神の兵器
阪急三番街から、談迷子の指し示す方角に向かっていく。
太閤の横穴の傾斜がどれくらいの方向に向かっているのかを調べながらである。
あとは、当時の阪急地下街の位置と見比べながら現在の位置を確認していけば大体の予測はできた。
瓦礫に道が埋もれている箇所もある。
本当なら昨日までのように引き返してを進んでを、繰り返して安全確保をすべきであるが、華山道士連が、霊陽棒のようなわけのわからない兵器を持って暴れていると聞けば、出会いたくはないから先に進みたくもなる。
たんぽぽが何かを気にしている。京都の本隊が混乱しているようだ。情報を整理のため、各隊員の情報を送れと指示されているようだ。
何かあったのだろうか。そんな話をラームとしている。
なぜか、たんぽぽの動きには雑賀故我は聞き耳を立てて気にしているようだ。
談迷子が、歩くのをやめて、壁を指差した。
多分、この下くらいに道が続いていると、告げた。
ラームは先程の横穴から見ると全然位置が違うと指摘したが、談迷子はここだと意見を変えない。
それなりの自信があるようだ。
しかし、どうみてもただの壁である。
入り口がどこにもあるようには見えない。
ガルムの探査の出番である。
肉球で壁をトントンと叩く。
そして耳を壁にあてた。
ガルムはワンッと泣いた。
「ワンッは、どういう意味なの?」
ラームがたんぽぽの問いに答える。
「処理終了のお知らせだよ。先に水が流れる音がするって。たぶん。」
ウィフが懐から何かを取り出した。
「みなさん、下がってください。」
「おい、こんな地下で爆薬を使うのかよ。」
「そんなもの使いませんよ、これはヒートカッターです。宇宙の鉱石採掘用です。」
壁の四隅に小さな四角い塊を付けて、垂直に杭を打った。
そうすると、四角い塊が赤く発熱して、杭が壁に入ってくる。
「熱が出ますから、もう少しだけ下がって。」
四隅に杭が完全に刺さって、次は真ん中にマーカーをつけると、対角線上にゆっくりと切り込みが入った。
「へぇ、これがイグドラシルの科学力ってやつ?便利なもんだね。」
「便利は便利ですけど、そんなに複雑なものではありません。一応切り込み入れましたから、あとはお願いします。壁の向こうが空間であればですけどね。」
ガルムとフェンリルが切り込みを頼りに壁を押していくと、最後はガラガラと崩れた。
その先にあるのは太閤の横穴の続きである。
ガルムに先導させ、横穴の入り口にフェンリルを見張として配置した。
そんなに長い距離ではない場所ですぐに壁に突き当たる。
ここも多分、梅田地下街の壁だろう。
先行したガルムによると、この先は大きく埋まっているみたいである。
談迷子はであれば、地下街の別ルート経由で迂回しましょうと、元の道に戻る提案をした。彼女には大体の位置がわかるらしい。
この時になってやっと、ラームは二代目談迷子をなぜ船団が雇ったかを理解した。
先程、壁を破壊したところまで戻ると、フェンリルが何かを警戒している。
談迷子が頭をなでると、にゃん、と鳴いた。
たんぽぽが意味を聞くと。にゃん、自体には、とくに意味はないらしい。
何を警戒しているのだろうか。
そこには華山道士連の一団がいた。
ラーム達の影に思わずジーチンは隠れる。
先程も交戦しているから、交渉する気はあまりなかったようで、ガルムをラームは飛び掛からせた。
しかし・・・
目にも止まらない影がガルムを吹き飛ばした。
そして、地面に落ちたガルムは機能停止する。
これがジーチンの言っていた霊陽棒の攻撃であることは一同はすぐに理解した。
霊陽棒は斉天大聖の武器であり、重さは8トン。
天国と地獄を繋げるほどに伸縮すると言われる。
別名を如意棒、神鉄珍と呼ぶ。
その神話の武器がガルムが吹き飛ばされたことで、実際の脅威であることを理解した。
談迷子は何も語らず、霊陽棒を持つ男に数発の鉛玉を撃ち込んだ。
確実に命中したと思ったが、影が広がり、その影に弾丸が弾かれる、男は何ともない様子だ。
