クライシス
【駅前ビル ゲームセンター カウンタック】
ゲーム大会は終わった、乱闘にはなったものの禁止ルールを設けてなかったのは双方の合意のもとである。
ラジャは申し訳なさそうな顔をしていた。
「すまなかったな、母親を探してやれなくて。」
談迷子はむしろお礼をいった。
「いえ、たまたまだけど、母の痕跡は見つけた。天満にいるみたい。」
そういうやりとりをしていると、全てのゲーム筐体の表示が変わる。
表示されている文字は。
HAYAKU NIGERO
その光景は普通ではなかった。
PLCというネットワーク技術がある、電源をネットワークケーブル代わりにするのだ。
電子使いであればネット接続されていないような筐体も操れるのかもしれない。
防犯シャッターが閉まる音がする。
「おい、なぜ、シャッターを閉める?」
店内は騒然としていく。
談迷子はすぐに電子使いラームがやったと決めつけた。
【駅前ビル 喫茶店】
電子使いラームは慌てて、ウィフに連絡をする。
「何が起きている?」
ウィフが答えた。
「今すべての地下への入り口の電子ロックが解けたようです。」
これから、地下に向けてナハト王は兵を向けるようです。
これに対抗してラームは防犯シャッターをおろしたのだ。
「馬鹿な、俺でもすべての解錠は無理だぞ。すぐに兵はおろすな、武器なんかもってくると地下の勢力と殺し合いになるぞ。」
「制圧するためにここに来ているのにこのチャンスを逃す馬鹿はいないでしょう。」
「ガスだ、毒ガスが地下に蔓延してる。だから降りてくるなと伝えろ。」
もちろんでまかせである。
【駅前ビル カウンタック】
ラジャは慌てる。
「なんだこりゃ、日本軍の手入れか?」
地上との緊急解除コードを持っているのは日本軍だけである。
ゲームセンターの係員が外からの通信を受けた。
「地上へのロックが外れているようです。いずれ、ナハト王の軍が雪崩れ込んできます。」
植田は指示を飛ばす。
「応戦しろ、一般人は下層に流すんだ。武器を取れ。」
ゲームセンターの奥から大量の銃器が現れる。
驚くべきことにその武器群は最新装備である。
地下に武器工場もあるのだろう。
談迷子は伝える。
「電子使いラームよ。筐体の表示を見ても間違いない。やつの嫌な性格なら近くで見ているはず。やつなら地上へのロックを再開できるわ。」
談迷子は電子使いラームから尼崎で何度も勧誘と嫌がらせを受けてきた。
今回も嫌がらせの一環なのだ。
植田とラジャはうなづいた。
談迷子は植田とラジャに許可を得て、地下ネットワークに接続を行う。
植田の部下達は素早く行動を開始した。
【駅前ビル 喫茶店】
カウンタックの様子を監視カメラで見ている、ラームは慌てている。
「まずい、まずい、まずいよ。なんか俺が狙われてる。おい、ウィフ、兵士を降ろすのは絶対やめろ、俺が死ぬ。」
「何言ってるんですか?今どこにいるんです?」
「こうなったら、敵の電子使いを先に制圧するしかない。ウィフ、お前も協力しろ。親友(俺)の命を守ってくれ。」
店内の表示が強制放送に切り替わった。
『犯罪者 電子使いラームを捕まえよ。』
ラームの顔写真がモニターに大きく映る。
ウィフは一応聞くことにした。
「何をすれば?」
「演算装置が必要だ、できれば俺の衛星のメインフレームがいい。中継装置をセットして駅前ビルまでケーブルを引っ張ってくれ。」
「わかりました。できる限りやってみます。」
喫茶店の中がざわつく。
あそにいる男じゃないのか。
ラームは発砲した。
「みんな動くな、誰にも危害を加えない。だから少しの間協力してくれ。」
【梅田 地下街某所】
「馬鹿か、地下への道が開いてしまったぞ。」
「中央エレベーターの電源をそこから復旧させられれば地下は終わりですよ、黒いマシーンに蹂躙されます。」
「それまでに早くお伺いを立てろ、行動はまだ先です、とだ。誰だ、魔王属性を追加したのは。」
【駅前ビル 喫茶店】
電子使いラームはまず、鞄から小型ドローンを出して、喫茶店を制圧した。
「ガルム、周囲の警戒を頼む。」
小型ドローンは犬の形をしていてガルムという。
素早く入り口のドアを塞ぐように店のマスターに指示をした。
「みなさん。とくに危害を加える気はありません。だから。落ち着いて、何もしなければたすかります。」
