衰退するゲームタイトル
談迷子は、電子使いラームが示した梅田の地下にある逆さ桜の間を探している。
同じ目的を持つだろう、ナハト王という人が地上部を制圧しており、そのうち地下にも攻撃を仕掛けてくるだろう。
その前に今も逆さ桜の間を探している母を見つけて情報を得るのだ。
【ゲームセンター カウンタック】
結局大会までは3時間ほどあった。
だから黒田には必勝法を与える時間ができた。
その後はラジャに呼び出されたのだ。
「この人が植田さんだ。青のチームのボスだ。」
地下のエリアでは色で各グループの勢力を表している。
そのグループ達を束ねるための戦いがこのゲーム大会なのである。
昔は抗争めいたこともしていたが、イグドラシルの倫理違反ペナルティへの恐れから、定期的に各グループのトップが無血で交代をできる仕組みを作った。
最初は将棋や、囲碁を、屋内スポーツが種目に選ばれたが、実力差が出過ぎるとし、流行っているレトロゲームが種目に選ばれたのだ。
これは余談だが、驚くべきことに、この地下には人工スキー場、人工ビーチまであるらしい。スポーツをするためのスタジアムくらいはあって当然である。
レトロゲームはその年に流行っているゲームから選ばれる。
このゲーム対抗戦で勝てば、常識の範囲で、ある程度、他グループの融通が効くのだ。強制力はなく、その程度の利権である。
参加しているグループは、ラジャと植田の他には、黄色の日野、緑の畠山である。
ラジャからある程度、試合の説明を受けた。
三種目の内、先に2勝した方が勝ちである。
禁止ルール等は特に無しである。
トーナメント形式で最初に戦うのは、黄色のチームである。
ラジャと日野は二人で何か盛り上がっている。
モンテに似たゲームセンターを建てるような男である。
ゲームの話し相手が嬉しいのだろう。
「なんて屈託のない笑顔なの。」
しかし、それぞれ別れると、談迷子にラジャはこういう、
「絶対に勝つぞ、負けは許されん。どんな手を使ってもな、ゲームに倫理違反のペナルティはないからな。」
どうもこの試合は、地下空間で配信されているようだ。
各陣営はその配信で自分たちの活躍をアピールしているようだ。
どうも大きな広告スポンサーもついたらしい。
【駅前ビル 喫茶店】
広大な喫茶店である。100坪はあるだろう。
ミラーがたくさんあり、バブリー感を強調させる。
そこでコーヒーを飲んでいるのは電子使いラームである。
閉鎖されており、地下へは降りれないはずだが、方法は簡単である。ラームも談迷子のように尼崎のトンネルから一般人のフリをして渡ったのだ。
福島の関所は電装をいじくって、混乱している間に突破した。
虫型のドローンを飛ばして駅前ビルの様子を伺っている。
通信端末が鳴った。ナハト王の側近のジャハムからだった。
「ラームか?何をしている。日本軍の相手か、柳生のフォローのどっちかをしてくれ。」
ラームはどうでも良さそうだ。
「戦争なんて素人の私ができるわけないでしょ。そもそも、ついてきたのは槇島博士の研究所、逆さ桜の間の探索をするためだよ。インテリを前線に配置して捨て駒にしてどうするのよ。」
「地下への降下は日陰博士が進めてくれている。だから、それまでの間だよ。」
「あら?あのじいさん、飛騨に帰ったんじゃないか?」
「知らん、とにかくそういう段取りでやっている。」
「すきにすればいいが、こっちは予定通り逆さ桜の間を探すとするよ。やっとここまで歩いてきたんだからね。行動は利害が一致している時だけだと、協力関係を決めてたはずだよ。」
赤い光の発生源を破壊したい者、解明したい者、保護したい者、それぞれ目的が違うのだ。
そう言って通信を切断した。
ラームにすれば、ナハト王の部隊と出会った時に敵対だけはしなければいいのだ。
喫茶店のモニターにはゲーム対抗戦の様子が映っていた。
「はじまったか。こういうのは楽しそうでいいなぁ。うまくいきゃ、先代の談迷子の目に入るんじゃねぇか。」
ピピという音がして、通信端末に赤い表示が出力された。
