表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ようこそ、ゴーストシアターへ!  作者: 乙葉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/50

変劇

 俺は夢の中にいる。

 そう錯覚させるほど、趣のある場所で目が覚めた。

 そこには、厨二心(ちゅうにごころ)をくすぐるモノクルをかけた男性。

 隣には、逆に馴染みのあるポロシャツを着た男がこちらへ向かってきた。


「ようこそ、お越しくださいました。ゴーストシアターへ。」

 ネーミング最高かよ!

 俺は、思わずテンションが上がった。

 ここで、愛ちゃんの写真集とか撮影してくれないかな。

 きっと、異世界から飛び出したような可愛くて素敵な姿が見られる。

 そんなことを想像していると、「お~い」と呼ぶ声で我に返った。


「こいつ、全然あんたの話聞いてないみたいだぞ。」

 ポロシャツの男が、俺の顔面スレスレで手を振る。

 驚きのあまり、思わず後ずさりした。

「な、なんだよ!」

「あ、やっと気づいた。」

 ポロシャツの男は、モノクル男の隣に並び立つ。

 それを合図に、自己紹介を始める。


「この度はようこそ。仁藤 庄司(にどう しょうじ)様。私は、ここの案内人をしております。そして、先ほど手を振っていたのが成見 映介です。以後、お見知りおきを。私のことは、好きにお呼びください。」

「へぇ。すげぇ。」

 思わず感動してしまった。

 スマートなしぐさ。綺麗な言葉遣いに異世界を感じさせる。

 最高かよ。


「で、ここは何?もしかして、異世界転生でもしちゃった?」

「い、異世界転生?」

 案内人は、聞き馴染みがないのか、

 素っ頓狂な表情をしている。

 すると、成見がやれやれと言わんばかりに解説する。

「こいつ、オタクだな。異世界転生っていうのは、いわゆるあれだ。死んだら別の世界で無敵だ~!みたいな。そういう物語が流行ってんだよ。」

「なるほど。それは、感慨深い。だから、仁藤様は嬉しそうになさっているのですね。」


 はぁ、嬉しそう。

 俺が?

 まぁ、感動してないと言ったら嘘にはなるが……。

「で、実際どうなの?」

「大変失礼いたしました。それでは気を取り直して。」

 案内人は、少し咳払いをする。

「ここは、人生で一度だけ訪れることができる映画館です。ご覧になれるものは、今までで一番良い思い出。もし、一緒にご覧になりたい方がいらっしゃいましたら、ご招待することも出来ます。ぜひ、1本。いかがでしょうか?」


 うわぁ。

 マジか!

 ファンタジー世界に来た時のまるでナビゲーターみたいじゃん。

 テンション上がる。

 しかし、次の言葉でこのテンションがどん底に落とされる。


「で、あんたはなんで死んだわけ?ここに来るのは、そういうやつらだから。」

「あ、見習い!そんな失礼な言い方はよくありませんよ。仁藤様、大変申し訳ございません。」

 目の前で、現実味のないやり取りが耳に入ってくる。

 は?俺が死んだ……だと?


「いや、それじゃ。ガチで転生の主人公みたいじゃん。」


 冗談のつもりだった。

 しかし、案内人は優しい笑顔で容赦なく現実を突き付けてくる。


「そうですね……。今から、5時間ほど前です。何か焦っていたのでしょうか?大通りへ出た瞬間、事故に。」

 焦る?

 事故?

 何が?

 案内人と目が合う。

 その瞬間、俺に起きた出来事が噴火するように溢れてきた。


 それは、俺が推してやまない。

 アイドルグループ「ハニーレモンバニラ」の握手会に参加したとき。

 大好きな飯島 愛(いいじま あい)ちゃんに会い、有頂天だった。

 夢の時間はあっという間。

 確か、日は落ちて満月が眩しいぐらいに照らしていた。

 夜風を心地よく感じながら、家路に向かおうと会場近くで信号待ちをしていた。

 すると突然、女性の悲鳴が聞こえ、振り向く。

 そこには、黒ずくめの男性に腕を引かれる愛ちゃんがいた。

「キャー!」

「愛ちゃん!?」

 僕は、大声で叫び体当たり。

 そして、逃げていく男を全力で追いかけ……。

 無我夢中だった。

 誰かが叫ぶ声。

「やめて!」

 耳を刺すような、ブレーキをかける音。

 気づいた時には、白い光に包まれていた。


「え……。」

 言葉が出てこない。

 なぜなら、こういうシチュエーションはアニメで何度も見ていたから。

 こういうのは、現実にも起きるのか?

