涙もろいのね。
見直したわ。
案内人は、深々と頭を下げた。
「それでは、良い旅を!」
私は、尻尾をゆっくり左右に振ったのち、扉の外へ出た。




