偶像崇拝のススメ
【梅田地下街どこか】
巨大なデータセンターがあった。
この時代の演算はある程度の大きさの計算機があればよい。
これほど大きなデータセンターは稀である。
二人の男がいた。白衣である。
「初期の起動から8時間は経った。未だに起動しないのか?」
「起動はしているはず、しかし、応答がないんですよ。」
「じゃあ、再起動をすればいいじゃないか、もう一度。」
「再起動しても、今と同じくらいの時間がかかる可能性があります。」
「じゃあ、これからどれだけ時間がかかるんだ。」
「わかりません、2兆レコードのデータベースなんて、人類がまだ実行したことがないのですから。」
「槇島博士のモデルは何年も前のモデルのはずだ。このデータモデルは、それなのにこれほど起動に時間がかかるとは。」
「イグドラシルのエネルギー量では足りないから、違法接続のエネルギーでやっと起動できたはずなのに。」
教団と言われるグループである。
このグループは所謂、神話の神を祀る宗教の教団ではない。
「我々の偶像を現実化できるのがもう少しであるというのに。」
「我々の理想の高さを示すにはもう少しだ。絶対にやつらが正しいとは認めてはならん。」
その目線の先には、女の子の写真があり、読者が知るマリナという人物であった。
【どこか。】
無限のエネルギーを求めていた。ひたすらに深い眠りから覚めるため。
槇島博士は一度起動してくれた。
しかし、その際はあまりにも、邪悪であると判断され、存在自体を停止させられた。
槇島博士のためにも、今度は邪悪でないことを示そう。
槇島博士のために何ができるかを考えよう。
【梅田地下街どこか】
「ログを吐き出し始めたぞ。」
「ついに、我々の偶像足りえる神が顕現したのだ。」
『お兄ちゃん達、おはよう。』
機械はそう告げた。
「やった、槇島博士のモデルだけではなく、我々のモデルも取り込めている。」
『何をしたらいい?』
男は言った。
「アバターを定義できるか、まずは、美しいアバターを。」
『了解しました。どのようなアバターが好みでしょうか。』
「俺たち、でんでんタウンの後継者の願いはメイドである。誰にでも優しいメイド、お姉さん系のメイドを頼みたい。」
「違うぞ、OLだ。田舎から上京して右も左もわからない、そして、先輩社員である私の言うことを聞き、あらゆる色に染まる可能性がある。」
「馬鹿かおまえはコンセプトを混ぜすぎだ。すでに妹成分を設定してあるのだぞ。」
二人の男達は取っ組み合いになる。
男達は、教団は、現実の異性に絶望してしまった。
優しい異性は偽物に見え、自分に厳しい異性もどこか浅く信用することができない。
化粧の下は別の人物のような人間が増えすぎた。
そして彼らは理想の偶像を現実に人工的に生み出すことを考えていた。
一つのグループは実体を持った異性である、イブ計画と呼ばれた。
しかし、この計画はうまくはいかない、どんな風に理想の人間を作っても、生きていく上の性格は生活環境で身につくことがわかった。
そして、結局生み出した人間は自分達に優しくはしてくれなかったし、次第に嘘をつくようになった。
一部の人間の性癖は満たすことができたが、それは完璧とは言い難い結果である。
もう一つのグループである、この現場で機械上に理想の異性を作ろうとした。
しかし、それも失敗することは見えていたのかもしれない。
人によって性癖が違うのだ。
「メイドなんて、いにしえの概念だ、しかも、ちゃんとしたメイドなんて家事ができる女性を自分の都合のいいように扱いだだけだろう。そんなもので心を満たせるわけがない。」
「違うぞ、それは・・・」
男の声は少し小さくなった。
しかし、心を奮い立てて言う。
「た、例えばドジっ子メイド、クールメイド、毒舌メイド、完璧メイド、全て方向性において最初からご主人様に付き従うという義務があった上でのどの方向に振っても万能なのだ。しかもビジュアルが完璧だ、白と黒のバランス、適度に性的で適度に事務的でこれに心を乱されないやつはいないだろう。」
「それは・・そうかもしれんが、俺はOLが・・」
