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19 目覚め

 遠くから声がする。最初はマーサが呼んでいるのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。


 聞いたことのあるような、そうでもないような声。

 呼ばれているのは誰かの名前のような、そうでもないような。


 ボンヤリとしたまま、リヴィアは軽く手を握る。寒くて、冷たくて、痛いということしかわからなかった手が、ほのかに暖かい気がしたから。


「……ー!」


 声がする。先ほどよりもはっきりと、誰かを呼んでいるのがわかる。


 暖かいと感じた手に痛みが走った。刺すような痛みではなく、強く締め付けられるような痛み。

 その刺激が、さらにリヴィアの思考を浮上させる。


「……ィー!」


 呼んでいる。呼ばれている。

 握られた手が熱を持って、リヴィアの思考を目覚めさせる。

 体が揺れる。暖かいのは手のひらだけではない。他の部分も少しずつ熱を持ち始める。


「……ヴィー! しっかりしろ!」


 今度こそ、はっきりと聞こえた呼びかけに、リヴィアは目を覚ました。



   ♢♦︎♢♦︎♢♦︎



 再び開かれた視界は、水の膜が張られたように輪郭がぼやけている。

 見えるものは白と黒。それ以外の色はよくわからない。

 けれど、視界の大半を占める黒は、先ほどまでリヴィアを覆っていた瘴気の黒でないことはわかる。


「ヴィー! 俺がわかるか!?」


 静かな世界だった。雪の音とリヴィアが魔力を使う音以外何も聞こえなかった。

 先ほどまで静寂が満ちていたこの場所で、リヴィア以外の人の声が聞こえる。


「……レイ?」


 掠れた声が出た。


 ぼやけた視界は徐々にはっきりとしていく。

 乱れた黒髪。黒曜石の瞳。その上の傷跡。黒い騎士の上着と、白い雪が積もった体。


 ギュッと手を握って体を抱き起こしてくれたのは、リヴィアが最後まで思い返していたウォルターだった。


 彼は一瞬呆けた顔をしたあと、安堵に顔を歪めた。

 は、と彼の口から白い息が漏れる。


「……よかった。生きてる」


 確認か、独り言か。そのどちらともつかない言葉が項垂れた彼の口からこぼれ落ちた。

 脱力するように彼の額がリヴィアに肩に押し付けられ、リヴィアの手と体を支える腕に力がグッと込められる。ほんの少しの痛みと熱が彼の腕から伝わってくる。


「……なんで?」


 リヴィアはまだ上手く働いていない頭で疑問を口にする。思考は霞がかかったようにぼんやりとして、状況が全く読み込めない。

 まだ夢の中にいるような感覚で、リヴィアはウォルターに問う。


「なんで、レイがここにいるの?」


 ハッとしたようにウォルターが顔を上げた。それからすぐに怒ったように眉間に皺を寄せる。


「探しに来たからに決まってるだろう! 何故まず先に俺に話を通さなかった!? なんで勝手に外に出た!? ここは危険な場所だと身を以て知ってるだろう!」


 ウォルターが怒っている。レイが怒っている。

