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31 自分の立ち位置

「……ま、こんなところかな?」

「ええ、お疲れ様」


 その後も何曲か弾いた後、ふぅ、と疲れたように息を吐いたジャッドをアデルが労った。そのまま、アデルがリヴィアの方を振り返る。


「それで、どうだったかしら? 聖女、他国の『浄化の乙女』の力を見た感想は?」


 赤い瞳がリヴィアを見つめる。


 ジャッドが何度も演奏し、瘴気を僅かながらにも浄化してくれた。リヴィアは演奏に聴き惚れながらも、じっと彼女のことを観察した。


 だから、今度はちゃんと答えられる。


「今の私には、難しいと思いました」


 リヴィアはアデルの目を見て、はっきりと答えた。


 説明を受けて、実際に瘴気を浄化するところを見させてもらった。抽象的だったアデルの説明が、実際に見たジャッドの瘴気の浄化によって腑に落ちた。


 何かを愛すること。何かを楽しむこと。

 ジャッドが見せた、何かを心から愛したときのあの笑顔。


 それを見て、リヴィアには何が足りないのかよくわかってしまった。


 自分がかつてあんな表情をしたことがあっただろうか。あんな風に笑ったことがあっただろうか。


 思い返してみても、リヴィアには心当たりがない。

 だからきっと、すぐにできるようにはならないだろう。


 ただ、どうして瘴気が浄化できないのか、どうすればできるようになるのか、その手がかりはリヴィアの手の中に落ちてきた。


 あとはこの答えを自分で見つけるだけ。


 何かを得たようなリヴィアの顔を見て、アデルは子供の成長を見守る母親のように目を細めた。


「別に、自分一人で頑張らなくてもいいのよ。他人の言葉に惑わされるのは確かによくないけれど、自分では見えないものを他人に教えてもらうのも悪くはないもの」


 アデルは励ますようにポン、とリヴィアの肩を叩く。

 それから、アデルは少しだけリヴィアから離れた。


「それじゃあ。ジャッドに任せてばかりじゃ悪いから、わたくしも少し浄化していこうかしら」


 パチン、とアデルは手のひらを合わせると、目を閉じて静かに集中する。そのままゆっくりと手を外側に開いて腕をまっすぐに伸ばした。


 まるで、両開きの扉を開くような手の動き。その手の動きとシンクロするように、瘴気が綺麗に晴れていく。


 アデルが両腕を完全に開くと同時に、パチンと小さな音が弾ける。彼女の手が届く範囲の瘴気が完全に浄化されていた。


「……ふぅー。ここの瘴気って固いわね」

「固い?」

「ええ。どこか凝っているっていうか、一筋縄じゃいかない感じ。長い間浄化されなかった瘴気だからかしら?」


 アデルが軽い感じで浄化した場所も、すぐに周りの瘴気が侵食してきて元の状態に戻る。


 瘴気が固い。

 そういう感覚もあるのかとリヴィアはアデルの感想から新しい知見を得た。


 単純に、リヴィアとアデルでは経験が違う。固い瘴気があるということは、柔らかい瘴気もあったりするのかもしれない。

 瘴気や『浄化の乙女』の本には書かれていなかったこと。それらが彼女たちといることで、経験としてリヴィアの中に入ってくる。


 ここロブストフェルスの瘴気の浄化は、ブラウエルドの『浄化の乙女』にはできなかった。事実、今のリヴィアもやり方はわからない。

 それを、エルシエルの二人はほんの僅かでも浄化していた。


 それは二人が経験豊富だから、という理由もあるのかもしれない。だが、兄王であるリオネスやアデルの言う通り、ブラウエルドの『浄化の乙女』の力が弱くなってきているという可能性もある。


 何故、どうして、その理由は? 

