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ようこそ、ゴーストシアターへ!  作者: 乙葉


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33/55

繋劇

 うたた寝から目覚める。

 そこには、さっきまで作っていたゲームの一部かと錯覚するほどの、美しい世界が広がっていた。

 ここは、何だろう。

 様々な言語で描かれた映画ポスターが、壁一面に並んでいる。

 年代も……バラバラだな。

 人の気配がする方へ目を向ける。


 すると、ゲームキャラクターと見間違えるような男性。

 隣には、僕もよく着るような白いポロシャツの人物が立っていた。

 ゆっくりふたりが近づいてくる。


「ゴーストシアターへようこそお越しくださいました。」

 凄い!

 名前も素敵だ。

 今、開発中のゲームにも少し取り入れようかな。

 「あの!僕、ゲームクリエイターをしている者です。良かったら、見学させていただいてもよろしいでしょうか?」

 思わず取材モードになる。

 だって、こんなに創作意欲の湧く空間はなかなかないでしょ!


「す、すごいですね。なんだか、眩しいです。」

 キャラクターのような男性が、後ずさりする。

 すると、ポロシャツの男性は、耐えきれないと言わんばかりに吹き出した。

「あんたがたじろぐなんて。傑作だな!」

 腹を抱えて笑い出す。

 僕、そんなに迫力あったのかな?

 思わず首を傾げてしまった。


 怪訝そうな表情で、キャラクターのような男性が咳払いをする。

「気を取り直して。先ほどは失礼しました。田辺 結人(たなべ ゆいと)様。改めまして、私はここの案内人をしております。そして、この大笑いしている者が、成見 映介。私のことは、好きにお呼びください。」

 彼の紹介で、映介さんが姿勢を正す。

 案内人のスマートさ。

 さらに、ワクワクする。

 これは、メモしなきゃ。

 ポケットに入っているであろう、スマートフォンを探す。

 しかし、あれ?

「無い……。なぜ?」

 肌身離さず入れているのに。

 どこにもない。

 写真も撮りたかったのに。


「お?どうした?」

 映介さんは、僕が焦っている姿に心配する。

「いや、スマートフォンが見つからなくて。」

 ショックで、俯いてしまう。

「あぁ、絶体絶命だー!」

 思わず叫んでしまった。


「なあ?」

 映介さんが、何か考え込むしぐさをしている。

 どうしたのだろう。

 すると、驚きの呼び名が飛び出してきた。

「あんた……。もしかして、グミコサミン?」

「え⁉なぜ、その名を。」

 それは、ハンドルネーム。

 僕が、オンラインゲームをするときに使用していた名だった。

「やっぱりそうだろ!その、絶体絶命だー!の叫び。何か聞き覚えあると思ったんだよ。」

 聞き覚えがある?

 そう言えば、僕も……。

 急いで記憶の棚を漁る。

 すると、1つの声が脳内再生された。


「絶体絶命なほど、燃えるもんじゃん!」


 僕の叫びに、鼓舞するような言葉。

 あ!まさか!


「もしかして、チョコレイトウ?」

「マジか!覚えていてくれてたんだ。やべぇ、めっちゃ嬉しいんだけど!」

 映介さんは大興奮。

 僕も思わず飛び跳ねてしまった。

「うわぁ!凄い。ずっとお会いしたかったから、嬉しいです。」

「俺も!」

 ふたりで固く握手をする。


 そばでは、置いてきぼりの案内人さんが、少し申し訳なさそうな表情をしていた。

「感動の再会を果たしているところ、大変申し訳ございませんが……。」

「あ!悪い。」

「では、見習い。教えていただけますか?」

「おう!こいつは……。」

「こいつ?」

 案内人さんが、映介さんを睨みつける。

「う……。失礼しました。この方は、グミコサミンっていう名前で活躍するプロゲーマー兼クリエイターです。俺は、オンラインゲーム上で、チームを組み遊んでいました。その時、俺の名が。」

「チョコレイトウ?」

「そうです。」

 すると、案内人さんが次は吹き出した。

「チョコレイトウって、何とも変わった名前ですね。」

「おい!笑うなよ!」

「これは、すみません。でも、あなたらしいではないですか!」

 ヒーヒー言いながら笑っている。

 なんだろう。

 素敵だな。

 こうやって、くだらないことで笑い合える。

 少し、うらやましくなってしまった。


「失礼しました。それでは……。」

 案内人さんは、ひとしきり笑い終えると、姿勢を改める。

 映介さんも、背筋をピンと伸ばした。


「ここは、人生で一度だけ訪れることができる映画館。ご覧になれるものは、今までで一番良い思い出です。もし、一緒にご覧になりたい方がいらっしゃいましたら、ご招待することも出来ます。ぜひ、1本。いかがでしょうか?」

 一番良い思い出を映画に。

 それだけでも、楽しそう。

「すげぇ、目をキラキラさせてんな。」

「はい!だって、こんなに素敵な所があるなんて。アイデアが溢れそうです!」

「あぁ……。そうなんだ。」

 映介さんが、つらそうな表情をする。

 あれ?どうしたのだろう。

 すると、案内人さんからあまりにも悲しい内容を告げられた。


「田辺様。心して聞いてください。」

 あまりにも真剣な表情に、無言で頷く。

「今から3時間ほど前になります。あなたは、薬の過剰摂取により亡くなりました。」

「え?」

 今、亡くなったって?

