1作品目 初演
ゴーストシアター。
そう名付けたのは私だ。
ここの案内人になり、どれぐらい経ったのか分からない。
まぁ、性に合っているからいいが。
毎晩、この映画館に悩みを抱えたものが訪れる。
人間だけではない。
首輪をつけた老犬。
主を待ち続けた猫。
時には、言葉を持たぬ客も。
今宵も、いつもの様に悩み人がやってくる。
そう、思っていた。
入り口の重い扉がギシギシと音を立てて開く。
この音が、仕事の合図だ。
「ここは?」
1人の若い男性が困惑しながら辺りを見渡している。
うん、いつもと同じだ。
皆、突然辿り着くためか、少し怯えた表情を見せる。
私は、モノクルをかけなおし、今宵のお客様へ声をかけた。
「ようこそ、ゴーストシアターへ!」
なるべく穏やかに、笑顔で。
先代からの教えだ。
動揺を隠せない男は、少し震えつつ、だが強い言葉で口をひらいた。
「あんた、誰だ。ここはなんだよ!?」
あぁ、恐怖を怒りで当てるタイプの人間か。
私は、最初の質問でどんな人物なのか瞬時に分析する。
最期のひと時を、気持ちよく過ごしていただくために必要なものだ。
そして、服装、表情をさらに観察していく。
その男の年齢は、20代前後。
茶髪に短髪。
少し、襟足に遊びがある。
服装は、黒いジーンズに英字の入ったTシャツ。
襟の付いた薄手の上着を羽織っている。
学生か、社会人1か2年目ぐらいだろうか……。
もしそうなら可哀想に。
私は、彼に事実を伝えるために、なるべく優しく丁寧な言葉を意識して説明を始めた。
この瞬間、彼の名が頭に浮かぶ。
まるで最初から知っていたかのように。
何度経験しても、この仕組みだけは分からない。
まぁ、今は考えず仕事に集中だ。
「よくお越しくださいました。成見 映介様。私は、ここの案内人です。少し変わった映画館というのが分かりやすいでしょうか?あなたが望む作品を1度だけ堪能することができる場所です。1日1回。貸し切り上映。もし、どなたかとご覧になりたい場合は、1人だけお連れ様をご指名できます。いろいろと条件はありますが、後悔はさせません。良かったら、1本いかがでしょうか?といっても、人生で1度きりですが。」
何度繰り返し伝え続けたか分からない映画館の説明。
口が勝手に動いていく。
内心の感情を隠して微笑むことも慣れたものだ。
動揺する姿を見守ることも当たり前。
そう、すべてはいつも通り。
いつも通りだったんだ。
今日、この日を迎えるまでは。
この男と出会うまでは。




