表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ようこそ、ゴーストシアターへ!  作者: 乙葉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
51/55

11作品目 戻演

 私は、朱色の本を手に取る。

 開かず、そのまま見習いに渡した。

「これは、成見 記恵子様の本です」

 名が分かったことで、見つかった本。

 私は、中を見る勇気がなかった。

 それは、見習いの家族に関する記憶。

 ずっと傍にいて、本人の記憶まで覗いておきながら、触れることをためらった。

 何より、最初に読むなら私ではない。

 見習いからだと思ったから。

「読むタイミングは、お任せします。この部屋を使っていただいて構いませんので、ごゆっくり……」

「この部屋は、のどが痛くなりそうだからロビーで読むよ」

「あ、失礼ですよ。部屋が汚いって!」

「俺、そこまで言ってない!」


 私の気遣いを無下にして!

 しかし、それも彼らしいと思った。


「読んだら教えてください。そういう約束だったので」

「了解!」

 そう言って、見習いは私の部屋を出ていった。


 すると、入れ替わるように映写さんが入ってくる。

「よ! 調子はどうだ~」

「何のことです?」

「この前は、大喧嘩していたからな。仲直りできたかなと」

 このタヌキ親父の話し方、すごく白々しい。

 実際に聞きたいことは、違うのだと分かる。

 私は、小さく溜息をついた。

「見習いに、力を使うことを止められました」

「それで?」

「見習いの知り合いとはいえ、彼は立派な案内人として仕事を全うしていました」

 映写さんは、私の話に耳を傾ける。

 私は、紅色の本を手に取り、話を続けた。

「彼の姿を見て思ったのです。記憶に干渉する力が無くても、案内人として成り立つのだと。彼のことが誇らしくもあり、少し寂しくもありました。でも、見習いは言ったんです。ここは俺の居場所だって」

 この言葉は、寄りかかりたくなるほど、嬉しかった。

 なぜなら、もう一人ではなくなるのだから。

 しかし、同時に何十年とここに縛られる自分と重なる。

 記憶が無いにせよ、この映画館から出ることができない。

 だんだん、外の世界がどんなものか考えなくなる。

 代わり映えのない日々に、色が宿ったのは、間違いなく彼のお陰だった。


「私は、彼に甘えて良いのでしょうか?」


 思わず出た言葉だった。

 彼との記憶も、失っていく量が増えていく。

 もしかしたら、次には全てということも。

 そんな中、私は彼を引き留めたのだ。

 見習いから絞り出される、言葉が胸を刺さす。


「頼むから、一人にしないでくれ……」


 この願いに私は答えられるのだろうか。

 傍にいて、彼の知る私でいられるのだろうか。

 私は、本を握りしめた。


 すると、映写さんは私の肩に手を置く。

「映介がここに残ることを選んだのなら、思いっきり甘えればいいさ。だが、そうと決めたなら、お前さんもあいつの思いに応えなきゃならん。どんな答えを出すかは、お前さんが決めろ。だが、泣かせるなよ」

 軽く肩を叩く。

 多分、激励のつもりなのだろう。

「あの、映写さんはここから出たいと思わないのですか?」

「お、どうした急に」

「いえ、私よりもずっと前からいるので、どうなのかなと……」

「まぁ、ここはワシが作ったようなもんだしな」

「また、冗談を」

 すると、映写さんは不敵に笑う。

「いつか、教えてやるよ」

 そう言って、部屋から去っていった。


 よく分からず首を傾げる。

 だが、今はそんなことを考えている場合ではない。

 私は、紅色の本を開く。

 きっと、次、力を使えば最後になるかもしれない。

 もし、そうであれば、彼のために……。

 私は、忘れないように見習いとの日々を書き記した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