真相 3
ラームの昔話である。
日本で大きな戦争があって、関東平野は大きなクレーターになった。
クレーターには海水が流入し、瓦礫が大きな魚礁を形成した。
大陸からの脅威から身を守るために、一部の人々は太平洋にメガフロートを作り海底資源の採掘と、金融資産の運用、太平洋の中継地点、観光都市、様々な経済特区を作り、むしろ繁栄を続けた。
財界の多くが投資した結果でもある。
本土から別れたとはいえ、日本とは特に関係が悪いというわけではない。
日本は関東に集めていた大部分の政治基盤を失い、財政を失うことはしたくなかったからである。
身なりの貧しい男、電子使いラームは、船団のカジノフロートで暇を潰していた。
ラームは誰かと待ち合わせをしていたのだ。
少し時間が遅れるから待ってろと言われたのだ。
ディーラーがルーレットにボールを投げ込んだ。
ラームは無言でグリーンに最小のベットを行う。
カジノのオーナーがラームに話しかけてくる。
「どうですか?当社のカジノは?」
「カジノなんて違いがあるのかね、同じルール、似たような設備、アルコールが飲み放題なのはいいけどね。」
「世界に12人しかいない魔法使いの電子使いラーム殿に、来ていただいたというのは我々にとって光栄なのです、貴方に負けていただければ、我々の電子的セキュリティが問題ないということの証明ですから。」
「レガシーな賭け事以外禁止なんだろう。だったら、電子的なセキュリティとやらを証明することにはならんだろう。」
ラームは少し会話が煩わしい。
「それは言ったもの勝ちですよ。」
「あ、そ。」
「へぇ、00にですか、何回かしたら当たるかもしれませんな。」
ラームは時間潰しだから結果はどうでもよかった。
しかし、ボールは00に落ちた。
数字は36倍である。
「00があるから、ルーレットは儲かるんだもんな。逆に儲けさせてもらったが。」
次のゲームである、ボールをディーラーが投げ込んでゲームが始まる。
ラームは、さっき勝った分の29から12の四つにベットする。
ディーラーは少し険しい顔をしていた。
12にボールが落ちる。また、36倍である。
オーナーは何かやられていると感じた。
「なぜ?わかるのです?」
「木の歪みである程度不規則にはなるが、優秀なディーラーだから、大体狙ってボールを入れているな。」
「それで?」
「ディーラーの目線と投入位置を一回前の分と今回の差分を取った、それでどれだけずれるかを見たんだ。しかし、00はそれなりに練習していたんだろ、00付近に落とす予測なら、どうせならディーラーの腕を信じてみようと思った。練習の成果を信じてな。」
「さきほどのは?」
「あんたが、電子的セキュリティとか言うから、投入位置から計算して、少し広く賭けたんだ。12は賭けた一番端だから、ギリギリだったがね。」
オーナーは辺りを見回した。
そして、ラームがカメラの類を持っていないことも確認していた。
「どうやって、計算したんです?」
ラームは頭を指さして、ここさ、と言った。
電子使いは脳についても機械を上回る演算能力を持っているのか。
それそろ待ち合わせの時間になる、バーカウンターに移ることにした。
「馬鹿な、人間のできることじゃない。」
「だから、イカサマじゃなかった偶然ってことで。」
ラームは立ち上がって、背を向けて言う、28と。
次にボールが落ちたのは28だった。
「今度は見もせずに、か。」
「今の勝ち分はオーナーの晩酌に使ってよ。騒がせた礼だ。」
魔法使いがこのような場所にいるだけで騒ぎになるそういう意味である。
バーカウンターには1人の男が座っていた。
「よう?久しぶりかな?わざわざ楽しいところに呼んでくれて、楽しかったよ。」
男の名前は、岸田である。高そうな背広を着ている。
「見事な腕でしたね。3回連続数字を当てるなんて。」
「まぁ、大体わかるだけだよ、最後の一回はたまたまかな。」
バーカウンターの岸田の横から女性の声が聞こえた。
「嘘ね、カジノのカメラを使ったんでしょ。そこからあんたのサーバーに飛ばして解析させた。2回目に複数に賭けたのは、自信がないように見せかけたんでしょう?相変わらず姑息というか、大人気がないというか。」
ラームは眉間に皺を寄せる。