 もっと知りたい。もっとできるようになりたい。そんな欲がリヴィアの中に湧いてくる。


 他の三人の『浄化の乙女』がリヴィアに目を向けていることにも気づかずに、リヴィアはギュッと握る手に力を込めた。


「調子はどうだ?」


 ふいに耳に届いた低い声に、リヴィアははたと顔を上げる。少し離れた場所で待機していたはずのウォルターがこちらに合流していた。


「えと……、うん。浄化はできなかったけど、手がかりは掴めた、と思う。もっと色々試さなきゃいけないから、時間はかかると思うけど……」

「そうか。少しでも前に進めたのなら、それでいい」

「うん」


 リヴィアの調子が悪くなさそうなのを確認して、ウォルターはアデルたち三人に目を向ける。ふい、と目を逸らしたのはジャッド。いつも通りオドオドとしているのはセルシュ。そして、アデルはニコリとウォルターに微笑んだ。


 相変わらず、彼女たちの考えは読めない。


 だが、それでも彼女たちはリヴィアの敵ではないのだろう。リヴィアのはしゃぐ声が、少し離れた場所にいたウォルターにも聞こえていたのだから。


 お互いに、何もかもを疑っているわけではないが、完全に信用しているわけでもない。


 それを感じとったウォルターは軽く息をつくと、全員に向けて話し始めた。


「今、見回りに出ていた騎士から報告が入った。ここから少し離れた場所で、魔物の痕跡を見つけたらしい。俺たちは今からその魔物の討伐に赴く。あなた方は早いうちに館の方に戻っていてもらいたい」


 『魔物』という単語に、全員の間にピリッと緊張感が走る。

 かつて相対した魔物を思い出して、リヴィアの体はほんの少し強張った。


「わたくしたちは同行しなくてもよいのかしら?」


 はっきりとした声がウォルターに意見する。リヴィアはそんな堂々としたアデルの姿をその目に収めた。


 魔物を討伐するためには、『浄化の乙女』がいた方が有利だ。

 魔物から噴き出る瘴気はその場にいる者を衰弱させる。なら、その瘴気を『浄化の乙女』が払い続けていけば、騎士は無理なく万全な状態で戦うことができるからだ。


 ただ、今その意見を言えるのはアデルくらいしかいない。ジャッドの浄化の仕方は魔物の討伐向きではないだろうし、リヴィアはそもそも浄化ができない。セルシュはというと今もオロオロとしているだけで、どこか戦場には向いていない気がする。


 ウォルターに対し、堂々と意見できる実力を持つのはアデルしかいないのだ。


 ウォルターはそんなアデルをじっと見て、冷静に聞き返した。


「協力を願う、と請えば、同行してくれるのか?」

「気分次第では構わないわ」


 どっちつかずのアデルの返答。彼女は楽しそうに笑っているが、そこに揶揄いの色はなく、本気で気分次第で協力すると言っているようにリヴィアには見える。


 ウォルターもそれを感じ取ったようで、まるで睨むように軽く目を伏せた。


「……やめておこう。信用できない者といきなり連携するのは危険だ」

「あら、そう?」

「あなた方を守りながら戦闘するよりも、慣れた騎士のみで戦闘している方がずっと楽だ。幸い、と言っていいかはわからないが、こちらは『浄化の乙女』無しでの戦闘に慣れている。危険な目に遭う前に館に戻ってくれ」


