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ようこそ、ゴーストシアターへ!  作者: 乙葉


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7作品目 夢演

「俺、たぶんここに来たことある気がする。」

 見習いが放った言葉。

 そんなことはあるのかと、疑問が拭えない。

 人生で一度だけ訪れることができる映画館。

 しかも、死んだ後にだ。


「どういうことです?何度か死んだことでもあるのですか?」

「いや、それはさすがにない。結人と一緒に観たとき、なんか懐かしいなと思っただけ。」

「それは、記憶としてですか?」

「そこまでは分かんねぇけど。」

 本人も確信を持てないようで、返事が曖昧だ。

「でも、忘れちゃいけなかった。そんな気がして……。」

 映介の言葉が、胸につかえる。


 もし、来たことがあるとすれば、生前ということか?

 いや、それならどうして見習いの記憶を覗いても、見えなかった。

 見えていたら、本にせめて残っていたはずだ。

 私は、見習いに開館準備のすべてを任せ、自室に籠っていた。


「これ……、じゃない。あれでもありませんか。」

 今まで書き溜めてきた、お客様の記憶を書き記した本を、片っ端から読み漁る。

 しかし、彼が来た記載はどこにも見つからない。


「まるで取り憑かれたみたいに漁ってるな。」

 振り返ると、映写さんが部屋の入り口で頭を掻きながら立っていた。

「邪魔しないでください。」

 私は、ぶっきらぼうに言い放つ。

「だからといって、お客さん来ちまうだろ?一旦切り上げろ。」

 私は、無視して捜索を続行する。

 すると、映写さんがわざとらしく大きなため息をついた。

 

「全く……。で、映介の発言だが、生前のお客様はどういう原理か、忘れたのか?」

 急な問い。

 そして、「忘れたのか?」の言葉が胸に刺さる。

 思わず腹が立ち、映写さんを睨みつけた。

 だが、彼の表情を見て、背筋が伸びる。

 目つきに、先代の鋭さを感じたから。


「すみません。少し落ち着きます。」

「ワシの質問に答えろ。」

「いや……。」

「答えろ。」

 あぁ……。

 映写さんが、お客様と言う時。

 そして、語尾が命令口調になる時は、決まって厳しい師匠になる。

 このモードになると、逃れることは出来ない。

 心臓の音が激しくなる。

 私は、緊張で声が震えた。

「生前のお客様は、夢として処理されます。」

「正解。では、夢を覚えていられるお客様は、今までいたか?」

「あ……。」

 やっと結びつく。

 記憶は、一種の体験だ。

 どう体験するかで、捻じ曲げられることもあるが、まずはどう見て感じたか。

 臭い、感触、音、などの五感が必要。

 しかし、夢は寝ている時のもの。

 脳の処理だとも言われているが、五感で体験しているものではない。

 しかも、起きたら忘れていることがほとんど。

 何より、夢は生者からしたら、幻なのだ。


「まぁ、ほとんどの生者は、死者が会いに来てくれたという夢に過ぎないわけだ。ということは?」

「長い間、覚えている方が珍しい。」

「そういうことだ。」

 映写さんが、うんと頷く。


「人間らしく振る舞えるようになって、ワシは嬉しいが、映介に迷惑かけんなよ。」

「はい。すみませんでした。」

 私は、深く頭を下げた。


「よし!というわけだ。そろそろじゃねぇか?」

 映写さんの声が、明るくなる。

 これで、いつものモードに戻ったと感じ、緊張が解けた。

 あぁ……疲れた。


 すると、遠くから見習いの元気な声が聞こえる。


「お客様が来たぞ!!」


 私は、モノクルを手に取り駆け出した。

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