先に交渉の意思を見せたのは道士連のティである。
「私は華山道士連のティ。可能であれば人質を解放していただきたい。戦力差は今見せた通りだ。」
人質とはジーチンの事だろう。
ラームは返答する。
「人質を渡せば安全は保証するのか?」
「拘束はさせてもらうが、危害は加えない。」
「見逃してくれないか?このあたりを散歩していただけなんだ。」
「電子使いラーム、談迷子、花達の会、イグドラシルの青髪、そして槇島博士のドローン、雑賀故我、全てが脅威だ。この場面で見逃すことはできん。」
「はいはい、じゃあ、交渉決裂で。」
そう言いながら、たんぽぽ達に前線を任せて、少し下がった。
ラームはガルムを破壊されて戦力が激減してはいた。
懐から手のひらサイズほどの浮遊ドローンを飛ばす。
たんぽぽは手持ちの突撃銃で、ティを攻撃するが、先程と同じく影が広がって弾丸を弾いてしまった。
道士連の隊員が、拳銃で撃ち返してくる。
「流石に多勢に無勢かなぁ。」
ラームはそのやりとりの裏でガルムを回収しようとしている。
次に事態を動かしたのはやはり霊陽棒である。
大きく振りかぶって、大きな影が生まれ、振り下ろした。
幸い、一同の勘の良さで攻撃は寸前で外れたが、地面には幅2メートルはある大きな棒状の破壊痕がついたのだ。
当たれば即死である。
神話の霊陽棒の記述には触れるだけで死ぬともある。
それほどの威力がある。
雑賀故我が解説した。
「あの棒の動きに連動して攻撃は来ているようですが、物理的に伸びているようには見えない。」
次にティは横に振りかぶり薙ぎ払うような姿を見せた。
雑賀故我は叫ぶ。
「伏せろ!」
壁に破壊痕が一文字に入る。
「なるほどね、これが8トン分の威力で距離無制限の強さ。しかも見えない攻撃ね。かなりやばい。」
「ちょっと!この地下街は貴重な文化財なのよ、無闇な破壊はやめなさい!」
談迷子の言うことも尤もであるが、そもそもこの地下が攻撃で崩落するのではないだろうか。
たんぽぽと、談迷子は断続的に銃撃を続けていた。
その背後からラームのドローンがティに静かに近づき、破裂した。
非常に小さな爆発ではあるが、ティの肩を軽く火傷させた。
本来は弾薬庫を破壊するためのものである。
人を殺すためのものではない。
「攻撃が通ったか、全てを自動で影が迎撃できるというわかではなさそうだ。」
それがわかったところで倒せるのだろうか。
明らかに強すぎる兵器である。
弾丸無効
見えない距離無限の攻撃
道士連の仲間の銃撃のサポートあり
雑賀故我はたんぽぽに聞いた。
「私のことは本隊には連絡したのですよね。」
「ええ・・・今それが何?」
「ならいい、次に本隊にここの座標を送ってくれ。」
「救援なんてとても間に合わないよ。」
「救援じゃない、私を殺しにあいつがやってくるんだ。」
たんぽぽは慌てながらも言われた通りに本隊へ位置を送信する。
「そう、それでいい、後は時間稼ぎだけだ。」
ラームは先程の小型ドローンをいくつも飛ばしていた。
一度通れば何度も通用するという発想だ。
ガルムはなんとか、再起動できそうだ、ヨタヨタと立ち上がった。
ラームはかなりホッとする。流石に機械のガルムを背負ってはいけないからだ。
ティは自分からは距離を詰めてはこない遠距離からじっくりと倒す気なのだろう。
ウィフはたんぽぽに耳打ちをして、ティに対して投擲物を投げ込んだ。
空中でそれは閃光を放つ。
合わせてたんぽぽが、弾丸を打ち込んだ。
しかし、同じように無効化されてしまう。
「影の動きにカラクリがあると思ったのですが、そうではないようですね、見えない何かのエネルギーが霊陽棒にあって、それが光を阻害して影になっている。」
その見えないエネルギーとはグラヴィトロンのことであるが、ウィフ達には観測することが困難なため判別はできない。
「しかし、左右上下にでたらめに攻撃してきたらすでに我々は全滅しているはず。なのにしてはこない。何か制約があるのかも。」
