本能が残すもの
大きく翼を広げて飛び立つ姿。
少し、羨ましいと思った。
思うがまま、感じるまま。
外へあこがれ、一緒にいたいと願った。
限られた世界の中で。
鳥かごにいるのは、きっと自分だと思わず重ねてしまう。
記憶の曖昧さが、鏡のようで胸を締め付けられた。
ふと、隣に立つ見習いを見る。
不思議と安心してしまった。
その瞬間、視界が一瞬揺らぐ。
あれ?
思わず立ち眩みで、見習いの肩を掴んでいた。
「おい!どうした?」
慌てて身体を支えてくれる。
いやぁ、久しぶりに使いすぎたかな……。
「大丈夫です。今日は、慌ただしかったのでつい。」
なんとか誤魔化そうと、疲れたと言い訳をする。
「本当か?少し顔色も悪いぞ。」
見習いが、心配なのか掴む手が強くなる。
脳が絞られるような痛みに襲われる。
しかし、なんとか悟られないように取り繕った。
「そんなに強く握られたら痛いですよ。」
「あ!悪い。」
大丈夫。
なんとかなっている。
「それにしても、大変でしたね。あなたが思いっきり、私の頭を殴ってくるとは。」
「あれは、不可抗力だよ!」
「そのせいで、目眩が~。」
「そんな冗談が言えるなら心配ないな。」
ふざけるなよ!と言わんばかりの表情をしている。
よし、これで大丈夫だ。
私は、なんとか痛みに耐えながら、話を進めた。
「そう言えば、ピーちゃん様と鈴木様の記憶。気になりませんか?」
「確かに気になる!だって、嵐みたいに凄すぎて。訳が分からない!」
「あなたは、そういうと思いました。」
見習いは、早くとせがむような目で見つめてくる。
私は、そっとモノクルを外し、ゆっくり目を閉じた。
「鈴木様は、ペットショップで働いていたようですが……。お辞めになられたようです。」
動物が大好きで、近所にあるペットショップでアルバイトをしていた。
可愛い動物たちに囲まれて、最初は天国のようだった。
しかし、ペットショップはあくまでショップ。
犬、猫、鳥と皆が商品なのだ。
可愛さをアピールし、新しい家族として迎え入れてもらう。
それが、どうしても難しかった。
動物は、命。
命をお金で買う。
この行為に疑問を感じるようになったころ、ピーちゃん様と出会った。
もともと体が弱かった影響で、つけられた値段は安価。
それでも、金額の安さでは難しい命の天秤が、一緒に生きる縁を遠ざけた。
鈴木様は、どうしても目が離せなくなり、毎日声をかけた。
名前も、ピーちゃんと名付けた。
ゲージを開けると、真っ先に飛び込んでくる。
名札をかじるのが大好きで、沢山ダメになった。
でも、新しいものを何度も申請することは苦にならなかった。
肩に乗せながら、掃除をする。
一緒に開店準備をする時間が、実は一番楽しみにしていた。
彼女も、ピーちゃん様と一緒にいたい。
そう決意して、実は家に迎え入れる準備を進めていた。
「ピーちゃん。あと少しで、家族になれるよ!」
そう伝えいた日の夜だった。
閉店後、いつもの様に動物たちの健康確認をする。
すこし、ピーちゃんの元気がないような気きがしていた。
なぜなら、声をかけても「ピーちゃん!」と大きな返事をしない。
「もしかして、もう寝ちゃったのかな?」
鈴木様は、なるべく音をたてないように、片づけを済ませ帰り際に小声で挨拶をした。
「ピーちゃん、また明日。おやすみ。」
これが、最後の会話。
次に日には、息を引き取っていた。
もともと虚弱体質ではあったが、インコのような小さな動物たちは突然別れが訪れる。
分かっていたはずなのに。
「ごめんね。もっと早く。気づいていれば、目を離さなければ。」
彼女は、もっと早く家族として迎え入れることができればと後悔した。
ペットショップを辞めた。
理由は、ピーちゃん様を思い出し仕事ができなくなってしまうから。
だが、新たに目標も出来た。
現在、獣医師になるための学校に行くため、勉強しているようだ。
今度は、命をお金で繋ぐのではなく、自分の手で繋ぐために。
「以上です。命を救う側になるとは、素敵ですね。」
私は、モノクルをかけなおす。
見習いは、静かに聞いていた。
「命をお金でか……。ペットショップって言われてみればその通りだな。」
「お?何か思うことでもありましたか?」
「いや、小さい頃は犬や猫に会いたくて、良く連れて行ってもらったなって。ただ、可愛いなぐらいだったから。でも、値札が付いている金額をみるとさ。高いな、安いなって。」
「そうですね。」
「人間て、寂しいな。」
もっと、鋭い言葉が飛んでくるかと思ったが。
寂しいを選ぶとは、やはり優しいですね。
「では、この映画にタイトルをつけるなら、何に?」
「そうだな~。」
見習いが、両手でこめかみをグルグルさせながら、考え込む。
そして、閃いたようにタイトルを口にした。
「翼をください!どうかな?」
「ピーちゃん様は、翼を持っていますよ?」
思わず突っ込んでしまう。
「いや、一緒にいられるための翼をください!みたいな……。変か。」
「いえ、あなたらしくていいと思いますよ。」
思わず、笑いってしまう。
その翼、私やあなたにもあるのだろうか?
そんなことをふいに思ってしまった。
感慨にふけっていると、また例の頭痛が襲ってくる。
また……、来る。
突然脳裏に、映像が流れ込んできた。
1人の少女が、大きな樽を抱えて飛び込んでくる。
「お水をお持ちしました。」
目の前に、血だらけの男と、軍医らしき人物。
命を救おうと、懸命に走り続ける少女。
思わず見入ってしまう。
薄暗い中、響き渡る苦しむ悲鳴。
耳を塞ぎたくなる。
そこに淡く優しく灯るように、1輪の花があった。
それが、きっと彼女だ。
でも、誰だろう。
顔が見えない。
名前も。
「君は?」
思わず手を伸ばす。
しかし、我に返るとそこには心配そうに見つめる見習いがいた。
「大丈夫か?本当に。」
あ、さすがに気づかれたか。
心臓が嫌な跳ね方をする。
「いえ、何でもありませんよ。」
私は、この言いようのない痛みと、彼から逃げるようにその場を後にした。