 けれど、そのことに心が何も動かないのは何故だろう。恐怖も、悲しみも、申し訳なさも、何も感じない。

 彼の言葉も、怒りも、全てがリヴィアの胸の内をすり抜けていくようだ。


「とにかく帰るぞ。治療をして、状況を確認して、話は全部それからだ」


 ウォルターは怒りを一度飲み込んで、リヴィアの腕を引き、体を起こそうとする。

 リヴィアはそれを彼の体を押して拒んだ。


 ずる、とウォルターの腕からリヴィアの体が雪の上に滑り落ちる。

 そのまま起きあがろうとする気配のないリヴィアを、ウォルターは呆然と見ていた。


「リヴィア? 一体何して……」

「やだ」


 ウォルターの問いかけに被せるように、リヴィアは否定の言葉を口にした。

 ぐ、とウォルターが腕を引くが、それを拒否するようにリヴィアは後ろへ後ずさる。


「私、帰りたくない」


 リヴィアはくしゃりと顔を歪めた。


 何故、こんなときになって初めて、我儘を言えてしまうのだろう。今の今まで、自分の意思を誰かにちゃんと伝えることができなかったのに。

 何故、こんな我儘だけは言えてしまえるのだろう。


 一度溢れた言葉はリヴィアの口から次々にこぼれ落ちていく。


「だって、誰も私に期待なんてしてない。私がいなくなって喜ぶ人がたくさんいるの。私に帰ってきてほしいなんて思う人は誰もいない。帰ったってどこにも居場所なんてないよ」


 溢れて止まらない言葉とともに、涙もこぼれ落ちる。


 どうしてこんなことを彼に言わないといけないんだろう。

 どうしてこんなにも彼に迷惑をかけないといけないんだろう。


 リヴィアの言葉を聞いた彼が何と言うか、すぐに予想がつくのに。それによってもたらされる結果が、リヴィアには何よりも耐え難い。


「そんなことはない! 俺はお前に帰ってきてほしいと思ってる!」


 ほら。彼は優しいから、きっとそう言うと思った。


 ボタ、と溢れる涙とともに、リヴィアはウォルターが腕を引く力に対して必死で抵抗する。


 帰ったところで、一体何が変わる?

 リヴィアが役立たずなのは変わらない。何もできないのも変わらない。


 何も変わらない。

 だって、こんな役立たずのせいで誰かが傷つくのも、そんな役立たずなんていらないと誰かが追い出そうとするのも、何一つ変わらなかったじゃないか。


 自分(リヴィア)を庇うせいでまた誰かが傷つくのなら――。


「私、帰らない」


 いつものようなおどおどとした声ではない、はっきりとした言葉。いつにない強情さ。


「だって、こんな役立たずいらないって、誰よりも思ってるのは私なんだもの!」


 ここまではっきりと、明白に言えてしまうのは、これが真実だからだ。本心だからだ。心の底から思っていることだからだ。


 変わりたかった。変えたかった。


 何かの役に立ちたかった。何かができるようになりたかった。

 どうすれば変わることができるのかわからないまま、時間だけが経っていった。もう何も変わらないのだと諦めて、ただ時が過ぎ、全ての人の記憶から消え去るのをずっと待っていた。


