慌ただしい仕事
縦横無尽に飛び回る一羽のインコ。
俺は、机や椅子を時折踏み台にしながら、捕獲を試みていた。
「頼むから、大人しくしてくれ!」
「ピー!」
「ピー!じゃねぇって!」
ダメだ。
早すぎる!
「見習い!今、右へ行きました。いや、左?」
あちこち飛び回るせいで、案内人の指示も追いつかない。
インコは、まるで俺たちで遊んでいるかのようだった。
「あ……。」
インコが、案内人の頭にとまる。
そして、ゆっくり毛づくろいをはじめた。
今がチャンス!
俺は、「動くな、静かに」と身振り手振りのジェスチャーをする。
案内人は、任せろと瞬きをする。
よっし。
そっと、ゆっくりと。
音をたてないように、近づく。
よし、今だ!
俺は、ものすごい勢いで両手を伸ばした。
しかし、白い羽が、俺の指先をすり抜ける。
瞬く間に、バタバタ~と寸前で飛びだしてしまった。
あ、やばい。
ゴッ!
鈍い音がした。
俺の持て余した手は、しっかり案内人の頭に直撃。
次の瞬間、俺たちはドミノのように倒れていた。
「何するんです……重い。」
「悪い。しくじった。」
インコとの追いかけっこ。
埒が明かない。
肝心の、捕獲対象はというと。
倒れた俺の腰辺りで、優雅にまた毛づくろいしていたようで……。
あまりの騒がしさに飛んできた映写係の笠木さんが、ファインプレーを見せた。
「よしよし。美人さんですね~。」
笠木さんは、両手で包み込み飛ばないように顔だけ出してインコを抱いている。
「で、お前さんたちは何してんだ?」
「いや、すまない。」
「恥ずかしいので、見ないでください。」
俺たちは、疲労と恥ずかしさで起き上がることができなかった。
案内人は、モノクルをかけなおす。
俺は、服についた埃を払い落とした。
「お前さんたち。いつも思うが……。こういう羽を持ったお客さんへの対処。下手すぎやせんか?」
「仕方がありません。だって、言葉が通じないのですから。」
案内人は、大きな溜息をつく。
しかし、笠木さんはこういう時、なぜか厳しい。
「といってもなぁ。」
促されるまま、周りを見渡すと、せっかく整えていた家具たちが散乱している。
あはは。
こりゃ大変だ。
犯人は、間違いないく俺たち。
「返す言葉もありません。」
俺は、思わず頭を下げた。
「ほら、映介は素直だぞ。お前さんは?」
分が悪くなったのだろう。
案内人も、頭を下げた。
「すみません。」
「よし!分かったならいい。というわけで!後は、よろしくな。」
はいどうぞっと、俺にインコを預けて、映写室へ戻っていった。
「あの……。無い前提で聞くんだけど。」
「無いですよ。」
「最後まで聞けって。」
「鳥かごですよね。残念ながら。」
「だよなぁ。」
俺は、預かったインコを抱えながら、立ち尽くすしかなかった。
「まぁ、ずっと両手がふさがっているのも不便ですからね。はじめましょうか。」
案内人は、こめかみに手を当て集中する。
俺は、ただ静かに見守るしかない。
何か見えたのだろうか?
ゆっくり手を下す。
すると、予想していたようで予想できなかった回答が飛んできた。
「やっぱり、記憶が見えても言葉が通じないのは苦手です。」
「え?」
さっきも通じないって言ってはいたが、マジなのか?
「それ、どういうことだよ。」
「何といいますか……。何をしたいのかなどは何となく分かります。でも、生き物によって記憶容量や覚え方が違いますから。」
「ということは、もしかして。」
「そうです。とどめておける量が多くないどころか、その答えが正しいのかも分からないのです。」
うわぁ。
不味いな。
でも、同時に切ない。
「じゃあ、どうするんだよ?俺、ずっとこのままは流石にキツイ。」
「分かっていますよ。」
案内人は、少し考え込む。
そして、溜息をついた後、目つきが鋭くなった。
あれ?いつもと、違う気がする。
「やるしかありませんよね……。この方を、私に。」
「おう、分かった。」
俺は、優しく。
でも、飛ばないようにゆっくり案内人に渡す。
「見習い。悪いのですが、モノクルを外してくださいますか?」
「え?分かった。いくぞ?」
「よろしくお願いします。」
一瞬にして、空気が緊張する。
俺は、ゆっくりモノクルを外す。
それを合図に、案内人は、頭まですっぽりインコを包み込み、目を閉じた。