電子使いラームが抑えている電装系の制御を表すマップ上である。
「こりゃあ、珍しいこともあるもんだ。まずいかもな。他の電子使いか・・・」
【ゲームセンター カウンタック】
初戦である。
ラジャのチームメンバーの黒田はアキラというキャラを使っている。
対戦相手はジェフリーを使っていた。
談迷子は多分、そのキャラなら大丈夫そうと、安心した。
「アドバイスをしても?」
ラジャに許可をもらって、話しかけた。
「黒田さん、下段当て身しながら、躍歩頂肘だけしてたらいいからね。」
ジェフリーは下Pを刻んできた。
基本である、スプラッシュマウンテンもくらってしまうが、それ以降は無理して付き合わず、黒田は危なげなく勝利する。
一応このゲームではアキラは最強キャラとされる。
談迷子はアドバイス通りに動かない黒田には少し不満である。
続く、ラジャも、カプコンvs SNK2をプレイした。
キャラは、リュウ、ケン、ガイルである。
無難なチームであるが、無難に勝った。
談迷子はプレイを見てて、
「ラジャは前キャンしらないんだ、と呟いた。」
それにより、談迷子まで順番は回って来なかった。
談迷子はあまり大会レベルが高くは無いのではと考えた。
このまま出番がなければいいけど、オスシってやつも強いらしいし。
そして、次は決勝である。
ラジャが何か、必ず勝つ的な話をしている。
観客達は大きく盛り上がっていた。
決勝が始まった。
黒田には隠し技のアキラスペシャルも教えてある。
アキラスペシャルは投げ技扱いで、ガード不能で、喰らうと死ぬ。
バーチャ2の闇とも言える技である。
その上で千本パンチも教えたのである、負けることは考えにくい。
バーチャファイター2は神ゲーである。
ポリゴン全盛期に作られた伝説のゲーム。
スターフォックスのCMで少年達は頭にポリゴンという言葉を植え込まれた。
時代に変革が生まれたのである。今までのドット絵の世界から全ては3Dに変わっていく。その始まりを作ったゲームといえよう。
セガはなぜか、ポリゴンで格闘ゲームを作ってしまった。脅威の開発力といえよう。
誰もが、筐体の中に人がいる!と評したのだ。
しかし、まだまだスターフォックスと同じで、グラフィックは2Dゲームに遥かに劣っていたのである。
すぐに、その常識を破壊したのは僅か1年後に発売されたバーチャ2である。
この時の開発スパンは異常である。
カクカクのポリゴンが実写ともいっていいデキとなり、みんながこぞって対戦をしたのである。
ストリートファイターのプレイヤーは習熟していたため、新規タイトルのため参加の敷居の低さも人気のきっかけとなった。リーマンや、ヤンキーもたくさんプレイし、ゲームセンターは加熱していく。
植田側の最初に選んだキャラはラウである。
談迷子に一抹の不安がよぎった。
予感はあたったのだ。立ち斜上である。
この技はガードするとリングアウトで死に、食らえば大ダメージで死ぬというテクニックである。
作者はこの技でバーチャ2をやめた。
黒田はアキラスペシャルも、千本パンチを出す暇もなく蹂躙されていく。
一度目は空に浮かされて死亡、二度目はリングアウトで死亡という瞬間であった。
黒田は渾身の当て身技でラウに一撃を当てた。
観客は大いに盛り上がった。
しかし、その後、普通に死んだ。
次はラジャである。
相手は植田、チームリーダーであった。
カプコンvs SNK2での戦い。
カプコンvs SNK2は神ゲーである。
カプコンとSNKは当時の格闘ゲームを支配していたと言えるほどのメーカーである。
その2大メーカーのキャラを使える上に、40名を超えるキャラを使える上に6つのゲームのゲームシステムで戦えるのだ。
更にはSNKの人気キャラのロックハワードが使えるというまさしく神ゲーである。
大阪の京橋のグランシャトーのロケテストで、このゲームの現物を見た時に流石に震えた。
格闘ゲームの集大成とされるゲームである。
それは多分現代においても変わらないのであろう。