 あまりにも綺麗なシナリオのようで、心臓の音がうるさく聞こえた。


「動揺なさっているところ、大変申し訳ございませんが。どなたかと、ご覧になりたい思い出などございますか?」

 案内人が優しく笑いながら声をかけてくれる。

 誰と、思い出を見る?

 映画館。

 ゴースト。

 本当に物語の中に飛び込んだようなワードばかり。


 だが、急に脳裏に浮かんだ一人の人物。

 俺は、動揺を払拭するほどの歓喜を覚えた。

 そうか、これは良い。


「では、この方を。ハニーレモンバニラの愛ちゃん。」

「ハニー?れ、レモン。愛ちゃん?」

 案内人が、意外にもしどろもどろになっている。

 すると、助け舟を出すように成見が割って入る。

「ハニーレモンバニラっていうアイドルグループ。飯島 愛だろ?」

「おや?見習いは知っているのですか?」

「いや、SNSでダンスがバズったかなんかで。」

「へぇ~。」

 最初見たときから、浮世離れしているとは思っていたが、言動を見ると余計に説得力が増す。

 俺の可愛い推しのことを知らないなんて!

 だが、俺は優しい。

 今宵は、とことん彼女の良さをこの思い出で語ってやろうじゃないか!


「あの、1点確認となりますが。」

 案内人は、人差し指を立てながら質問をする。

「何?」

「飯島 愛様は、あなたのことをご認識されていますでしょうか?」

「は?」

 どういう意味だ?

 俺が知っているだけではダメだというのか?

 しかし!

 ここは、安心せよ!

「問題ない!握手会常連だし。何なら、認知もらっている!」

「認知って、マジかよ……。」

 成見の顔が引きつっている。

 この表情は、何を示しているのか知っている。

 きっと、この言動に引いているのだ。

 まぁ、慣れたもんさ!

「それに、俺は何度も彼女を助けたこともある。家も知っているしな。だから、大丈夫だ!」

「なるほど。私には難しいことばかりですが、かしこまりました。」


 案内人は、こちらへと黒く大きな扉の前に案内してくれる。

「では、ごゆっくり。」

 俺は、ノブを握りしめ勢いよく開く。


「なぁ、何か嫌な予感がするんだけど。」

「え……。」

 かすかに後ろから、ふたりの会話が聞こえる。

 しかし、俺はお構いなしに、一歩踏み入れた。


 規則正しく並ぶ、席の中央に一人の女性が座っている。

 愛ちゃんだ!

 俺は、小走りで近づく。


「愛ちゃん!さっきぶりだね。大丈夫だった?」

「あ、あなたは……。」

 愛ちゃんの声が僅かだが上擦っているように聞こえる。

 そうか、そんなにあの男に襲われたのが怖かったのか。

「怪我はない?」

 彼女は、無言で首を縦に振る。

「そうか!よかったぁ。凄く心配だったんだ。」

 俺は、目の前にいる天使の姿に、思わずにやけてしまう。

 あぁ、やった。

「さぁ、一緒に観よう。俺、愛ちゃんと二人きりで何かするのが夢だったんだよ。」


 部屋がだんだん暗くなる。

 そして、大きなスクリーンに光がともろうとした瞬間だった。


「助けてください!」


 愛ちゃんが急に叫びだす。

 顔を赤らめながら必死に。

「何を言っているんだ。大丈夫だよ。ここには、酷いことをする人なんていない。」

「いや、来ないで!」

 彼女は、腰が抜けそうになりながらも僕から離れようとする。

 え……。どうして。

 俺は、思わず彼女の腕を強く掴んだ。

「ほら、安心して。俺が守って……。」

 次の瞬間だった。


「離せ!変態野郎!」


 ものすごい勢いで、席を飛び越え俺と愛ちゃんの間に割って入る。

 そして、成見は彼女を庇うように立ちはだかった。


「思い出したよ!お前、アイドルストーカーで一度逮捕された奴だろ!」

 はぁ?ストーカーって。

 俺が?

