魔法使いと柳生とSASと
イグドラシルは全世界に平等にエネルギーを配る。
機械は法則を持って動くが、まだ未知の部分があった。
配信されるエネルギーは機械の動力、通信に利用可能だが、通信とエネルギー供給を兼ねるということはムラがあるのだ。
人間の未知の領域はそのムラに感知して干渉することができる。ただとても稀な才能だった。
それをできる人を魔法使いと呼ぶ。実質この世界で最強の存在といえる。
イグドラシルに許可をもらわずにイグドラシルのエネルギーを利用できる12人の人間。大体は大きな企業か、組織または軍に所属している。
大連の市街にその魔法使いのビリーはラタトクス工業に呼ばれてコピー工場の包囲作戦に参加している。
「なんなのよこの作戦、たかが工場にこの包囲って」
ビリーは極東の戦場に呼ばれて不満そうだった。
今回のラタトクス工業の査察任務はSAS、柳生の部隊と合同である。
元々は柳生の部隊単独での作戦だったが、上海の事件で失敗してビリーとSASが増援となったのだ。
SASは英国の特殊部隊である。今回の作戦では8体のマシーンを派遣していた。
柳生は6体、SASは8体、その上で魔法高いのビリー。過剰戦力である。
ビリーは指先にマジシャンのように灯りをつけて葉巻に火をつける。イグドラシルのエネルギーに干渉したのだ。
名の通り魔法使いのように。
「イグドラシルの番人のラタトクス工業としては違法接続は見逃せないさ。」
機械のスピーカーごしに会話を進める、
しかし、魔法使いと呼ばれる人種も、違法接続には違いない。折り合いがついているかそうではないか、境界線はそれくらいしかない。
SASの隊長のロバートはビリーとは旧知である。元々独立するまではビリーもSASに身を置いていたからだ。
「違反にエネルギーをいただいてるというならお前もそうじゃないか。」
「勝手に地球全土にエネルギーを送りつけて触るな、使うなってそういう理屈の方が勝手なのさ。」
連合の部隊は大連の工業地帯をぐるりと包囲していた。
UDAの部隊が無能だったわけではないが、単純に連合の狙いが工業地帯の制圧ではなく、イグドラシルへの違法接続の調査であることを理解していなかったことが対応の遅れにつながっている。
「この規模なら連合の部隊だけで十分に見えるけど」
包囲の少し外で、ビリーは赤色の機械に乗っていた。
そのマシーンはファルコンと呼ばれる。
名前のように食べるわけではないが、派手な見た目だ。
戦争用の機械としては不都合が多そうだが、現状魔法使いと呼ばれる人種に匹敵する戦力は地上には存在しない。だから、多少の有利不利よりデザイン性が重視されるような始末だ。
随伴するトレーラーにいる男はラタトクス工業の責任者のルルイエという。
女の子は言う。
「あんたはわざわざこんな作戦に柳生の助力要請して、しかも私を出撃させない。何のつもりなの?」
「千佳ちゃん、勘弁してよ。あんたのところ叔父さんが、千佳ちゃんを送りつけてくるなんて思わないじゃない。」
「千佳ちゃんていうな!」
女の子の名前は柳生宗千佳と言った。
学生のような制服、多分学生服を着た女の子だ。
「ラタトクス工業もわざわざこんな作戦も単独でこなせないほど、人手不足なのかしら」
「だから、勘弁してよ、俺は別に戦争屋じゃないんだ。連合の作戦に紛れ込む交渉までが仕事、それ以上は戦争の専門家に任せる。作戦指揮が君、実行はSAS、普通でしょ」
ルルイエはいらぬ疲労を蓄積する。
そうこうしているうちに工業地帯の包囲の輪は順調に狭まっていく。
「戦争の専門家なんだから、何かアドバイスをしてよ、千佳ちゃん。」
「だから、その千佳ちゃんっていうのはやめなさい。気安い」
ビリーはくだらないじゃれあいを聞きながら、少し退屈していた。
「こんな小さな戦場、出るまでもなかったな」
ルルイエはなだめる気持ちで
「何もなければ連合に任せてしまえばいい、夕食までに終わるといいけど。」
「だから、それだったら柳生を呼ぶなって言ってるの!」
「ごめんね、千佳ちゃん」
「だから、千佳ちゃんって呼ぶな!」
柳生といえば日本で一番高名な戦闘集団だ。機械の性能は技術的な限界とイグドラシルによる制限により均一化されていて、人間の性能こそが戦闘の結果を左右した。そこで武術の流派は戦場では重宝されるし、流派自体もその境遇の中で戦闘の経験を積んでいる。
柳生はその各流派の中でも最も有名であったが、なぜ女の子が派遣されたのだろうか。
対して自分のような世界に12人しかいない魔法使いが呼ばれたアンバランスさがビリーには理解できない。
工業地帯の包囲には40体の連合のマシーンが配備されていた。
連合の一機の機械が地下への通路を見つけた時、事態は動き出す。
最初に気づいたのは宗千佳だった。
「あれ?匂いが変わった。新手だね。」
ルルイエは宗千佳の反応を見て顔つきを変える。
「ビリー、ロバート戦闘準備だ、包囲が崩れるぞ、おい、このトレーラーは後退するからな。」
宗千佳も自分のマシーン雷煙を起動させる。
ここでいう宗千佳の匂いとは、香りのことではなく、雰囲気を指している。
女の子とはいえ、基礎教育は叩き込まれているし、宗千佳の能力をルルイエは誰よりも理解している。
ビリーは目の前に配備さている連合の機械が一機、二機、そして三機崩れ落ちるのを目撃する。
「切断される?こんな残酷な兵器、イグドラシルが許可するのか。」
