4作品目 奏演
見習いがここへ来て、どれぐらい経っただろうか。
この映画館は、時間の流れが曖昧だ。
だから、正確には分からない。
ただ、1つだけ確かなことがある。
彼が隣にいるのが、当たり前になっていることだ。
最初にお願いした仕事は、映画館の掃除だった。
理由は簡単。
私が、掃除嫌いだから。
新人に任せられるものなんて、この映画館は特に限られている。
一番分かりやすく、誰でもできると思った。
案の定、私より掃除は上手い。
だからだろうか。
彼が来る前と違い、空気が綺麗になった気がする。
少数精鋭のため、基本何でもこなさなければならない。
だから、いくら新人でもお客様がいらっしゃったら、一緒におもてなしをする必要があった。
「1つお聞きしますが、あなたにとって映画館のスタッフ衣装はどんなものでしたか?」
「いきなり、何だよ。」
私の突拍子もない質問に、首を傾げる。
あぁ、言葉遣いが可愛くない。
「お客様がいらっしゃるのに、そんなラフな格好は良くないでしょう。」
「まぁ、確かにな。でも、あんたみたいな燕尾服は無いな。映画館スタッフはもっとカジュアルな格好だぞ。」
「カジュアル?」
「おう、もっと動きやすいが正解かな。」
なるほど。
私の恰好が逆に変なのか。
おもてなしと言えば、こういうフォーマルなものかとずっと思ってたのだが。
「分かりました。では、映写さんにスタッフ衣装をいただいてきてください。あなたが思うイメージで問題ありませんので。」
「了解。」
そして、戻ってきた時の衣装が今の、白ポロシャツに黒いパンツだった。
確かに動きやすそうだが、襟のお陰でラフ過ぎない。
良いなと思った。
彼といると、新しい刺激を貰える。
服装だけではない。
「ふ~ふふふん~♪」
見習いは、鼻歌を歌いながら拭き掃除をしていた。
「それは何ですか?」
私は、何を口ずさんでいるのか興味があった。
気分が良いと、いつも歌っているから。
「ん?あぁ、今の鼻歌か。これは、俺が好きなアーティストの曲。よく遊んでいたゲームのテーマソングでさ。結構有名なんだよ。」
ゲーム。アーティスト。テーマソング。
数多の記憶を見てきた私にも分かる。
10代から30代ぐらいの方に多くみられるワードだ。
だが、実際どういうものなのか、よく分かっていない。
「その、ゲーム?アーティスト?テーマソングとはどういうものですか?」
何気なく出た質問。
映写さんに聞いても分かりやすく教えてくれない。
見習いは、驚きのあまり頭に浮かんだ言葉がそのまま口から飛び出していた。
「えっ!?マジで知らないの?」
「悪いですか?」
「いや、ちょっと意外だっただけ。」
また、悪態の1つや2つ飛び出してくるかと思っていた。
しかし、意外にも彼は丁寧に教えてくれる。
「ゲームは、そうだな……。物語の中に入って遊ぶ感じ。俺、そっちの方が好きだったんだよ。」
「テーマソングは?」
「その作品を思い出す曲かな。 聞くだけで、その時の気持ちまで戻ってくる。あ、ついでにアーティストは作った人な!」
「な、なるほど。」
分からないことも多い。
しかし、気づけば分からないことは自然と聞くようになっている自分がいた。
今までは、記憶を覗いてもなんだろうぐらいで興味がわかなかったのに。
自分でもこの変化に少し戸惑っている。
だが、お客様は待ってくれない。
このついていけているようで、ついていけていないこの感情を隠しつつ、次の準備は着々と進めていった。




