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ようこそ、ゴーストシアターへ!  作者: 乙葉


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干渉の意味

 部屋が明るくなると、仁藤様と飯島様の姿が消えていた。

 衝動的だった。

「見習い!怪我はありませんか?」

 口から飛び出した言葉。

 あまりの勢いに、自分でも驚いてしまった。


「お、おう。大丈夫。」

 見習いは、尻もちをついた体勢で、無事を知らせる。

 良かった。

 無事だった。

 心の底から安堵する。

 こんなに肝が冷えたのは、いつ以来だっただろうか?

 あれ?

 そんなこと、あったかな?


 私は、手を差し出す。

 彼は、ニコっと笑い、つかみ立ち上がった。


「にしても、マジでビビったわ。いやぁ、思い出して良かった。」

「本当にそうですね。」

「ファインプレーだったろ?」

 彼の直感は凄い。

 野生動物かと錯覚するほどの、危機察知能力。

 きっと、私には分からなかった。


「助けられましたね。ありがとうございます。」

 私は、素直に感謝を伝える。

 すると、彼の表情は太陽のように明るく笑いだした。

「なんか、照れますなぁ。」

 あぁ、心地が良い。

 私は、床に投げたモノクルを拾う。


「では、飯島様の今後を見てみましょうか?」

 そう、いつもの様に。

 だが、彼からは心配の言葉が投げかけられる。

「大丈夫か?なんか、さっきキツそうだったみたいだし。」

「おや、これは。嬉しいですね。」

 やはり、見習いは何かに気づいている。

 だが、まだ。

 まだこのままで。


「問題ありませんよ。では、はじめます。」

 私は、彼の心配をよそに、飯島様の記憶を覗いた。


「飯島様は、この後。活動休止に入ったようです。原因は、やはりストーカー事件ですね。」

 犯人の仁藤様は現行犯逮捕の直後に逃走し、車に轢かれてこの世を去った。


 このまま続けるのは精神的に危険があるということで、活動休止が決まった。

 飯島様は、幼い頃から朝の放送で活躍するアイドルヒーローのアニメに憧れていた。

 「私もキラキラした女の子になって、皆を笑顔にしたい!」

 そんな純粋な思いで、芸能界に飛び込んだ。


 だが、この世界は厳しい。

 どんなに誠実に向き合っても、成果が出ないことも多い。

 そこで、握手会の時。


 「○○さん、今日もありがとう!」


 「○○くん、髪型変えたの?かっこいいね。」


 「また、会いたいな。○○ちゃん。」


 すべての顔と名前を覚えた。

 そして、些細な変化を見逃さず褒めた。

 ほしい言葉を沢山並べた。

 それが功を奏したのか、根強いファンが増えていった。


 しかし、裏目に出たのだろう。

 彼女は、今回のことで人間不信に陥ってしまったらしい。

 しばらくは復帰するのが難しそうだ。

 彼女は、ただがむしゃらだった。

 ヒーローも、休息の時がないと誰かを救えない。

 今は、一息つくとき。

 次また、誰かを笑顔にするために。


「以上となります。あ、今回の件ですが、目覚めの悪い悪夢として彼女の記憶を処理しておきました。」

「そんなことも出来んのかよ。怖!」

「どんな形にせよ、気持ちの良いものではありませんからね。」

 私は、モノクルをかけなおす。

 すると、見習いは何かを思い出したように椅子を叩いた。


「あ!そう言えば、記憶に干渉?あれ、何やったんだよ。いつもと雰囲気違ったから。」

 彼は、目をキラキラさせながらせがんでくる。

 まぁ、少しくらいは良いかな。


「非常事態だったので。あなたの塗り替えた妄想ですよって分かるように、記憶の中の人物に成り済ました。」

「な、成り済ます?」

「はい。今回は、仁藤様を捕まえた警官に。」

「すげぇ。」

「記憶は、書き換えられますからね。」

 そう、改変できるのだ。

 変えることができれば、失うことだって。


 そう、私みたいに。


 「では、このぐらいにし……っ」


 次の瞬間、何かに脳を締め付けられるような痛みに襲われる。

「うっ……。」

 急に視界が揺らぎ、力が入らなくなる。


 そして、フラッシュバックする。

「○○さん、私、観てみたいです。」

 コロコロした可愛らしい、女性の声。

 君は、誰なんだ?


「しっかりしてください!」

 のどが切れそうになるほどの悲痛な声。

 泣かないで。


「お前、あの子のことどう思ってんだよ。」

 茶化すような男の声。

 教えませんよ、恥ずかしいから。


「お国のためだ。」

 冷酷な声。

 そして、膜がかかったように響く耳鳴り。

 鼻にこびりついて離れない、血の匂い。


 あまりの激痛と、脳裏に映し出されるノイズ混じりの映像。

 吐きそうになる。

 そして、最後に映し出されたもの。

 真っ暗な闇。


「おい!案内人!」

 誰かの声が聞こえる。

 立っていられなくなり、思わず膝をつく。

 右目から、生温かい何かが流れている。

 床に垂れたもの。

 赤い。

 これは……血?


「しっかりしろ!」

 どんどん、声が遠くなっていく。

 私は、耐えられない痛みに抗えず、意識を手放した。

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