 薬って、なんだ。


 すると、脳内で堅く鍵のかかった棚が、勢いよく開く音が聞こえる。

 その瞬間、記憶が溢れ出した。


 確か、新作RPGゲームを製作していた。

 それは、僕が初めて作ったものの続編。

 気合いが入っていた。

 前回の売り上げがよく、大変好評だったこともあり、次もヒットさせるんだと会社全体が熱く燃えていた。

 失敗できない。

 皆の期待に応えないと。

 最初は、すごく楽しかった。

 でも……。

「次の舞台は?」

「どんな、モーションに?」

「キャラクターに声は?」

 ただ、良いものにしようと矢継ぎ早に来る質問。

 だんだん、胸が苦しくなった。

 気づくと、夜は眠れなくなる。

 薬を飲んでも、収まらない頭痛と吐き気。

 プレッシャーに押しつぶされそうだった。

 そんな、ギリギリの状態でなんとか抗っていた時だった。

 1人で、パソコンに向かいプログラミング修正をする。

 画面の光が異常に眩しく感じ、目から誘発するような激しい頭痛が襲ってきた。

 おかしいな……。

 さっき、飲んだばかりなのに。

 僕は、引き出しを開けて、薬を取り出す。

 お茶で思い切り流し込んだ。

 しばらくたっても、収まらない。


 無意識に、また引き出しを開ける。

 何も考えられず、また口に放り込んだ。


 10分ほど経った頃だろうか?

 急に眠気が襲う。

 疲れてるのかな。

 「ちょっと……。仮眠。」

 僕は、眠りの悪魔に抗えず、机に突っ伏した。


「嘘?」

 薬。

 それは、頭痛薬だったはず。

 そんな、睡眠薬とかでは……。

 だが、落ち着いた口調で案内人さんが、事実を突きつける。

「相当お疲れだったようで。薬をよく確認せずお飲みになりましたね?それに、1時間おきに頭痛薬も。」

 あまりの頻度に、驚愕する。

「ぼ、僕。そんなに?」

「マジかよ。」

 映介さんも、驚きのあまり目を見開いている。

 それ以上、言葉が出ないようだった。


「あ……。あ、あはは。」

 思わず笑ってしまう。

「田辺様?」

 心配する声が聞こえる。

 僕にはもったいないほどあたたかくて、笑っているのに目頭が熱くなるのを感じた。


「そうか、僕。死んじゃったんだ。」

 これは、何て言うんだろう?

 ゲームオーバーってやつなのかな。

「これこそ、絶体絶命だね。」

 叫ぶ気力が無い。

 思わず、膝をついてしまった。


 映介さんが、僕の隣に座り背中をさすってくれる。

「なぁ、顔は知らなかったけど、一応知り合いだからさ。力になりたい。」


 彼の、心強い言葉。

 ふと、ある記憶が脳裏に浮かぶ。

 そうか、僕はきっと。


 涙を拭い、案内人さんに向き直る。

 そして、ある願いを伝えた。


「決めました。一緒に観たい人も。それは……彼です。」

 僕は、隣にいる人物へ目を向ける。

 予想外だったのかな?