岸田は紹介する。
「談迷子女史です。データマイナーの。」
「知ってる、久我流のチームでもある。あそこのオーナーも元久我流だろ。」
「おや、知り合いでしたか。」
談迷子は言う。
「戦場では出会うものよ、そういう職業なら。」
「俺のフェンリル返せよ、借りるって言って返さない、お前あれの値段を知ってるのか?」
フェンリルは現在は3代目談迷子が持っているドローンである。
岸田はやっとのことで割り込んだ。
「いいですか?本題について、お二人の問題は別で解決いただくということで。」
「先に報酬の話だ。わざわざこんな極東の東まで来たんだ、金儲けだけじゃなぁ。さっきのルーレットを見ただろ、金だけなら稼ぐ方法もある。」
岸田は小さなメモリカードを出した。
「アーカイブです。中身はあなたが欲しそうなものの詰め合わせです。」
「欲しそうなもの?」
「歴史データですね、ケネディ暗殺事件の未公開情報、キューバ危機、フォークランド紛争、近年のでは関東戦争、スレイプル事件の全貌まで。」
岸田は自分の端末にメモリカードを差し込んで内容を見せる。
ラームの目は少年のように輝く。
「これが本物である証拠は?」
「データの渡し方だ。さすがに電子データを渡すわけにはいかん。1日だけ船団のデータセンターで閲覧する権限を渡そう。そしたら本物でしかないだろう。」
そういうと、先ほどのメモリカードをグラスの底で破壊した。
船団の情報収集能力と、軍事力はダントツで世界一である。
関東をクレーターにした反省からだった。
岸田は続けて手書きの手記を渡して、ラームに読んでみろと伝える。
これが依頼の内容?
手記はこう始まっている。
ニューラルネットワークにて構築された人工知能というものは、あたかも知能のように見えるように振る舞うが、それは人間が期待する回答をモデルに保存しているだけにすぎない。
本来知能というのは全くのランダム性を基盤として、生存のために理性という秩序を持って構成されるのである。つまり群体の中でこそ秩序が作られて、そのランダム性を可能性へと変えるのだ。
一つのモデルに集合させている現代の考え方はその点において知能とは全く異なるといえる。
ここまで理解した上で何故人間は人口知能を作り出せないのか、という問いには、こう答えることになる。
人間は完全を求めるが、自身が完全ではない。そればかりかランダム性で生まれた知能とは一見は悪質な混沌である、人間は完全な物ばかりを知能に求めて、そこを目指さないからだ。しかし、完全な混沌という物は誰も望まない。普通の人間であれば。
誰もが知る有名な文章である。
しかも、見たことない続きがあった。
この世に知能を生み出した存在もまた存在したのだろうか、そのような悪質な混沌でしか、知能が生まれないことを知り、それを許容でき、予測できたのはもはや人ではないのだろう。
「これは槇島博士の手記か?」
岸田はうなづいた。
「付箋が貼っているページを見てほしい。」
ラームは付箋のページを捲る。
ついにたどり着いたのだ、なんという美しさだ、荘厳で空気は重く、息苦しい、それは雰囲気だけではない、グラビトロンが充満している。この間こそが太閤が掘り起こし、家康が恐れて埋めさせた神代の世界の遺物、逆さ桜の間か。大きな大きなこの構造物は何なのだろうか。私はここで研究をしよう。人がこれから先に生き残るために。彼らの存在から生き残るための力を得るために。
「なんだこりゃあ。彼らって誰だ。神代の遺物って、華山道士連が信じる汚い箱とかか。」
違う角度で岸田は話す。
「そもそも、関東平野をクレーターにした理由は何かわかりますか?」
「ん?UDAと連合の戦争が激化したからだろ。」
「私たちはそうは思っていません。魔法使いという存在が現れていること、これも神代の遺物が関係していると考えます。勿論、馬鹿馬鹿しいと、主張するものはいますが。その真相を掴むために、槇島博士の研究室、そこから到達できるはずの、逆さ桜の間への到達を依頼したい。」
談迷子はニコッとしている。
ラームは悩んだ。談迷子に指を指す。
「こいつと?」
「そう、談迷子女史と、我々船団とで。」
ラームは悩んだ末に言った言葉である。
「お前フェンリル早く返せよ。」