これも正解であった。グラヴィトロンを集めて貯めるまでにインターバルが必要である。
ティはそのインターバルを稼ぐために兵士にカバーさせているのだ。
「霊陽棒の射程距離がわかればいいのですが。」
「神話では天国と地獄をつなぐくらい、らしいです。」
「そりゃあ、絶望的ですね。」
しかし、その情報も勝機をもたらせるものではない。
単純な話である、空間を全て埋め尽くすほどのエネルギーを貯めて霊陽棒を振ればそれで終わりだからだ。
その一撃を溜めるために先ほどから、次の攻撃をティはしなかったのだ。
溜めがまさに終わり、その避けられない攻撃が今、始まった。
道士連の兵士たちがティの後ろに下がる。
先ほどとは違い、大きく振りかぶった。
そこから生まれた大きな影は地下全てを埋め尽くすほどだ。
観測できないはずのエネルギーではあった。そこで感じたのは死の予感である。談迷子一向全てが震え上がる。
その攻撃で皆が死ぬことを理解できた。
そのはずだったが・・・
無傷である。
ラームの背後で何かよくわからない形をした箱が発光している。
それこそがジーチンが持ち込んだイグドラシルのエネルギーを制限できる、いや全てのエネルギーに干渉できる神の兵器、太極図である。
この太極図こそがジーチンのいうグラヴィトロン対策なのだろう。
ティは思わず笑みを浮かべた。
「やはり、お前が隠し持っていたのか。」
今や霊陽棒は完全に沈黙している。
「では、また後で会おう。」
談迷子、たんぽぽ、フェンリルは道士連に勝機とばかりに攻撃をしかけた。
何名かの道士連の兵士達を無力化していく。
それでも、道士連は手練れの集まりの傭兵達である。それなりの強さである。
これだけの数を簡単には崩せない。
ジーチンが雑賀故我に何か言っている。
「この太極図の効果時間は40分です、一度使うと2時間は使えない。その間にティを倒さないと。さっきみたいに全員殺されますよ。」
雑賀故我は天井を眺めていた。
どこかから破壊音が聞こえてくる、今の戦いとは別の。
「いや、結局は私が死ぬのだ。ありがとう。それまでの時間稼ぎとしてはうまくはいったよ。グラヴィトロンをこの先で中和する必要があるから、オフにしてくれないか。」
「今切ったら、またティが戻ってくる。」
「いや、その霊陽棒で、あいつが殺し切れるならそれもまたそれでいいんだ。多分難しいと思うけど。だから、切ってくれ。」
太極図をジーチンは停止した。
言われるままに。
雑賀故はみんなに自分を残して進めと殿を務める旨を伝えた。
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ティは歓喜している、大連で失ったと思っていた太極図が目の前にあるのだ。
これを手に入れれば、二つの神の兵器を手に入れることができる。
道士連の本部もこれは想定していないだろう。
あの女、初代談迷子は少なくとも、3つ以上の神の兵器を持っている。
それに対抗することができるかもしれない。
天国と地獄をつなぐことができる兵器なのだ。
ここから最大限に溜めて振るえば、あらゆる拠点を破壊することだってできる。
最強の兵器じゃないか。
ティは万能感を感じているのだ。
そして、太極図の影響が停止し、霊陽棒の力が戻った。
「大連で太極図は壊れたのか?まだ制限時間はあるはずだが。」
再び、前線に復帰するために足を進めていく。
前線で兵士たちを釘付けにしていたのは雑賀故我とたんぽぽの二人である。
「あなたも先を行けばいいのに。」
「流石にあの兵士数を一人では無理があります。すぐにやられるだけですよ。」
そして、ティがやってきた。
また、あの霊陽本部を持って。
しかし、ティが次に聞いた声は背後から聞こえた兵士の悲鳴であった。
たんぽぽが気づくと、雑賀故我は冷や汗をかいている。
「いつもと同じ、場所がわかれば、すぐにやってくる。全てに優先して俺を殺しに。」
ティ達の背後にいたのは、兵士たちを無力化していく、刀を構えた、久我天根であった。