店内にはラームの他に五名いた。
一人はマスター
一人はサングラスをかけた女
一人は大柄の男
一人は大柄の男の息子
一人はスーツの弱そうな男
スーツの男が言った。
「お前が地上の軍を引き入れたと、放送されてるぞ。」
「それは嘘だ。どちらにせよ、地上の兵士たちは解錠されても降りて来てないだろう。」
ラームは銃を突きつけている。そんな人のことが信じられるものではない。
「じゃあ、目的は何だ?」
「俺が聞きたいよ。」
店の外のモニターを確認すると自警団が集まってきている。
大柄の男は自身の端末に女の子キャラが配信されていることに気づいた。
「おい、こいつもお前の仕業か?」
喫茶店のモニターにも同様の映像が映っていた。
姿はメイド服とナース服を組み合わせた女の子である。
ラームは思いだした。過去に経験したことがある。この手口に。
モニターから声が聞こえる。
『私はナギ。遥か地下の田舎から来たんだよ。今は地上への接続をオープンにしたくて。お兄ちゃん方には通信接続の物理的な直結をお願いしたい。話が面倒だから、合理的に最初に、調教をさせてもらうね。』
「槇島モデル・・・か、しかも汚染されている。」
何かおかしい、空気が変わった。
ラームは、空調の機械を確認して、電源プラグ抜いた。
ガルムは横で唸っているようだ。
【駅前ビル ゲームセンターカウンタック】
先程の映像はゲームセンター内にも流れていた。
『じゃあ、調教スタート』
何人かの人が体調不良を訴える。
談迷子を吐き気を覚えた。
『わかったかな?地下の酸素濃度を少しだけいじったの。あと2分で元に戻すね、お兄ちゃん。』
苦しむ人が一人二人と増えていく。
そして言うように2分経つと、苦しさは少しずつ落ち着いていった。
『人体へは後遺症が出ないレベルだよ。15分毎に少しずつ厳しくして同じことを繰り返すね!誰か地上へのケーブル接続をよろしくね!』
談迷子は言う、早くラームを抑えろと。
【駅前ビル 喫茶店】
ラームは地下のネットワークを確認した。
インターネットがなくなり、地下ネットワークは。専用のLANとして接続され、地上とは分離されている。
各階層では、セキュリティ要素を持ったルーターが怪しい動きを管理している。
ラームはそのルーターを越えようとすると、エラーで進むことができない。
ナギが端末上から答える。
『ダメですよ、地下はすでに掌握していますから。』
ラームはそれには応えない。
機械に回答する義理を持たないのだろう。
「まずここから、外に出て物理的にルーターを支配する必要があるな。ガルム、頼めるか?」
ガルムはうなった。
喫茶店のドアをドンドンと叩く音がなり響く。
「おい、ラームここにいるのか!」
この中の誰かが通報したのだろう。
ラームは喫茶店全体に伝える。
「この中の誰かが通報したようだ。誰がやった?俺はそいつに警戒する必要がある。危害は加えないから、せめて対策をさせてくれ。」
ラームは馬鹿正直に聞いた。
手を挙げたのは男の子だった。
ラームは言った。
「よし、いい子だ。お前くらいなら、そこの換気口から外に出れるはずだ、この部屋から出ていけ。」
父親に協力をさせて、子供を換気口から外に出した。
その時にガルムもこっそりとつけて。
もちろん、ラームは自分から言い出す前に子供の仕業であることを承知している。
大人は子供のために無理をするかもしれないし、この部屋で子供に消耗させるのも気をつかう。
人質は十分他にもいるのだ。
ドアを叩く音もめんどくさい。
ドア越しに、銃声を聴かせながらラームは言い放つ。
「こっちには人質がいる、無理に入ってこようとするとぶっ殺していくぞ。」
ドアを叩く音が消えた。
ラームは慌てながらも、地下ネットワークの様子を確認している。
その後、2回目の酸素濃度調節が入り、悲鳴が部屋を支配した。
喫茶店内部は換気装置を破壊しているから影響は少ないが、この部屋もそのうち酸欠で動けなくなるだろう。
ガルムは一つ目のルーターに到達し、指示通り、背面のスイッチで初期化し、新たな設定を施し、通過するデータは全てガルムの承認が必要なように切替を行なった。
ラームは少し安心する。
この狭いエリアだけは支配権を取り返した。
酸素濃度の供給は別ネットワークのため、まだピンチは続く。