 ウォルターの言葉に、アデルは一瞬ジャッドとセルシュの方を伺った。いつも通り、無関心そうなジャッドと、びくりと肩を飛び跳ねさせるセルシュ。


 二人の態度を見て、アデルはどこか残念そうな雰囲気を漂わせながらも笑う。


「では、お言葉に甘えて。わたくしたちは安全な場所に退避させてもらうわね」


 行きましょう、リヴィア様、とアデルが声をかけて、ウォルターたちに背を向ける。あとの二人は声をかけるまでもないようで、当然のようにアデルに付き従ってついていく。


 リヴィアはいつの間にか隣に寄り添っていたエレナを見た。その視線を受けてニコリと微笑む彼女は、きっとリヴィアのしたい方についてきてくれるだろう。


 だからこそ、リヴィアはちゃんと認識しなければならない。自分の立ち位置と、自分のできることを。


 リヴィアは恐る恐るウォルターを見上げる。その黒い瞳にリヴィアに対する失意はない。普段通りの優しい目線。

 それがリヴィアをほんの少しだけ傷つける。


「……私、も、館に戻るね」


 連れていって、なんて言えない。その願いに足るだけの実力は、今のリヴィアにはない。

 以前、魔物に遭遇したとき、リヴィアは何もできなかったのだ。そのときと何も変わらないままで、無理についていって誰かの足を引っ張るような真似はできない。


「ああ」


 それでいい、というようなウォルターの同意の言葉に、心臓が押し潰されそうな感じがした。

 ウォルターから見ても、やはりそうなのだ。リヴィアはまだ何もできない子供。


「多分、以前のようなことにはならない。お前が危ない目に遭うことはないから安心しろ」

「……うん」


 リヴィアの考えていることに気づいているのかどうか。ウォルターは安心させるように言う。


 これから危険な場所に向かうのはウォルターなのに。


「じゃあ、気を付けてね。……行こう、エレナ」

「はい。リヴィア様」

「ああ。そっちも気をつけろよ」


 ウォルターが頷いたのを見届けてから、リヴィアはエレナを連れ立って、アデルたちの元へ向かう。

 帰りの護衛を任された騎士が他の部隊と連絡を取り合い、安全なルートを確認しているのを見ながら、リヴィアはぽつりと呟いた。


「悔しいなぁ……」


 リヴィアにできることはまだない。



   ♢♦♢♦♢♦



「なぁんて、リヴィア様は言ってたけど。何度も言うけれど、焦らなくても大丈夫よ」


 ポン、とクッキーを一つ口の中に放り込んでアデルは言った。


 ここはロブストフェルスの館にある大部屋の一つ。アデルたちには一人一部屋が割り当てられていたらしいが、面倒だから三人一緒がいい、とアデルが主張し、大部屋に移らせてもらったらしい。


 アデルたちを連れた見回りを終えた後、リヴィアは彼女たちの泊まる大部屋に招かれた。とは言っても何かしらのお説教を受けるわけでもなく、ただおしゃべりしましょう、と誘われただけである。


 ポツン、とどこか居心地が悪そうにリヴィアは、小さなテーブルの前に座っている。その隣に座るのはアデルで、壁際のベッドの上に縮こまって座っているのはセルシュ。エレナは扉の前に陣取り、ジャッドは古いピアノの前に座っている。


「正直に言うと、リヴィア様に浄化の方法を教えるの、迷ったのよねぇ」

「……え?」


 あっさりとしたアデルの告白に、思わずリヴィアは困惑の声を上げる。


「だってそうじゃない。リヴィア様って真面目な方だし、楽しむことにも真面目になりそう。と、いうか、楽しまないと皆に迷惑が~、とか考えちゃいそうでしょう? 楽しむことが義務、なんてそんなことあんまりないわよ」


 リヴィアは唖然としながらアデルの顔を見たが、彼女は至って真面目に話している。


 だが、確かに。言われてみれば、そうなのかもしれない。愛せと言われて何かをすぐに愛せるわけでもないし、楽しめと言われてすぐに楽しい気持ちになれるわけでもない。


 たとえ、それが義務だと言われても、今すぐにそんな感情になれるわけがない。


「ねえ、ジャッド。あなたが音楽を好きなのは、何のため?」


 アデルは椅子の背もたれに手をかけて振り返り、ピアノの埃を払っていたジャッドに声をかけた。ジャッドはピアノの鍵盤の蓋をなぞりながら、ちらりと視線を上げてすぐにピアノに戻す。


「さぁ? 好きだったから。ただそれだけ」

「例えば、瘴気を浄化するためとか?」

「……。めんどくさいなぁ」


 ジャッドは少しイラついたように溜息をついた。


「瘴気の浄化だとかそんなのは関係ないよ。僕が聖女としての力を持っていなくても、僕は音楽を好きになってた。たまたま聖女だったから音楽に多く触れられる機会を得られた。全部、それだけのことだよ」