 まさか、無いない。

 何なら、助けた側だよ。

「失礼だな、お前。何勘違いしてんだよ。」

 俺は、苛立ちのあまり舌打ちしてしまう。

 あぁ、なんで分かってもらえないんだ!

「せっかく、愛ちゃんとデートできると思ったのに。邪魔すんじゃねぇ!」

 感情が抑えきれず、握りしめた拳を振り上げる。

 成見は、咄嗟に背を向け愛ちゃんを守るように抱え込む。

 怒りにまかせ振り下ろそうとしたときだった。

 後ろから、何者かに握り締め、止められる。

「おやめください。」

 あまりにも、冷たく低い声。

 振り向くと、冷ややかな目の案内人がいた。

 そして、徐々に握られる手がギシギシと音を立てるように痛みが走る。

「い……。」

 案内人は、隙を見逃さなかった。

 俺は、席へ叩き落とすようになぎ倒される。

「おい、客に何すんだ!」

 だが、クレームは受け付けないと言わんばかり。

 案内人は、モノクルを勢いよくはずす。

 そして、容赦なく左手で俺の目を覆うように押さえつけられる。

「やめろ、どけ!」

 力の限り暴れまわろうとする。

 しかし、健闘虚しく……。

「規則違反に基づき、記憶に、干渉する!」

 案内人が呪文のように言い放つ。

 その瞬間、まるで暗く冷え切った海に落とされるように、溺れていくのを感じた。


 ――――――――――


 目をあけると、そこは握手会の会場。

 あれ?

 今まで何を。

 確か、そう!

 会いに来たんだ。

 愛ちゃんに。

 空を見ると、満月が眩しいくらいに照らしている。

 そうか、帰りなのか。

 俺は、会場近くで信号待ちをしている。

 すると、女性の叫び声が聞こえた。

 振り向くと、そこには黒ずくめの男に襲われている愛ちゃんの姿。

 これは、助けないと。

 全力で走り、男に体当たりをする。


「愛ちゃん、大丈夫?」

 彼女は、怯えたように一歩下がる。

 そうか、突然襲われたせいかな?

 俺は、彼女に手を差し伸べる。


 その瞬間だった。

 警察官だろうか?

 俺の腕をつかむ。

 氷のように冷たい声だった。

「それは、キミではない。」

「え……。」


 真っ暗な闇に包まれる。

 そして、記憶が剥がれていく。


 愛ちゃんの笑顔。

 握手会。

「庄司さん!今日もありがとう。」


 その全部に、ノイズが走る。


 違う。


 違う!


 視界が戻ると、俺は地面に倒れこんでいる。

 はぁ?なんで?

 やっとの思いで起き上がろうとすると、飛び込んできたのは警察官に保護される愛ちゃん。

 そして、別の警官が俺を取り押さえていた。


 ――――――――――


 なんだこの悪夢は!

 この、全身から震える感覚に恐怖を覚え、思わず手を振り払う。

 勢いのあまり、案内人さんを押し払った。

「案内人!」

 成見の叫ぶ声が聞こえる。


「心配ありません。それより。」

 案内人は、肩で呼吸するように上下させている。

 なんとか整えようと、胸を押さえながら放たれた言葉は、予想していないものだった。

「あなたの記憶は、真実でない。妄想だ。」

 はぁ?妄想?

「何を言ってんだよ?」

 そんなはずがない。

 だって。


「あなたは、飯島様のことを思うあまり、夢見ていましたね。お近づきになりたいと。」

 夢見ていた?

 意味が、分からない。


 だが、一番信じてほしかった人物の言葉で、夢から強制的に目覚めさせられた。

「この人。ずっと、私のことを。家まで来て……。す、ストーカーです。」

 愛ちゃんから放たれる。


 そして、急に呼び起こされる。

 黒ずくめの人物。

 焦って走り出す。

 何かから逃げるように。


 そう、全て俺の行動だった。


 「え……。」

 受け入れたくない。

 だが、思考が全く追い付かない。

 俺は、雷に打たれたかのように痺れて動けなくなってしまった。


「大変申し訳ございませんが、強制退館となります。お引き取りを。」


 案内人の言葉を合図に、部屋が暗転する。

 俺は、そのまま暗闇の中をさまよい続けた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