このゲームの後に明らかに格闘ゲームの熱気は下がっていく。
ラジャは変わらずに、リュウ、ケン、ガイルでチームを組んだ。
植田の選んだチームは、ベガ、ブランカ、サガットのAグループである。
談迷子はまた嫌な予感がした。
試合が始まった、リュウとベガの戦いである。
リュウは波動拳で牽制すると、ベガはサイコクラッシャーで波動拳をすり抜けながら攻撃してくる。
ラジャはタイミングが悪かったのか?と、気づいていないようだ。
しかし、ベガはサイコクラッシャーをしているだけで、ラジャのリュウは死んだ。
その後は、サイコクラッシャーをガードして投げ返しすことで、ケンは瀕死でベガを倒すことができたのだ。
しかし、ブランカも同じく突進技で波動拳をすり抜けて飛んでくる、それも無限に。そしてケンは死んだ。
そのあとのガイルも死んだ。
これは前キャンというシステムである。
あらゆる必殺技の前に前転を入れてキャンセルすると必殺技に長大な無敵が乗る。
昔はインターネットがそれほど普及しておらず、ゲームセンターでひたすらベガにこれをやられて作者はこのゲームをやめた。
格闘ゲームの衰退の要因の一つだったといえる。
「これはなんだ!不正じゃないか!」
観客が声を上げた。これほど広告をうって、盛り上げた大会がクソ技連発で終わったのだ。
ラジャは観客に静まるように伝えた。
そこには怒りも何もなかった。
ゲームとは本来未知であるべきなのだ。
将棋や囲碁ではない、ゲームのルールそのものが未知の状態である。
昨今のゲームはそれを勘違いしている。
だから・・・
「リアルファイトじゃー!」
ラジャは肉弾戦で植田に戦いを挑んで行った。
これがゲームセンターである。
文句があれば肉体言語で語り合うのだ。
そういう混沌さこそがゲームセンターなのである。
談迷子は馬鹿馬鹿しくなった。
この時代のゲームはレギュレーションを規定しないとそもそも成立しないのに、それすらも設定されないくらいレベルが低いのだ。
しかし、ゲームには命をかけていて、卑怯さ、さえも、リアルで殴り合いさえも辞さない。
談迷子はそんな様子の時代をアーカイブした。
守りの神オスシに談迷子は話しかける。
「ファルトレスキャンセルを使う気だった?」
「ああ、そりゃあね。」
ギルティギアゼクス、言わずとしれた。神ゲーである。
美しいグラフィック、様々な先進的なシステムがあった。
しかし、途中で開発が進みすぎて、フォルトレスキャンセルというテクニックが見つかった。
攻撃を中断して次の行動へ繋げることができるのだ。
これにより、すべてのキャラの行動は即死級の行動となり違うゲームになった。
それとは関係なく、ミリアの技が見えなくてこのゲームは辞めた。
ラジャと植田が取っ組み合いになりそうなのを周りの観客がうまく止めている。
それを見ながら談迷子は聞いた。
「立ち斜上、前キャンも、もしかして、データマイナーから仕入れたのじゃない?できれば入手元を教えて欲しいんだけど。」
「貴方もデータマイナー?別にいいけど。天満の地下に、段ボールでデータディスクを売ってる人がいて、そこから買ったんだよ。」
「特徴とかなかった?」
特徴ね、、そういいオスシは少し考えた。
「なぜ、こんなの売ってるのか聞いたんだ、大して高くもないし。」
「それが?」
「データマイナーの仕事の半分は掘り起こすこと、そしてデータをまた活かして、過去を・・」
「再現すること?」
オスシは先に言われて驚いた。
「なんだ知り合いなの?」
「そうね。」
談迷子は母の言うことがよくわからなかったが、今になってわかる。
ラジャと植田はくだらない、本当にくだらないことでムキになって真剣に向き合って、それで喧嘩までして、多分、今日再現された酷いテクニックで、このゲームタイトルは衰退するだろう。
しかし、また100年、300年もすれば掘り起こして新たに楽しむ人も生まれるだろう。
これがデータマイナーの仕事なのだろう。
少しだけ母を理解できた。