 ジャッドの言い分はどこか冷たい。瘴気を浄化できるのに、多くの人の役に立つ力があるのに、それを何でもないものだというような言い方をする。

 リヴィアが望む力を、くだらない付属品のような言い方をする。


 嫉妬か、羨望か。この感情を何と呼ぶのか、リヴィアは知らない。だが、黙って聞いて終わり、というわけにもいかない。


「……ジャッドは、どうしてロブストフェルスに来たんですか?」


 リヴィアがジャッドに問えば、彼女はピアノから顔を上げた。


 どこかキツイ言い方になったが、リヴィアはジャッドに対して怒っているわけではない。羨望や嫉妬に身を焦がして、彼女を攻撃するなんて、何もできないリヴィアがしていいはずもない。


 ただ、少し疑問に思っただけだ。アデルと違い、ジャッドやセルシュは『浄化の乙女』としての矜持を持っているようには見えない。

 セルシュはアデルに追従している分、その心情がわかるが、ジャッドはどうしてロブストフェルスに来てくれたのだろう。


 リヴィアの意図を汲んでくれたのか、ジャッドは気を悪くした様子もなく答えてくれる。


「……僕の故郷はね、ここロブストフェルスから瘴気の森を挟んで反対側にあるんだ」


 は、とリヴィアは目を見開く。

 ジャッドの言葉に、リヴィアは昨日ウォルターが言っていたことを思い出した。


 ロブストフェルスの瘴気が濃くなればなるほど、エルシエル側にも影響があるのではないか。そんな話が上がっていたと。


「だから、僕がここに来た理由はただそれだけだよ。君が瘴気を浄化できるかどうかよりも、ここの瘴気をできるだけ浄化したかっただけ」


 ジャッドの答えにリヴィアは一瞬黙り込む。確かに、彼女は『浄化の乙女』としての矜持は薄いのかもしれないが、それでも、瘴気を放っておくような人ではない。


「……。ごめんなさい」


 先ほどの質問はジャッドに対して失礼だったかもしれない。彼女の故郷に対しても申し訳ない。

 リヴィアは謝罪したが、ジャッドは特に気にした様子もなかった。


「別に構わないわよ。ジャッドもリヴィア様に対して冷たかったもの。リヴィア様だけが謝る必要はないわ」

「アデル。どうして君が僕の言葉を代弁するんだい?」


 しれっとアデルがジャッドに軽口をたたく。


 二人のやり取りは少しも深刻そうではない。けれども、リヴィアはすぐにそれを受け入れられそうになかった。


 ワイワイとジャッドと話しているアデルの傍で、リヴィアは顔を伏せる。


「……あの、お茶、いります?」


 突然、聞こえてきた声にリヴィアはパッと顔を上げる。見れば、セルシュがおずおずとティーポットを持って、リヴィアの目の前に立っていた。


 リヴィアがセルシュを見上げれば、彼女は慌ててティーポットで顔を隠した。


「あっ、いえ、必要なければそれでいいんですけどね。ちょっと、落ち込んでたみたいなんで……」


 ワタワタと手が動くことで、カチャカチャとティーポットの蓋が鳴る。それをリヴィアはポカンと見ていた。


「あ、えと……、貰います」

「あ、よかったぁ……。じゃ、なかった。えと、じゃあ、お注ぎしますね」


 オドオドとしたセルシュは、どこか不慣れな手つきでポットからカップにお茶を注ぐ。それからセルシュはこっそりとリヴィアに声をかけた。


「あの……、このお二人はエルシエルでも結構なお力の持ち主なので、あまり気にしない方がいいですよ。他者と比較してもいいことなんてありませんから」

「聞こえてるわよ」

「ヒェッ……」


 セルシュの言葉にアデルが口を挟む。怯えたセルシュがテーブルからザッと飛び退った。アデルはその言動を咎めることもなく、クスクスと笑う。


「ま、全部セルシュの言う通りよ。浄化の仕方も、志も、人によって違うわ。だから、他人がどうとかを考えるよりも、リヴィア様は自分自身のことを考えるべきよ」