 変わりたかった。

 『役立たずの巫女姫』から、別の何かに変わりたかった。


 あがいて、あがいて。それでも何にもできなくて、ようやく一つだけ気づけたことがある。


「私が死んじゃえば、みんな幸せだ」


 結局のところ、そうなのだ。

 何もできないくせに、『巫女姫』なんて大層な役職についているからダメなのだ。何もしないくせに、存在しているからダメなのだ。


 目障りな人間が死ねば、誰も彼もが喜ぶのは当然だろう。

 そんなことでしか、リヴィアは役に立てない。


 涙が溢れて止まなかった。


 いつの間にか、腕を掴むウォルターの力が弱くなっていた。腕を引き抜こうと思えばきっと簡単に引き抜ける。

 そうして、彼はリヴィアから手を離したあと、背中を向けて立ち去ってしまうのだろう。


 考えただけで、胸がぎゅっと締め付けられる。けれども、彼を引き止めることも、置いていかないでと縋り付くことも、リヴィアにはできない。

 ウォルターがリヴィアをおいていったとしても、リヴィアはそれを受け入れるしかないのだ。


 涙が零れ落ちる中で、ウォルターの手がリヴィアの腕からそっと外された。

 服と手袋越しの体温と、腕をつかむ力が静かに離れる。


 さみしかった。離してほしくなかった。

 そう思うのは、五年前のレイとの別れとおんなじで。


 今でもやっぱりあの時と同じように、手を離さないで、なんて言えないのだ。


 息が詰まる。心臓が止まりそうだ。どうせ、彼に置いていかれたら、このまま死んでしまうのに。


 死は受け入れられるのに、彼においていかれることだけは受け入れられない。彼にだけは見捨てられたくない。


 置いていかないで。私の事なんて忘れて。

 矛盾した感情が心を揺さぶった。


 ボタ、と涙が落ちたのは、雪の中に沈んだ手の上。


 青白く、氷のように冷たくなった手を、黒い手袋をはめた手が掬い上げた。


「それで?」


 低く、耳に心地のいい声がリヴィアに問いかける。


「じゃあ、なんでお前はそんなに泣いてるんだ?」


 リヴィアは静かに顔を上げる。瞬きをすれば、やっぱり涙が目尻から零れ落ちる。

 涙は止まらない。ずーっと止まらない。泣くことさえも、彼の迷惑になるのだろうか。


 リヴィアがウォルターの顔を見上げれば、彼は静かな凪いだ顔をしていた。

 彼は悲しそうに顔を伏せ、自分の手袋を取ってリヴィアの手にはめる。彼の体温が移ったぶかぶかの手袋は、氷のようだったリヴィアの手を少しずつ温める。


「俺は嬉しかったよ」


 一瞬、何の話かわからなくて、リヴィアは呆然と彼の顔を眺めていた。


「お前を城下町に連れ出して、一緒に市をまわって、お前が笑ってるのを見て、俺は嬉しかった」


 リヴィアの両手に手袋をはめ終えて、ウォルターは顔を上げた。


「『自分が死ねば、皆が幸せだ』と言ったな。だったら、何故喜ばない? だったら、何故笑わない? なんでお前は泣いてるんだ? 皆が幸せになるのに」


 黒曜石のような黒い目がリヴィアを見ている。リヴィアに問いかけている。

 何故、と。


「俺はお前が笑顔を見せてくれて、嬉しかったよ。あの時、お前を連れ出したのはいけないことだったかもしれないけど、それでも、俺にとっては大切な思い出の一つだ。お前が笑ってくれて、俺は嬉しかった」


 ぎゅっと手袋越しに手が握られる。昔と変わらない大きな手。五年前、リヴィアを外に連れ出してくれた手。


「なあ、ヴィー。なんでお前は泣いてるんだ?」


 昔と変わらない優しい声音がリヴィアに問う。

 ぐい、と強い力で目尻が拭われて、それでも、まだボロボロと涙が溢れた。


 冷たい空気が鼻に染みる。鼻の奥がツンとする。


 わかっていた。気づいていた。自分がいなくなれば、皆が幸せになると。リヴィアが消えてしまうことを望まれていると。


 でも。でも、本当は——。


「わ、たし、本当は……、もっと、ちゃんとしたことで他の人の役に立ちたかった。いなくなることでしか、役に立たないなんて思いたくなかった。死ぬことでしか喜ばれないなんて、気づきたくなかった」

「うん」

「でも、どうしていいのか、わからなくなって……。何をすればここにいていいって言ってもらえるかわからなくて。どうしたら、みんなに認めてもらえるかわからなくて……」


 弱音とともに嗚咽が溢れる。


「どうしたら、役に立てたんだろう……?」


 色んなことを提案してきたつもりだった。全部、何もかもを却下されて、もう何も思いつかなくなった。


 役に立ちたい、なんて漠然とした何かを抱えているだけで、具体的にどうしたいかは何もわからない。

 どこへ行っても行き止まり。思考の迷路に迷い込んだように、どれだけ考えても答えは見つからない。


 どこへ行きたいかも、どうすればいいのかもわからない。


 そんなリヴィアの手をウォルターが引いた。


「なら、探せばいい」


 彼はいとも簡単に言う。


「魔法のことはヒューロットが詳しい。アイツは『浄化の乙女』について色々と知りたがっていた。魔力量は多いんだし、他の仕事についてもいい。あの腕なら医療班でもやっていける。役に立つ方法はいくらでもある」


