一緒に準備する仕事
汚れた雑巾が目に入った瞬間、怒りにまかせて叫んでしまった。
いや、思わず甘えてしまった俺も悪いのだが。
実は、掃除道具は俺の中でこだわりがある。
雑巾は、3種類!
・机や棚を拭く、上拭き用。
・床、階段を拭く、下拭き用。
・水拭き後に使用する、乾拭き用。
乾拭き用もちゃんと上と下に分けている。
後、なぜかここの映画館には掃除機が無いから、箒も2種類。
毛先が柔らかいものと、硬いもの。
全て、笠木さんにお願いして準備してもらった。
唯一任されている仕事だからな。
しっかりこだわらなければ!
だが、苦手な人には違いなんて分からない。
全て同じに見えて当たり前なのだ。
俺だってそう。
最高級ワインとスーパーで売っているワイン。
どっちが100万円以上なのかと聞かれれば、きっと答えられない。
それと同じだと思う。
だが、いざこうなると、ハラワタが煮えくり返りそうになる。
それでこの顛末だ。
「掃除は、あなたに教えてもらいます。」
案内人から出た反省の言葉。
自分では予想外で嬉しかった。
まぁ、内心大丈夫なのか不安ではあるが……。
それ以上に、肩を並べて仕事できることが踊りたくなるほど嬉しかった。
だから、思わず一緒に本を探したいとお願いをした。
俺も気になっていたし、二人で探せば見つかるのも早いだろうから。
俺は、誰かに見られている気がして振り返る。
「笠木さん、気味が悪い。」
思わずツッコむ。
「なんだ、気づいていたのか。」
笠木さんは、ニヤニヤしながら出てきた。
「お前さんの怒鳴り声、すごかったぞ。」
「それはすみません。」
俺は、小さく頭を下げた。
まぁまぁと、笠木さんはなだめてくれる。
「あいつが何かやらかしたのは察しがついているから。で、雑巾作るって?」
「あ!それ!雑巾って作るもんなの?」
「あ~、今の時代だと、買うのが当たり前だもんな。」
笠木さんは、俺の肩を叩きながら、豪快に笑う。
どういうことだ?
「まぁ、生きた時代によって、手作りが当たり前の時があったというわけだ。」
「そうなんだ。それ、面倒くさくないか?」
「なに、それが良いときもあるんだよ。」
俺は、勢いよく叩かれた肩の痛みを感じながら、首を傾げる。
にしても、笠木さんの力は強すぎる。
だが、それとは反する優しい声色で教えてくれる。
「いつか分かる、きっとな。」
笠木さんのあたたかさに、大事なものに気づけと諭されているような気がした。
すると、仕事の合図。
扉の開く音が響く。
「じゃあ、今日もよろしく!」
笠木さんは、小走りで映写室へ向かった。
俺は、掃除道具を片付け、顔を軽く叩く。
よし、気合い入れていきますか!
俺は、お客様を迎えに、案内人のもとへ向かった。