 アデルがまっすぐに赤い目をリヴィアに向ける。リヴィアはその視線を受けて、少しだけ考え込んだ。


 皆、リヴィアのことを励ましてくれる。あまり気にするな、落ち込むな、と。きっとウォルターやヒューロットも同じことを言うだろう。


 今までだったら、それを額面通りに受け取ることはできなった。そんなことを言われても、自分のせいだと気に病んでいた。


 けれど、それではきっとダメなのだ。そんなことをしたって意味がない。アデルの言う通り、こんな思考に囚われていたって、前には進めないのだ。


 リヴィアはセルシュの淹れてくれた紅茶を見つめて、それを一気に飲み干した。ふぅ、と一息ついて、リヴィアは心を落ち着かせる。


「あの、協力してくれてありがとうございます」


 リヴィアが深々と頭を下げれば、三人とも軽く顔を見合わせた後、それぞれいつも通りの反応を見せた。


「いいえ。これがわたくしの仕事ですもの」

「わ、私なんかが、恐れ多いです……」

「まあ、なんでもいいのだけど」


 コトリとティーカップを置いたリヴィアに、ジャッドが話しかけてくる。


「ピアノ、触ってみるかい? 好きなものがわからないなら、色々と試してみるのが一番いい。君も音楽が好きなら、僕も嬉しいしね」

「……いいんですか?」

「もちろん。調律はされていないようだけど」


 ジャッドがピアノの蓋を開け、鍵盤を一つ叩くと、どこかくぐもったような音がする。リヴィアには詳しくわからないが、おそらく酷い音なのだろう。ジャッドが顔をしかめた。


「直してもらうのが一番いいんだけど、そういう余裕もないのだろうね」

「あ、うん。確か、昔は普通の貴族の館だったけど、今は前線基地みたいに使われてるってエレナから聞いたことがあって……」


 リヴィアがエレナを見れば、彼女はニコリと笑うばかり。何故か、今日のエレナは会話に混ざってこない。


「だろうね。僕たちのお世話をしてくれるメイドさんも領主の屋敷から呼び寄せたって聞いてるし、ここはそういうところなんだろうね」

「図書室にも寄ってみたけれど、娯楽小説も少なかったわ」


 いつの間にか図書室に入っていたらしいアデルがついでといわんばかりに溜息をつく。リヴィアの方が長くロブストフェルスの館にいるのに、この二人の方がやけにこの館に詳しい。


 それほどまでに、彼女たちの好きなものを探し当てる能力は高いのだ。


 ワイワイと話す二人を見て、リヴィアの心に一抹の不安が引っかかった。


 本当に、リヴィアにもそんなものが見つかるのだろうか。


 その不安を一瞬断ち切るように、大部屋の扉が軽く叩かれる。扉付近にいたエレナが扉を開ければ、そこにいたのはエルシエルの三人についているメイド。


 エレナが対応しているのをアデルたちとともに見ていれば、話し終えたエレナがリヴィアの方に目線を向けた。


「リヴィア様。隊長たちが戻ってきたみたいですが、どうなさいますか?」


 ウォルターが戻ってきた。その言葉にリヴィアは無意識にガタンと立ち上がる。


 と、そんなリヴィアをアデルたちが見ていたのに気が付いて、リヴィアは慌てて取り繕った。


「あ、あの、……少し様子を見てきてもいいですか?」

「ええ、もちろん。魔物を相手にしていたのだから、不安になるのは当然だわ」


 そう言って、アデルは快くリヴィアを送り出してくれる。


「よっぽど、ウォルター様が大切なのね」


 エレナとともに大部屋から出ようとしたリヴィアに、アデルが揶揄うように言う。いたずらっぽく笑うアデルに、ひどく真剣にリヴィアは答えた。


「はい。一番大切なひとです」

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