真相 5
ラームが驚いたのはあまりにも地下が広いことと、船団の人員が想像以上に多く配置されていたことだ。
メインエレベーターで少し上の階に宿舎と、水や電気のライフラインのスポットがあった。
ほとんど地上に上がらずに生活が可能である。
何ヶ月いや、何年も暮らすことができるのではないだろうか。
ある意味要塞である。メインエレベーターの地下はシェルター用途として使えるようになっているのだろう。
関東平野がクレーターになったのだ、梅田の地下をこのように改造したのは少し理解ができる。
岸田はその1000人はいる船団の兵士の中でトップのようだ。
ラームは三つのことをした。
一つ目はグラビトロンの影響が少ない進路を決めること、槇島博士の研究室はグラビトロンが少ない場所にあるはずだからである。
二つ目はグラビトロンを分解できないかをサーバで解析させた。
グラビトロンが変化していて濃い場所に研究室があることを想定したからだ。
三つ目は談迷子にフェンリルの返却を求めることだ。
一つ目は歓迎された。作業員の負担がかなり減るからである。
談迷子も三つのことをした。
一つ目はマッピングすること、インターネットアーカイブから過去の地図を引き出して、ラームが示した進路のうちどちらに進めるかを決めるのである。
二つ目は槇島博士の研究室の場所を手記から推定することだ。これは槇島博士も気をつけていたようで困難であった。
三つ目はラームをフェンリルの返却を無視することである。
「無視することである、じゃねぇよ。おい、まずフェンリルはどこにやった?」
食堂の利用時間は決まっていたから出会うに決まっている。
月曜日は海軍カレーである。
「あらいたの?」
「いたの?じゃねえよ。フェンリルはどこにやった?」
「娘のお守りをしてもらってるわ。」
「娘?いいから返せよ。」
談迷子は無視した。
「それよりどう思う?この陣容」
「そりゃ異常だろ。完全に軍の要塞だ。」
「そうなのよ、見た?ところどころに塹壕のようなスペースすらあったのよ。」
「何かから守ろうとしているんだろう、日本軍かもな。」
船団と日本軍は同盟関係にはある、が、共同調査にしては船団の影響が強すぎる。
「まさか?」
「何にしろ、この人数だ、旅団クラスだよ。ただの発掘にしては多すぎる。そもそも、おまえはなんでこんな調査に参加した?」
「談迷子は逆さ桜の間をずっと追っていたの。一族みんなでね。だからその念願がかなうってだけよ。」
ラームはそんなものかな?と動機をとりあえず信じることにした。
「そういや、魔法使いについてはどう思う?この地下が影響しているって話?」
「どうだろ、梅田の地下が影響してるにしては魔法使いは世界中に散らばってるから。原因ははっきりしないね。」
ラームは自説を唱えた。
「例えば映画とか、漫画の必殺技を人間が使えるのはそんなに不思議な話かね?」
「そりゃあ、不思議でしょ、手とか目からビームなんて人間は出ないだろうし。」
「有名な古典に、かめはめ波ってあるだろう。みんな子供の時に練習しただろ。あの物語が生まれてから何百年も経ったってことは何1000億人が練習したわけさ。ってことは1人くらい成功しても確率としてはおかしくないんじゃないかって思うんだ。」
「量子力学のトンネル効果みたいなもんね。途方もない数、壁にぶつかったら壁をすり抜けるってことがあるって。」
しかし、現実世界では壁にぶつかるひともいないし、すり抜けたという話は聞いたことがない。
壁にぶつかるよりは、かめはめ波の方が現実的か。
「そうだ。試行回数は、この世界のバグみたいなのを引き起こすことがあるってことだ。じゃあ、途方もなく試行すれば、かめはめ波が打てる人間も現れるんじゃないか?」
「それが魔法使い?」
「そうだ。または、人間の群体としての可能性かな。それをグラビトロンがその可能性の確率を上げているんじゃないかなって思うんだ。」
ガルムが地下部に向いて突然騒ぎ出した。
警報が鳴り響く。グラビトロンが酷く流れ出して、濃くなりすぎたとのことだ。
そのエリアへの立ち入りは禁止になった。
「なんだ結構危険な作業だな。」
大きく影響を受けた兵士は、3名いたが、ガルムが危険なエリアから引っ張り出して医務室に運び込まれた。
ラームは岸田には人命救助のために来たわけではないと伝えた。これは冗談というか、危険なところに呼ぶな程度の意味なんだろう。
岸田は医務室の傍で調査について談迷子とラームに聞く。
「確かに君たちが来てから発掘は大きく進んだ。しかし、逆さ桜の間は一向に見つからない。なぜだと思う?」
談迷子は答えた。
「まず、地下遺跡が広すぎる。グラビトロンが邪魔すぎる、それを避けて発掘をするというのは後ろ向きすぎるし、地図データが不足している。槇島博士の手記に出てきた、コーヒーゼリーが美味しい喫茶店を軸に探して行きたいが、今の手持ちじゃ難しい。槇島博士が、出したとされる電子メッセージのゲートウェイからは、梅田の地下であることは間違いないのだろうけど。せめて大まかな座標くらい分かれば違うんだろうけど。」
ラームも大体言ってることはあっていると同調している。
しかし、問題はここからだった。
医務室の1人が発火を始めたのだ。
「おい、なんだありゃ。地下で火はやばいぞ。」
素早く、ガルムと談迷子は残りの2名を救出した。
しかし、逆に部屋に入る影があった。誰だろうか。
「ニンジャ・・・?」
その影は複数である。
消化器で火を消そうとしたが、どうも消火剤では消えないようだ。
不思議なことに火を出している男は絶命するわけではなく、ただ立っていた。
岸田はその状況をただ見つめている。
影たちは素早く、火の発生源の男に接近して、首を切り落とした。
それにより火は止まる。
岸田は何か影と話をしている。
「兵士が犠牲になった。よくも、八咫烏は神気の影響を知っていたな。あれはカグヅチ化じゃないのか。」
「逆さ桜の間がそれだけ近づいている証拠だ。神格化に失敗したのだろう。人の犠牲を喜ぶものはいない、八咫烏も、風魔もむしろこの事態を防ぎたかったのです。」
ラームと談迷子は聞かない振りをしている。
聞くときっとろくでもないことに巻き込まれるからだ。
もう一度、大きな警報が鳴り響く。今度は地上からの侵入者のようだ。
ラームはカメラの様子を探った。
だれか、女が杖から放たれる雷で兵士を殺害している?20名ほどの子供連れて。
ラームの端末のモニターを眺めていると、談迷子が覗き込んだ。
「母さん?なんでここに。」
岸田と話をしていた影たちはすぐにそちらへ向かって去って行った。
ラームは不思議そうにしている。
地下のグラビトロンの数値がどんどんも下がっているのだ。
岸田は兵士は下がらせて対応を影たちに任せるように放送を流した。影のことを風魔と呼んでいた。
「おい、俺たちはどうしたらいい?」
「そうですね、多分あれは、神格化した人間です。出雲でも確認されていました。風魔が勝てるかは五分でしょう。危険に晒して申し訳ないです。一旦地下は閉鎖しますので、可能であれば地上へ逃れてもらえますか?足りない情報とグラビトロンへの対応方法も探してきてもらえると助かります。」
「お前何か隠してやがったな。神格化ってのはなんだ。」
「見た通り、聞いた通りですよ。我々もよくわかっていない。その調査のために掘ってるんです。」
そのやりとりが終わる前に談迷子は母の元へ走って行ってしまった。
ラームは悩んだが、こう言いながら追いかけたのだ。
「お前フェンリル返してから行けよ」




