9作品目 巡演
私は、緊張で心臓が飛び出しそうになりながら、ロビーで見習いを待っていた。
きっと、大丈夫。
これだけあれば、喜んでくれるはず。
四角く、バランスが取れているかと言われれば、自信は無いが……。
すると、少し気怠げに挨拶しながら、箒を片手に見習いがやってきた。
「お疲れ様で~す。」
「お、お疲れ様です。」
「あれ?今日は早いじゃん。もう、頭痛は大丈夫なのか?」
見習いは、山田様の件でまた酷い発作が起きたことを心配してくれる。
そういう気づかいに、いつも救われる。
「はい、もう大丈夫です。」
「なら、良かった。」
見習いは、いつもの様に掃除を開始する。
私は、大きく深呼吸をし、見習いを呼んだ。
「見習い!これ、どうぞ。」
私は、とある束を差し出した。
見習いは、首を傾げる。
「これって。」
「その……。前の件のお詫びです。」
すると、見習いの歓声が上がった。
「すげ~!これ、もしかしてマジで作ったの?」
「はい、雑巾30枚です。」
「って、30枚って言った?」
「はい、だってあればあるほど良いとご要望があったので。」
「確かに言ったけど、作りすぎじゃね。寝る時間削ったとかはないよな?」
「ちゃんと休みましたよ。」
「絶対嘘だろ!」
「いらなかったですか?」
「いや、嬉しい。ありがとうございます。」
見習いは、満面の笑みを浮かべながら、受け取ってくれた。
私は、安心のあまりどっと疲れが押し寄せる。
はぁ……疲れた。
丹精込めて作った自慢の一品たち。
彼に目線を向けると、嬉しそうに雑巾を眺めている。
その姿に、心が軽くなると同時に救われた。
「早速、使ってもいいか?」
「もちろんです。」
「じゃあ、お言葉に甘えて。では、案内人は箒をお願い。」
「お任せください!」
私は、見習いから箒を受け取り、掃除を開始した。
もちろん、彼の指示通りに。
すると、机を拭きながら、見習いからある質問が投げられる。
「そういえばさ、まだ思い出せていない記憶って今のところどれだけあるんだ?」
「そうですね……。自分でも、明確には答えられませんが、言えることは2つです。」
「もしかして、沖縄で出会った女性と、自分の名前か?」
「はい、正解です。と言っても、自分が石川出身で、どんな生活をしていたのかなども詳細には分かっていませんがね。」
山田様がここへ来館したことで、出会えた記憶だった。
自分には、友がいた。
そして、私が愛した味を、友が継承していたこと。
もしかしたら、とても小さなことなのかもしれない。
だが、それは私にとっては喉から手が出るほど欲しかった記憶だった。
やっと手に入れた記憶のかけらに、実は浮足立つほど嬉しかった。
「なんか、嬉しそうだ。」
「はい、だってふるさとの味もこれで、食べられますし。」
「なら、また笠木さんに作ってもらおうよ!」
「良いですね!では、前回できなかったあなたの夢にまつわる記憶の本探しも、仕事が終わり次第、一緒にしましょう。」
そう、前回は出来なかった本探し。
今日こそ、一緒に探そう。
こうして少しずつ、つながって巡ってくる。
記憶も、誰かとのつながりも。
今度こそ、見習いの夢に繋がる本を見つけたい。
そう思いながら、私は箒を動かした。




