10作品目 探演
「お前さんたち、大丈夫か?」
映写さんが、心配そうに声をかける。
見習いは、私の前に本を置いていく。
ここは、私の部屋。
私は、読む気になれず、本を持ったまま何も考えられなかった。
「案内人、これが猫のかつおぶし様。こっちは、「縁」の湊さんだ。あ!俺が来る前のお客様もいるよな」
見習いは、これはと説明しながら、本を積み上げていく。
この状況に、映写さんが小さく溜息をつく。
「とうとう、映介まで……」
そんなことお構いなしに、見習いは本を漁っていた。
「映介、少し落ち着け。こいつを焦らせんな」
映写さんが、見習いの腕をつかみ止めに入る。
「だって、記憶が!」
「まずは、深呼吸。って、この部屋で深呼吸は体に悪いな。埃だらけだし」
見習いの焦りをなだめる。
「まぁ、これはワシの予想だが。こいつ、生きている頃の記憶を少しずつ取り戻してるだろ?その分、いつもよりも消耗が激しくなっているんじゃないか」
「じゃあ、このまま記憶を探し続ければ、俺を忘れるってことか?」
「可能性の話だから、絶対ではない」
「でも、あり得るってことじゃねぇか!」
映写さんは、火に油を注いだようで、見習いは掴まれた腕を振り払う。
彼の行動をエスカレートさせた。
「なんか言ってやれ。今の映介を止められるのは、お前さんだけだ」
私は、見習いが本棚を漁る姿を見る。
悔しくて、苦しくて……。
何も言えなかった。
「映介のことが大切だと思うなら、今すぐ止めろ。それに、お前さんだけじゃない。映介にもタイムリミットがあるんだぞ」
「え?」
それは、どういうことだ?
ここで働くようになってから、確かに長いが……。
だが、映写さんからの言葉で、背筋が凍る。
「映介が知り合いに出会って、何人目だ。もし、この映画館で3人出会うと何が起きるのか、分かってるよな」
「何のことです?」
「あぁ……。本当に記憶が抜け落ちてんな。じゃあ、もう一度教える。いいか、知り合いに3人以上出会い、見送るとどうなるのか。それは、案内人として必要な力が覚醒する。意味、分かるな?」
「それって、ここから出られなくなるということ」
「正解だ。だから、気をつけろって言ったところで、防ぎようがないが。場合によっては、裏に回ってもらう機会を作った方が良い」
息が止まった。
そんなこと、一度も考えたことがなかった。
私は、動揺のあまり、持っていた本を落としてしまう。
異変に気付いた見習いは、慌てて駆けつける。
「案内人、大丈夫か?」
「休んでください」
「え?何で?」
「見習い、今日の仕事は休んでください。私が一人で立ちます」
「はぁ?それを言ったら、あんたのほうだろ?」
「これは、命令です。今日は、控えて」
「ふざけんなよ!それなら、あんたが休めよ!」
私と映介の喧嘩がヒートアップする。
その瞬間、映写さんの怒鳴り声が響いた。
「いい加減にしろ!二人ともそこで正座しろ!」
あまりの怖さに、動けなくなる。
そして、無意識に私たちは正座していた。
「よ~し、それでは先代より、ありがたい贈り物だ。受け取りなさい!」
そう言って、映写さんは私と見習いに一発ずつ強烈なデコピンを放つ。
あまりの痛さに、悶絶する。
「痛!笠木さん、ヤバい」
「本当に……涙出てきました」
私たちの姿を見て、自慢げに笑う。
「どうだ。ワシの必殺技、最高だろ?これで、少しは頭冷えたんじゃないか」
映写さんの言葉は、その通りで……。
あの一発が、焦りや不安を一瞬にして、吹き飛ばしていた。
それは、見習いも同じようで、スッキリとした表情をしている。
こういう時の、映写さんは物理解決ではあるが、さすがだと思う。
「さぁ、お客様が来るぞ。何か起きれば、その時に考えればいい。今は、次くるお客様のために、準備をしなさい」
結局何も解決はしていない。
だが、今は考えない。
それも、1つだと思った。
私と映介は、「はい」と力なく返事をし、ロビーへ向かった。