咄嗟に現れた目の前の一体の機械に対して、ロバートはバルカンで攻撃を仕掛ける。
ラタトクス工業はどの勢力に対しても中立を維持する必要がある、しかし敵は異質だったのだ。
スピーカー越しに宗千佳が言葉をかける。
「無理に交戦する必要はない、我々がどちらかの勢力に加担するのはまずい、まずは敵の情報収集だ。」
見たことない機体だった。
黒いマシーン、碁石なように平べったい頭をしていた。
手には光がチェーンソーのように回転する武器を持っている。
ロバートは通信をオープンにする。
「こちらはラタトクス工業の監査団である、貴公らと戦闘の意思はない。さきほどの攻撃は威嚇である。どちらに加担する気もない。」
黒いマシーンは通信を聞いていないかのようにロバートに攻撃を開始した。
SASの僚機が庇うように前に立ち塞がった。
クリスとライルの機体である。
「隊長は下がってください。指示に注力を。」
黒いマシーンの光るチェーンソーが逆回転する。
瞬間であった、ライルのマシーンのコクピットを光の矢が貫く。
ライルは悲鳴を出す暇もなく絶命した。
クリスはその光景を見た直後にマシーンを切断された。
SASは世界でも最高峰の部隊である。その部隊の2体が一瞬で破壊された。
ロバートは部下が殺されていくのを見て残りの僚機に距離をとるように指示を出す。
黒いマシーンのチェーンソーはまた逆回転をはじめていた。
ビリーは未知のマシーンに判断を鈍らせていたが、
しかし、それでも魔法使い。SASの機体を守るようにビリーの機体はまるで生物のように、柔らかく俊敏に駆動する。
黒いマシーンの首をはねる動きをするが、寸前でかわされてしまう。普通の機械相手であれば勝負は決まっていただろう。
「かわしたのか。」
「すまん、手間をかけた。」
ビリーの援護がなければロバートのマシーンも光の矢によって破壊されていただろう。
なんと時間差で敵の機械は崩れ落ちる。
ビリーの意思により敵の機械は燃え上がっていた。
黒いマシーンは爆発して機能停止する。
先程、葉巻に火をつけたのと同じ技能だろうか。
魔法使いが圧倒的な戦力とされている理由だった。
倒された連合のマシーンに数名の工兵が救助に向かう。
切断のされ方を見ると、パイロットは生きてはいないだろう。
敵の主兵装は、イグドラシルからエネルギー供給されている機械を簡単に切断している。
ビリーの機械も一般の機械よりは耐えるだろうが、攻撃をくらったらタダではすまないだろう。
「何だあれ、かなり危ないんじゃない?」
ルルイエは首を傾げる。
「うーん、撤退するかなぁ、魔法使いに何かあったら、始末書じゃすまない。でもこのまま何も情報を得ずに撤退したら、同じく始末書だし。そもそも、この作戦に対するリソースが自分だけって有り得なくないか。」
今倒した機体があと何体いるのだろうか、魔法使いとはいえ、多数から仕掛けられて待つのだろうか。
その悩みとは逆に宗千佳のマシーンは先行しようとしていた。
柳生の僚機の5機と一緒に。
宗千佳にすると碌な指揮もできない、戦力にならないのでは、屈辱なのだ。
そういう誤ったプライドを持たせる柳生の教育は誤っているのだろう。
戦闘が始まったのだから自分が指揮を取る。あれが倫理的かどうかも、見極めてやる。
そういう思いが宗千佳にはあった。
とはいえ、先程のマシーンがゾロゾロ出てきたら対抗できるのだろうか。
そういった不安は当然のようにあったし、目の前で起きてるのは殺し合いである。
「千佳ちゃん達は、指揮官だから、俺のマシーンより前に出ずに指示をしてくれりゃいい。」
ビリーはそんな内心を見抜いて、気持ちを止めていた。
指揮官である立場を認めるという気遣いぶりである。最も僚機も前に出さないのは気が回っていない点でもある。
更に二体の先ほどと同じマシーンが二体現れる。
ビリーが一体引きつけるが、一体は宗千佳の方に向かってしまった。
僚機の一体、村田の雷光に襲いかかるが、宗千佳が、体当たりで攻撃を止める。
止まったところを残りの4体で袋叩きにした。
柳生の流儀もなく、ただの袋叩きである。
やっと黒いマシーンは沈黙した。
そんな無様な戦い方でも、宗千佳にとっては初の戦果となっていた。
ビリーは先程と同じく相手にしていたマシーンを燃やしながら、柳生一行を足手まといと感じている。
ルルイエから無線が入る。
「ビリーにあまり連戦させるな、可能な限り連合のマシーンに任せるんだ。それに相手のマシーンはまだ倫理違反をしたとは限らないから無闇に攻撃はしないでくれ。」
ラタトクス工業の目的は戦争への介入ではなく倫理違反の静止である。
指揮官は宗千佳である、戦果も魔法使いには勝てないし、実際の裁量も狭いし、ルルイエの意見もいちいち正しい。自分は役に立ちたいだけなのだ。
そういう気持ちも、周りから見透かされている、若者にとっては居心地が悪い。
それからルルイエの意見とは関係なく、連合のマシーンが展開していた。
大体20体はいるだろう。
先程は不意打ちのような形だったが、この数を制圧するのは難しいだろう。
ただ。相手のマシーンが残り何体いるかにもよるし、UDAの反撃もそろそろ始まる頃である。
「また、臭いが変わった。」
宗千佳がそういった少し後だった。
ドンッという音がした。
工業地帯の丁度反対側だろうか。大きな音である。
音の方向を見ると、巨人が立っていた。




