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ようこそ、ゴーストシアターへ!  作者: 乙葉


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8作品目 作演

「案内人ーーーー!」

 見習いの大絶叫が、館内に響き渡る。

 私は、モノクルを落としそうになりながら、何事かと急ぎロビーに駆けつけた。


「何かありました?もしかして、ゴキ……。」

「違う!これを見ろ!」

 私にあるものを勢いよく突き出す。

 それは、1枚の薄汚れた雑巾だった。


「これがどうかしましたか?」

 何のことか、さっぱり分からない。

 だが、見習いがものすごく怒りに満ちた目をしている。

「俺、言ってただろ!机や棚用の上拭き雑巾で、床を拭くなって!」

「あ……。」

 急に冷や汗が吹き出してくる。


 それは、前回、橋本様の一件が終わったあとだった。

 私は、見習いを気遣って意気揚々と掃除道具を取りに向かった。

「案内人、俺は大丈夫だから、一緒にやるよ。」

「いえ、開館準備をお任せしましたから。片づけは私が。」

「いや、心配しているのはそうじゃ……。」

「たまには私もやらないと!」

「こ、怖い。」

 私は、心配そうに見つめる彼を振り切り、掃除を始めた。


 その時に手に取ったのが、今、目の前に突き出されている、雑巾だった。

「いやぁ……、上拭き用とは分からず。ちゃんと書いておいてください。」

「このタグ部分見て。(ウエ)って書いてあるだろ。」

「小さいから見えません!それに、上と下は逆さにしたら似たようなもんではないですか。」

「いや、ちゃんと見て!カタカナだから。」

 見習いが、どんどん追い詰めてくる。

 様々な言い訳を並べてみたが、健闘虚しく……。

 気づけば、正座をしていた。


「で、これはどうする?」

 見習いは、仁王立ち状態で睨んでいる。

「す、すみません。新しいものを準備します。なんなら、作ります。」

「え?雑巾って作るもんなの?」

「作るものじゃないのですか。」

「まぁ、それは置いておいて。そして?」

「掃除は、あなたから教えてもらいます。」

「ん?」

 見習いの表情が、さらにキョトンとする。

「だ、だから、掃除はあなたから教えてもらいます。やはり、不慣れですから。」

 私は、恥ずかしさで俯く。

 あぁ~、耳が熱い。

 恐る恐る顔を上げると、少し嬉しそうに笑う彼がいた。

「うん、じゃあ許す。」


 私は、申し訳なさと恥ずかしさで、その場から逃げ出そうと立ち上がる。

 しかし、逃がすまいと、右手を掴まれる。

「よし、逃がさないぞ!」

「あ、アハハ……。」

 苦笑いするしかなかった。


 掃除に関しては、やはりいくら私が師匠でも逆らうことができない。

 なぜなら、どう見ても彼の方が上手いから。

 私は、渋々雑巾を受け取り、一緒に開館準備を進める。


「あ、もし俺の件で記憶の本を探すなら、俺も一緒に良いか?」

「え?」

 見習いの提案に、思わず振り返る。

 あまりにも真剣な目に、吸い込まれそうになる。

「いや、1人で探すより、二人の方が早いかなって。」

 確かに、その通りだ。

 だが、きっと別の理由がある。

 彼の表情を見ていると、何となく分かった。

「分かりました。では、仕事終わりにぜひ。」

 私の応えに、見習いの表情が明るくなる。

「よっしゃ!それなら、今日も気合い入れていきますか!」

「ですね!」

 私たちの、日常。

 これからも続いてほしいと願っている。


「あ、雑巾は何枚準備できる?」

「え?そんなにいります?」

「いる、あればあるほど。」

「……。」

 私は、どのタイミングで雑巾を作ろうか。

 内心、ひやひやしながら、雑巾を絞った。

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