 ポカンとリヴィアはウォルターの顔を見つめた。次々と出てくる彼の提案に、リヴィアの頭は追いつかない。


 だって、それは。それではまるで、巫女姫の仕事から逃げだしてもいいと言われているようで。リヴィアが瘴気を浄化しても構わないと言われているようで、


 本当に。本当にそんなことをして、いいのだろうか。


「……でも、私は巫女姫で、瘴気を浄化しなくちゃいけなくて。だからっ、できないから、役立たずで……」

「あのな、ヴィー」


 ウォルターが呆れたようにため息をつく。


「今、ロブストフェルスにいる人間で、瘴気を浄化できる奴は一人もいないんだよ」

「だから、私がやらなきゃ……!」

「それは今までに来た『浄化の乙女』全員に言える。ここに来た全員がそう言って、全員が失敗してた」


 そう言って、ウォルターはぐるりと暗い森を見渡す。


「昔っからここの瘴気は濃いんだ。過去払われたのは一度だけ、『異界の乙女』が現れた時だけだ。それまでも抑えるのが一杯一杯だった」


 ウォルターは消えることのない瘴気からリヴィアに目線を戻す。パチリと彼の黒い目と目があった。


「だから、お前が役立たずだというのなら、他の奴らだって役立たずだ」


 平然と言われた悪口のような言葉。


 そんなことを言ってしまっていいのだろうか。思いもよらなかった彼の言葉にリヴィアは唖然としながらも、『浄化の乙女』たちを擁護するために頭を働かせる。


「……ほ、他の人たちは、役立たず、なんか、じゃ、ないと思う」

「なら、お前も役立たずなんかじゃないだろ」

「ち、ちがう! 私は本当に役立たずで……! 瘴気も浄化できなくて……」

「だから、探せばいい。できるようになる方法を」


 ギュッと握られた手に力が籠る。心臓がドクドクと脈打つ。

 黒曜石のような黒い瞳がじっとリヴィアを見つめていた。


「ここで死ねば全部終わりだ。どこにも進めない。けど、お前は役に立ちたいんだろう? お前が足掻くなら、俺も手伝う。他の奴らを付き合わせてもいい」


 あの時と同じように、彼はリヴィアのほしい言葉をくれる。


「だから、帰ろう。やれることは他にもある」


 握られた手が暖かい。かけられる声音は優しい。

 リヴィアは自分の手を握るウォルターの大きな手を見て、静かに目を伏せた。


「……本当に、いいの?」

「ああ」


 その言葉に、リヴィアはウォルターの手を握り返す。ふ、と息が零れるのと同時に言葉を吐いた。


「……帰る」

「よし。じゃあ立てるか? 応急処置として回復の魔道具を使ったんだが、それだけじゃ足りないだろう。こんな雪の深いところまで馬は入れなかったから、少し歩くことになるが、いけるか?」