 それぞれ、大袈裟ではというほどの驚きを見せた。


「俺⁉なんで。他にも、あんたならいるだろ!」

 映介さんが、俺はやめとけと窘める。


「今まで、このような事例はありませんでしたので。で、できるのでしょうか。」

 案内人さんは、動揺を隠しきれないようだ。


 ふたりがあたふたしていると、遠くから無精ひげを生やした人物がひょっこり顔を出す。

 「いいぞ~。観てやれ!」

 調子のよい、軽い答え。


 案内人さんの目つきが変わる。

「隠居は大人しくしていてください!」

「わ~、怖~い。」

 猫の威嚇かと言わんばかりに、キー!と追い払う。

 その姿に、思わず映介さんと笑ってしまった。


「あの、ひょっこり現れたやつ。ここの映写さんなんだ。軽薄な人だろ?」

「はい、にぎやかでいいですね。」

 あぁ、楽しい。

 やっぱり、彼と観たい。

 そう願ってしまう。


 案内人さんは、大きな溜息をつく。

「取り乱しました。申し訳ございません。」

 深く頭を下げる。

 そして、顔を上げると優しく微笑みながら、ある扉へ案内してくれた。


「今回、特例ということで。見習いは、失礼のないように。」

「分かっているよ!」

 映介さんは、任せろと力こぶを見せる。

 僕は、案内人さんに頭を下げた。

「僕の我がままを、ありがとうございます。」

「いえ。それでは、ごゆっくり。」


 僕と、映介さんは重い扉をゆっくり開いた。


 中に入ると、規則正しく椅子が並んでいる。

 本当に、映画館だ。

「席は選び放題!どこにする?」

 貸し切りなんて、この上ない贅沢だ。

 僕は、一番好きな場所を指定した。

「じゃあ、センター席。」

「いいなぁ!俺も、ど真ん中が好き。」

 ふたりで隣り合って座る。

 それを合図に、部屋が暗転。

 白いスクリーンが、光りはじめた。


 ――――――――――


 それは、大学生の時。

 僕は、マイク付きヘッドホンをつけながら、あるアクションゲームを楽しんでいた。


 ゲーム。

 それは、僕にとって現実から逃げるところ。

 皆が、あたたかく迎えてくれる。

 認めてくれる場所だった。


 小さいころから、携帯ゲーム、テレビゲーム、PCゲームといろいろ制覇してきた。

 その中でも、顔の知らない人々とつながり、力を合わせてクリアしていく。

 オンラインアクションゲームは、沼にはまるほどのめり込んでいた。


 そこで出会ったのが、チョコレイトウ。

 最初の印象は――チョコが好きなのかな?だった。


 でも、聞こえる声は、チョコとは程遠い、ヤンチャな声。

 それが面白かった。


「ワー!これ、絶体絶命だ!」

 瀕死寸前になると、思わず叫んでしまう。

 だが、彼は来ましたと言わんばかりに決まり文句を返してくれる。


「絶体絶命なほど、燃えるもんじゃん!」


 これは、僕らの決まった合言葉。

 この逆転劇が、他のチームを恐怖に陥れていた。


 他にもあった。


「やべぇ。絶望的なんですけど。」

 チョコレイトウの焦った声。

 この言葉には、決まって僕が返した。


「絶望から、這い上がるのが最高でしょ?」


 すると、彼は威勢よく「だよな!」ととんでもない火力で、敵を薙ぎ払っていく。


 この時間が、最高に楽しかった。


 そして、大学卒業の時。

 ふたりである約束をした。


「ねぇ、お互いに自慢のゲームを作れたら、またここに戻ってこようよ。そして、一緒にゲーム交換して遊ぼう。」


 僕の何気ない誘い。

 それは顔の知らないあなたへの約束でもあった。


「おう!もちろん。なら、どっちが早くできるか競争だな。」

「絶対負けない!」

 こうして、来ると信じた未来への約束をして、ゲームを後にした。


 ――――――――――


 ゆっくり部屋が明るくなる。

 彼を見ると、目を潤ませていた。

「あ!もしかして、泣いてる?」

「いや、泣いてねぇし。これ、汗だし。」

 誤魔化し方が、やっぱりチョコレイトウだと信じさせてくれる。


「僕ね。君のこと、友達だと思ってたんだ。そして、友の自慢になりたくて。必死に作った。でも、こんなことになっちゃった。」

 思わず俯いてしまう。

 でも、伝えないと。

 沢山、言いたいことがあるんだ。

「いつか、最高のゲームができたら。今度は同じ部屋で、遊びたいって。それが夢だったんだ。僕、君ほど思いっきり楽しめた人がいなかったから。」

 輪に入ることができなくて。

 いや、勇気が無くて、話せなかった。

 目を見ると、軽蔑されるようで怖くて。

 でも、画面越しの映介君だけは緊張しないで何でも話せた。

 顔を知らないというのもあったと思う。

 それでも、僕は救われたんだ。

「名前は、グミコサミンだったけど。本当の僕を知ってくれたのは、映介くんでした。だから、これだけは言いたくて。」

 ずっと伝えたかった言葉。

 こんな形になってしまったけど、やっと言える。

「僕の、友達になってくれてありがとう。」


 僕の言葉に、真剣に向き合おうと、彼は姿勢を正す。

 そして、大きく深呼吸をしたのち、優しく僕にとっては幸せな言葉が返ってきた。


「そんなの。俺の方こそ、友達と言ってくれてありがとう。結人!」

 初めて、ハンドルネームでない。

 僕の名で友と呼んでくれる。

 涙が止まらなくなった。

「やっぱり、映介君はずるいなぁ。」

「なんだよそれ!」

 ふたりで笑い合う。

 この時間は、最初で最後の友との時間になった。


 映介君が、案内人さんと出口へ案内してくれる。

 これが、本当の別れだと映介君の表情で実感する。


「この度は、本当にありがとうございました。」

 僕は、改めて深く頭を下げる。


「なぁ、結人。」

「何?」

 映介君が、少し照れくさそうに頭をかく。

 「はっきり言いなさい!」

 案内人さんが、尻を叩く。


「あ~!分かったよ!」

 彼は、大きく深呼吸をする。

「結人が作ったスマホゲーム。ほんの少ししか遊べなかったけど……。最高だった!」

 あぁ、やっぱり凄いな。

 僕が携わったゲーム。

 ちゃんと見つけてくれてたんだ。


 僕は、精一杯の笑顔で。

「ありがとう!映介君。」

 やっと、言えた友の名。

 忘れないように心に焼き付け、一歩踏み出した。

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