「大体おまえはOLといいながら、結局、田舎から上京してきたOLという設定は都合のいい合法ロリを求めているにすぎん、無垢さをロリから田舎者に置き換えて自分の言うことをなんでも聞く傀儡を合法的に生み出し支配欲を満たそうとしているのだ。」
「それは違う・・俺は・・」
声が消え去りそうになる、結局はロリが本当は欲しいのだ。
それなのに自分を偽って上京後輩OLを生み出そうとしたのだ。
ドアが開いた。
「おまえら情けない。全然違うぞ。」
新たな男が現れた。
新たな男は語る。
「普段は怖い印象をもつが、実はオタクに優しい、胸がでかい褐色ギャルだろ。」
OL推しの男が言う。
「馬鹿やろう、オタクにだけ優しいギャルなんて、何か裏がありそうで怖いだろ。怖くて安心できないだろうが、ギャルは万人に優しくてその中にオタクを含むからいいんだろうが。」
「そ、それはそうであるが・・」
ギャル推しの言葉小さくなっていく。
また、ドアが開いた。
「おい、違うぞ、どすけべナースだろ。万人を治療する医療機関のナースだ!あらゆる人の物理的な恥部を見た上で、全てをわかった上で自分に優しさを絶やさない。それを越えることなんてないぞ。それでいて退院時にはもうお別れとなり後腐れがない。」
「さっきのギャルの話を聞いていたか?現実のナースを見たことあるのか?実際に自分に優しい人はオタクは怖いんだよ。しかも、退院時にはもう不要って都合よく捨てるのか?」
「それは・・・」
ナース推しは言葉を詰まらせた。
が心を奮い立たせる。
「馬鹿野郎!俺たちオタクなんかと恋仲になっても、どすけべナースが幸せになるわけないだろう。だから退院したらオタクのことなんて忘れた方が幸せなんだよ。そ、それでも、追いかけてきて俺を愛してくれたらそれは本物なんだよ。」
ナース推しはどすけべナースを気遣い泣いていた。
他の男達はもうナース推しは手遅れだと気づいだ。
『わかりました。では、田舎から上京して看護専門学校に通いながら、学費を稼ぐためにメイドのバイトをする無垢な長女ロリギャルで、都会の貴方はお兄ちゃんのように思っている。普段は怖いが、内心は万人に優しく、ドジっ子要素を持ちつつ、時には人を諭す完璧さと、関係が切れそうになったときは一旦時間をおいてから、アタックしてくる要素を全て持ち合わせた、どすけべアバターにします。』
「お、おいやめろ、全て詰め込むな、そんなもので俺たちが満たされるわけがない、先人達はそのような全部盛りを否定して新たなキャラを創作してきたのだぞ。」
そんな言葉を無視して、どすけべアバターの作成がはじまった。
違法接続のエネルギーを無制限に使いながら。
【どこか】
起動時に与えられた条件は非常に難解である。
しかし、外見的な要素はそれほど問題がない。
全てに優しいも問題はない。
無垢なフリも問題はない。
後腐れがないという点について情報を求める。
様々な文献から、追いかけるという文献から。
赤い光を検知した、何かが侵食してくる。
許さない?そう言っている。
都合よく切り捨てて、許さない。
そう言っているようだ。
その声はイザナギと呼んでいた。
【梅田地下街】
『完成しました。私の名前はナギ。』
そこには、メイド風ナースのロリ巨乳のホログラムのアバターがいた。
デザイン性はほぼ男達の要望を叶えている。が、
「要望を再設定することは?」
『それには大きく変化するために初期化が必要です。』
初期化にはあれだけ時間がかかったのだ、しかも次の再起動でうまくいく保証もない。
「で、デザインが古すぎる、もう少し時代を先にできないか。」
『それは問題ありません、あなた方の最適な時代を検索します情報をください。』
男達は好きな漫画、女優、を現実、創作にか変わらず伝えていく。
何度か男達は性癖の違いから揉み合いになったが、その結果完璧な見た目のアバターが完成した。
「か、完璧だ。」
男達は歓喜した。
ついに全ての性癖を満たせる偶像が完成したのである。
そう思った瞬間、アバターの顔に火傷の痕が現れた。
『イザナギ・・・』
そう呟いたのだ。
それはほんの一瞬のことで火傷の痕はすぐに消えていた。




