様々な考え方
トンネル内の壊れかけの梯子を登り、天井にあるハッチをこじ開けた。
すでに錆びついていたから、雑賀故我がどこかから持ってきたバーナーを使ったのだ。
ウィフが先にガスの検査をすると言って、ハッチの向こう側の数値を計測する。
今のところは問題がないようだ。
ハッチから先はそれなりに広い空間でコンクリートで固められた部屋だった。
そして、部屋の端の金網の扉に教育委員会の看板がかかっていた。
この先、崩落の危険のため立ち入り禁止。
「間違いはないようですね。先はよく見えないですが。」
金網の扉をバーナーで焼き切って一向は進んでいく。
奥の道は、岩をノミで削ったような道で、手作業で掘っているのがわかる。
「大阪の北でこのような岩盤の地層が続いているの珍しいです。」
談迷子は端末で地域の地質を確認している。
自分たちが入ったことで、崩落の危険がないかを心配しているのだ。
ラームは哨戒はガルムにさせると告げて、自らも先頭に立ったが、水が漏れているようで、すぐに床のぬかるみで滑って転んだ。
迷彩服とミリタリーブーツのたんぽぽが前に立って進むことになった。
道は少しずつ下へ傾斜しており、たまに分岐があったが、それはフェンリルが哨戒して、進む方向を決めてくれた。
何本かの分岐の道は人間が通れないくらいに土で埋まっている。
ウィフが警告する。
「イグドラシルとの通信が弱くなってきました。この辺りに中継ポイントを置きたいのですが、ラームさん準備ありますか?」
ラームはリュックごと地面に置いて、リュックの中の機械を起動する。
「ちゃんと使えるのは通信と、位置管理でエネルギー供給はかなり落ちる。」
十分ですとウィフは回答した。
この地下は水を多く含んでいる。イグドラシルのエネルギーは水を通しにくいという性質がある。
しかも、地下は大量の質量にはばまれている。
イグドラシルとの接続が切れると、ガルムとフェンリルの性能が大幅に落ちることになる。
かなり厳しい状態に陥ることになる。
「どこまで、この地下通路が通じているかはわからないですから、都度引き返して、中継機を設置していったほうがいいですね。」
雑賀故我の提案だった。
急ぎはするが、やむをえないプロセスだった。
こうして、何度か引き返して中継機を補充しながら、前に進んでいく。
たんぽぽは、何度も臭い下水の道を往復するのは嫌がったが、それは談迷子が高速道路のメンテナンス用の通路を見つけて地上までの道を開通できたことで解決できた。
「地味な作業ね・・」
穴掘りをしないだけマシであったが、行ったり来たりする作業を繰り返し、すでに半日ほどが過ぎていた。
地下を探検する冒険が、ただの重労働だったのは残念である。
しかし、段々と地層が変わっていく。
少しずつ着実に進んではいるのだろう。
地下高速道路から地上に出たところ路端にテントを張って、その日は休息することになった。
流石に地下にテントを張るには臭いし、換気が悪すぎる。
その日は皆疲れたのか、死んだように寝た。
ガルムとフェンリルは皆が寝ている間に可能な限りの探査と、テント周りの巡回を続けてくれていた。
誰かが抜け駆けして地下に潜らないかの監視でもある。
ウィフはあまり労働をしていなかったのか平気な顔で端末で資料をまとめている。
雑賀故我は暇だったので話をする。
「もし、ナハト王の部隊と出会ったら戦闘するのかな?」
「基本的に話し合いで済めばしませんね、そもそも味方ですし。あなたも味方では?」
「上海のは別の人物だよ、ナハト王とは味方になったことは私はない。だから、瓜二つなだけで味方と思われてもなぁ。」
「できれば先に到達できればいいけど。」
「今からでも、ナハト王に合流すればいいんじゃないか?」
「たぶん、目的が合わないから、ダメでしょうね、最後は戦いになる。」
赤い光の発生源を見つけるところまではいいが、イグドラシルの住人のウィフにすると破壊という選択肢になるだろう。
ラームは戦いになると言っても、ウィフは戦える人なのかはわからない。
続けてウィフは言うのだ。
「それにさ、どうもあなたたちとか、ラームってうさんくいじゃないですか。そっちの方がなんとなく安心できるんです。初代談迷子、ナハト王、柳生にしても、ちょっと違う。思想や、考えが整いすぎて。」
なんとなく雑賀故我は言いたいことがわかった。
「彼らは個人じゃないんだ、集団だから綺麗な理念や目標が必要なんだよ、まとまるために、確かにそういう綺麗さは魅力的ではないよね。」
単独で自分を殺し続ける久我天根を思い浮かべながら、そこへの理解示した。
「なぜイグドラシルが私たちのような人を造ったかわかる?」
ウィフは簡潔に話しだす。
内緒の話としてだ。
秘密を破ったとしても、この話を誰かに話しても、宙に浮く人工の星のイグドラシルに人が住んでるなんて誰も信じないだろう。
イグドラシルには自己拡張のプログラムが存在する。
テクノロジーは常に進み、地上に劣るようになれば、イグドラシルの存在感が薄れていく。
しかし、日に日に地上の人間は切磋琢磨し、少しずつ今に合わせたアイデアを出し現代でも成長している。
だから、それに対抗するには、機械の画一的な思考ではなく、人間のランダム性のある感情から生まれる我のようなものが必要と考えた。
どこからか、談迷子が目を輝かせながら、この話題に食いついてきた。
「知っています、その話。色んな人の個性が組織を成功させるというやつですね、昔は男性が社会進出していて、そこに女性が新たな思考と価値観を与える存在として活用されたって話。現に優秀な女性は多くて、それぞれの人を認めたら組織が良くなるって考え方ですね。」
ウィフは言う。
「多様性というやつですかね?人間の様々なら考え方を尊重するというやつ。過去に導入した組織は大分よくない結果だったようだけど。イグドラシルの思考とは少し違うかな。」
「違うのですか?」
「多様性というベクトルは横軸で、縦軸もあるからさ。それを判定できないと、ね。大抵は難しいんだけど。」
ウィフの意見はこうである。
多様性によってランダム性が生まれて素敵な結果が生まれる。
しかし、これは失敗の方が多いのである、
なぜなら、セオリーから外れたこともするからである。
しかし、それ以上に。
「どういうことです?」
雑賀故我が代わりに答えてあげた。
「横軸は個人の経験や趣向から考え方のベクトル。縦軸は賢いかってことさ。多様性の難しさは、賢さの軸が曖昧で、みんなが適当な持論を唱えてるのかわからなくなっちゃうんだ。」
談迷子は賢い人の定義を聞いた。
「賢い人や思慮深い人は、何百時間も課題に対して考えるわけ、でも1時間も考えずにその場の意見を言う人もいる。人間は何時間考えたかって検証のしようがないからね。そしたら、賢い人はやる気なくなるだろうし、考えてない人の方が多数ならその意見に飲まれるでしょう。そしたら、まともな意見自体が成立しなくなるじゃない。」
「だから、イグドラシルの人間の活用法はもう少し考えられてて」
ウィフは少し楽しそうに機械が人間を利用して進化していく方法を説明していた。
この話はボリュームが大きくなりそうなので別エピソードとして、いずれ。
そして、二日目になった。
まだ地表近くに彼ら、彼女達はいた。




