緊迫する仕事
「おい、しっかりしろ。大丈夫か!?」
俺は、急いで案内人を背負い、ある人の所へ向かった。
背中から伝わってくる、冷たさ。
なんで、こんなに軽いんだ?
必死に呼びかけているのに、返事は苦しそうな呼吸だけ。
何が起きているのか分からない。
「もう少し頑張れ。笠木さんのところ、もうすぐ着くから。」
無我夢中で走る。
言いようのない不安から逃げるように。
どうして、見て見ぬふりをしたんだ。
俺は、気づいていたはずなのに。
ただ押し寄せてくる後悔を振り切るように、1つの扉を蹴り飛ばした。
「笠木さん!」
「うわ!びっくりし……ってどうした!?」
前触れもない突然の来訪に、跳ねる笠木さん。
しかし、案内人の姿を見て、瞬時に異常事態を直感したようだった。
「こいつ、無茶しやがって!映介、そこのソファに寝かせろ。」
「了解!」
笠木さんは、山積みになった書類たちを勢いよく払いのける。
俺は、ゆっくり降ろしながら、案内人を寝かせた。
「あの、急に右目から血を流して。それで……」
やべぇ……。
全然、口がまわんねぇ。
「落ち着け、深呼吸。」
笠木さんに、優しい声でなだめられる。
大きく息を吸い、吐く努力をする。
だが、なぜかできない。
笠木さんは、大きな溜息をつく。
「まぁ、何となく想像はついてる。心配すんな。」
「いや、心配すんなって言われても。」
頭の中がぐちゃぐちゃだ。
「焦んな。たぶん、しばらくは目を覚まさん。それに、安心しろ。」
「安心って、できるわけねぇだろ!」
「眠ってるだけだから!」
笠木さんが、珍しく真剣な顔で怒鳴る。
思わず動けなくなる。
だが、それが良かった。
おかげで、我に返ることができたから。
「す、すみません。」
「いや、むしろ悪いな。」
笠木さんが、案内人の額に手を当てる。
そして、目を閉じ何かを見ているようだった。
「ふっ……。なるほどな。」
額から手を放し、俺の顔を真剣な目で見る。
そして、何かを決意したように、一言。
「ついてこい。」
俺は、ただ後ろから追うしかなかった。
案内されたのは、はじめて訪れる部屋。
中に入ると、壁中に規則正しく敷き詰められた本が並んでいる。
床は逆に、様々な色表紙の本たちが散乱していた。
埃のせいだろうか?
思わず咳き込んでしまう。
「ガハハハッ!あいつの掃除嫌いはお墨付きだな~。」
「掃除嫌いって……ここは、もしかして?」
「そう!あいつの部屋。」
「えっ!?」
予想外だった。
掃除ができないのは、分かっていたが。
本に囲まれた部屋は衝撃だった。
「あれ?意外そうな顔してんな。」
「まぁ、生活感はなさそうとは思ってたけど。」
そして、黄色い表紙が映える本を手に取る。
無意識に開くと、そこには……。
「かつおぶし様?」
中には、俺にも見せてくれた優しい猫視点の記憶がつづられている。
思わずほかの本も手に取る。
「これは、三島様。こっちは……。」
そう、この映画館にお越しくださった方々の記憶。
すべてが書き記されていた。
「どういうことだ?」
そして、見惚れてしまうほど美しい紅色の本を手に取る。
「こうなっちまったからな。おまえさんにも、知ってもらおうと思って。」
「何を?」
「案内人との、出会いの物語を。」
あまりにも静かな目。
俺は、吸い込まれそうになる。
きっと、これを知ってしまったら、変わってしまうと直感する。
だが、不安はなかった。
脳裏に呼び起こされる。
案内人との、他愛もない日々を。
「教えてください。」
俺は、紅色の本を両腕で強く抱きしめた。