「うん」


 リヴィアが立ち上がろうとすれば、グラリと視界が揺れる。痛めた左足は治っているようだが、魔力が尽きかけていた影響はまだ残っているようだ。


「……無理そうだな。とりあえず、おぶされ。馬まで連れていく」


 トスン、と尻餅をついたリヴィアの前で、ウォルターが背を向けて屈む。

 ほら、と促されるまま、リヴィアはのそのそとウォルターに近づくと、倒れ込むようにして彼の背中に覆い被さる。リヴィアが彼の首に腕を回すと、グン、と体が持ち上がった。


「……軽い。ちゃんと食べてるのか? 子供の頃と重さが変わってないぞ」

「……え? でも、背はちゃんと伸びてる……」

「それはそれで問題だろ」


 リヴィアの体重に小言をつけながら、ウォルターは深い雪の中を掘り進んでいく。

 進む先に道のようなものが見えるのは、彼が来るときに通ってきたものだろう。ところどころ枝分かれしているのは、彼があちこち探し回ったから。


 リヴィアはギュッとウォルターの背中に身を寄せた。冷え切った体に他者の体温が伝わってくる。


「どうした? 寒いか?」


 振り向きざまにウォルターが問う。

 ううん、と首を振りつつも、リヴィアはウォルターの肩に顔を埋めた。


 彼はどれだけリヴィアのことを探し回ったのだろう。

 どれだけ彼に迷惑を、心配をかけさせたのだろう。


 勝手に自分のことを責めて、勝手に逃げ出して、こんなところにまで彼に探しに来させてしまった。


「……ごめんね、レイ」

「もうその言葉は聞き飽きた」


 ぽそりと呟けば、彼は呆れたように答える。リヴィアは何も言い返せず、ただギュッと腕に力を込めることしかできない。


 『ごめんなさい』以外の言葉を知らなかった。

 人に迷惑をかけたあとに言える言葉は、こんなのしか知らなかった。


 それでも、他にも何か彼に返せる言葉があるのなら。


「レイ、……ありがとう」

「ああ」


 受け取ってもらえた。それだけで心が軽くなる。


 ウォルターが雪の中を進むのに合わせて、リヴィアの体が静かなリズムで揺れる。疲れているからか、魔力が切れかかっているからか、瞼がゆっくりと落ちてくる。


 まだ考えなければならないことがある。本当に浄化の魔法を使えるようになれるのかとか、できなかったらどうしようとか。


 けれども、その不安の答えを探すための頭は上手く働かず、代わりにぼんやりと思い浮かぶのは五年前の楽しかった記憶。


 一緒に城の外に出た。市で色んなものを見て、色んなものを食べて、色んなものを買った。

 ただ遊び回って、レイに最後に髪飾りを買ってもらった。


 思い出の髪飾り。たった一つの宝物。今もずっと大切に持っている。


 うつら、と視界が眠気で揺れる。

 眠ってしまってはいけない。ただでさえ、ウォルターにおぶってもらって、彼を歩かせているのに。


 そう思うのに、瞼が重い。


「……レイ、私ね」


 少しでも眠らないように、とリヴィアは口を動かす。


「本当は、あの時、『バイバイ』じゃなくて、『またね』って言いたかったの」


 体が揺れるたびに、瞼が落ちそうになる。体から力が抜ける。

 それでも必死に言葉を紡ぐ。


「あなたにまた、会いたかったの」


 ザク、とウォルターの足が雪を踏む。

 彼はその言葉を聞いても振り返ることはなく。


「そうか。……俺もだ」


 彼の言葉だけが返ってくる。


「俺もまた、会いたかったよ」


 五年前の半日のお忍びが今までで一番楽しかった時間だったとするならば。

 今この瞬間は、リヴィアにとって一番大切な時間。


 瞼が完全に落ちる。思考が深く沈む。ただ暖かな言葉と、大切な時間だけを抱きしめて。


 パチン、と小さな音がした。



   ♢♦︎♢♦︎♢♦︎



「……は?」


 それが起きたのは突然だった。


 北の森。ロブストフェルスで最も瘴気が濃いところ。

 長らくこの場所の瘴気が払われたことはなく、一度大きく瘴気が消えたのは『異界の乙女』が現れた時だけ。


 その場所で、パチン、と小さな音がした。リヴィアを背負うウォルターを中心に白い光が柔らかく広がり、薄暗い瘴気を小さな円形上に払う。

 黒い瘴気によって覆われた頭上にはぽっかりと穴が開き、その先に青い空が見える。


 それと同時に、ウォルターの首に回ったリヴィアの手がずるりと滑り落ちる。


「ヴィー!? リヴィア!」


 ウォルターは慌てて背を振り返り、リヴィアの体を揺する。


 だが、青白い顔をした彼女は項垂れたまま、目を開けることはなかった。

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