5作品目 改演
力の使い過ぎなのだろうか。
風間様の問い。
「あなたのお名前は?」
追い打ちをかけるように、見習いの言葉が蘇る。
「いつか教えてくれよ。」
あの日以来、頭痛に悩まされている。
軽いものもあれば、しばらく動けなくなるものまで。
そして、時折聞こえてくる、顔の見えない男女の声。
私は、このふたりのことを知っているような気がする。
でも、分からない。
今までこんなことなかったのに。
見習いになるべく気づかれないように繕うのに必死になる。
なるべく軽く、平然を装うように。
「おい、最近顔色悪いな。」
「え?」
顔を上げると、そこには見習いが箒をもって立っている。
「何がです?」
トーンを少し高く声に出す。
これも、今まで身に着けた偽る術だ。
しかし、彼には通用しないようで。
「無理すんなよ。あれ以来変だぞ?」
心臓が、嫌な音を立てた気がした。
あぁ、さすがだ。
よく気づく。
だが、悟られるわけにはいかない。
なんとか冗談を絞り出す。
「そんな、変だなんて。私も、あなたと同じようなものですから、顔色なんて変わりませんよ。」
「だから、そういうのはよせって言ってんだろ。胸が痛くなるから。」
「動かない心臓がですか?」
「だから、やめろって。」
よし、この調子だ。
なんとか誤魔化していく。
あまり使わない表情筋を駆使して、何でもないと演じていく。
「ほら、見習い。手を動かしてください。」
私は、目線を逸らそうと、掃除をするよう促す。
しかし、これが逆効果で。
じっと、私の顔を見つめてくる。
思わず恥ずかしくなり、私が目を逸らしてしまった。
「なぁ、ちょっと教えてほしいんだけど。」
「なんです?」
「なんで、俺の名前。呼んでくれないんだ?」
「は?」
これまた予想外な。
「いやだって、あんたの名前を教えてくれないのは、何か理由があんのかなって。でも、俺の名前は分かるだろ?しかも、客の時は成見様って呼んでたじゃん。でも、今は見習いだ。たまには呼んでほしいなって。」
「え、何それ。ちょっと気味が悪いです。」
「おい、失礼だぞ。」
名前を呼ぶ。
なぜか、怖い。
呼ぶと、目の前から消えてしまいそうで。
だが、これも知られるわけにはいかない。
なんだか恥ずかしいから。
気づけば、見習いが傍にいることが当たり前になっている。
知りたいようで知りたくなかった事実。
今まで、こんな風に名前を呼ばれたいと思われたことなど、あっただろうか。
私は、恥ずかしくなり好きでもない掃除道具を手に取った。




