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近未来梅田地下街紀行  作者: 川中太一
巨人事変
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戦艦大和の無念

「なぜ、巨大ロボットがいないのだ?」

いかにも博士風の小さな老人が語る。


なんです?と若い男は聞きかえす。

「イグドラシルというシステムは無限のエネルギーを得れるのだろう、であればあんなに小さいロボットより、もっと大きい、超弩級のロボを作ればいいじゃないか。」


若い男は理由を答える。

「確かにイグドラシルのルールではサイズについては規定がないよね。だったら、誰も思いつかないか、思いついたけどやらない方がましだったか。」


老人は語りだす。

「富士山はなぜ信仰されるか、なぜ登るかわかるか?日本で一番大きいからだ。ティラノサウルスはなぜ人気があるか?でかいからだ。ゴリアテはなぜ強さの象徴とされたのか。巨人だからだ。ボクシングのヘビー級はなぜ強いか?力士はなぜ体を大きくする?全ては巨大だからだ。」


老人と若者は工場にいた。それも非常に大きな工場か。

「だからこそ、こんな巨大なものを作ってるんだろ。作ったからいいじゃない。」


太平洋戦争で超弩級戦艦の役割は終わる。

戦艦大和はまさに超弩級の兵器で40キロ先を攻撃できたが、艦載機の方が射程は大きい。空母の時代になったのだ。

しかも、コストがばかでかい。製作期間も長い、大きな戦艦は狙われて簡単に沈められる。

そして、潜水艦、遠距離攻撃無人ドローン。大きな兵器は役に立たないのだ。


しかし、老人は不満なのだ。

「戦艦大和は無念だっだろう。呉の戦友たちが作った最高傑作だ。」


この物語は未来の話である。過去にシンパシーを感じて、戦艦大和の製作者を戦友と呼んでいるのだろうか。


「ヤマトってのは空を飛んで宇宙に行って悪と戦って地球を救うんでしょ。リメイクが最近発表されてたよ。」


若い男は老人を馬鹿にしているのだ。


「わかっているじゃないか。日本の魂、戦艦大和が蘇って更なる巨大な敵と戦う。まるで数100年の無念を晴らすようにだ。」


元々は製鉄所だった広大な敷地。球場が20は入る敷地であった。大連の湾岸部にそれはあった。

そこの工場に横たわる巨大な影。横たわるという表現をしたということは人型なのである。


「繰り返すけど、あんたが作ったこの巨人で何が不満なのさ。その欲求を満たすために作ったのだろ?」


日本の岐阜には洞窟があった。老人の研究所だった。

太平洋戦争、いや、老人にとっては大東亜戦争当時、硫黄島陥落の知らせが届いた。

本土決戦を予期して陸軍が求めたのは超弩級の地上決戦兵器であった。

老人はその洞窟の奥に山脈をくりぬいて作った巨大な研究所を作っていた。

昭和はマッドサイエンスティストの時代であったのだ。子供向け、大人向け多くの敵はマッドサイエンスティストだった。

核兵器、化学兵器を代表する行き過ぎた科学力に恐れたのだ。

まるでその寓話の世界の人間である。老人にとっての昭和の最後の年。

活発に研究所には日本にとって不利な情報が届く。

完成間近であった。日本を救う地上決戦兵器が。


しかし、その最後の年はとても寒かった。

山の中に作った研究所は氷に閉ざされて、研究所ごと氷壁の中に埋もれた。

その氷壁が解けたのは、この物語の時代から5年前のことだった。

老人は現在の技術でいい感じに解凍されたのだ。

そして、謎の組織?に拾われてここにいる。


「繰り返すけど、巨人を作ってるから不満はないでしょ。」


若い男は老人の相手するのは案外嫌ではないようだ。


「このロボットは最強だ、歩けば街も敵も全滅する。高火力熱線は全てを焼き尽くす。大和と同型の砲はあらゆるものを貫くだろう。」


ずっと聞いているのは何が不満か、である。

それがわからないのである。


そんなやりとりをしていると、携帯がなって会議室に呼び出された。

若い男は役割は老人の警護であるから、言われた通りに老人を連れて会議室に向かう。


4人の男がいた。

一人は侍のような和服を着た男

一人はボロのコートを着た男

一人は青い髪の子供

一人は身なりの良いスーツ姿の男


身なりの良いスーツの男が言う。

「雑賀が梅田の情報を手に入れた。まだ未完成だが、位置情報に信頼性がある。談迷子という女史が、作った情報だ。20名のマイナーの成果物を比較したが、比べ物にならない精度だよ。ほとんど位置の特定ができている。協力は彼女にお願いすべきだね」


談迷子の素性についてモニターに映し出される。

データマイニング技師。一級免許保持。

26歳太平洋船団出身。母親が先代談迷子。


「もともと梅田で盗掘をしていた一族だ。今も母親は梅田で盗掘と調査をしていると聞く。適任だと思う。というより、他のデータマイニングでは無理だろうから選択肢がないね。行動を起こす時期だ。雑賀も派手に暴れたし。」


和服の男が言う。

「こちら側のイグドラシルに接続できるマシーンはもう180体は超えているんだろ、それだけでも、軍でも止められはせんさ。それに我々の部隊もいる。」


ボロのコートの男が言う。

「戦力としては十分。しかし、兵站がもたんだろう。坊ちゃんの兵隊の練度も足りん。どの期間戦うかだが。それに久我幻魔のチームが来たら、全く持たんと思うぜ。」

坊ちゃんというのはスーツの男のことを言っているのだろう。

久我幻魔というのは傭兵としてこの世界で最強と呼ばれている部隊である。


青い髪の子供は語り出す。

「ラタトクス工業の隠し球があるかもしれない。雑賀は5体のマシーンで鎮圧されている。イグドラシルへからのエネルギー供給は通常のマシーンに比べて1.2倍だったんだ。エネルギー量で上下が決まる。これがイグドラシルの絶対倫理である。何か秘密がある。」


イグドラシルとの接続下の戦闘は倫理的に行われる。

だから、マシーン自体にもレギュレーションが決まっている。

圧倒的に強いとか、弱いとか非対称のスペックの戦闘は倫理的ではないのだ。

このシステムこそが、戦争というものが人間の本来の強さ、性能の差の戦いに戻したのだ。

だから、柳生宗千佳のような、古来よりの武家の精神性や、戦争の稼業が成り立つようになった。


何故か、和服の男は少し喜んだようにニヤついている。実に気味がわるい男だ。野心のような、慢心のような。


スーツの男が口を挟む。

「そもそもその、絶対倫理の枠組みが現代では国家の前提条件になっている。ラタトクス工業が認めない国家は経済を為せない。だから、UDAのような集合体ができて、途上国を弾圧しているのだ。」


実態であった。保護する範囲、庇護を受ける範囲はシステムの中にいるものだけである。

過去には核兵器を抑止という名目で大量生産され、持つものには平和の象徴であり、持たないものには恐怖の象徴であった。これと同じであろう。


青い髪の子供は口を挟む。

「全ての人を救うことは無理である。イグドラシルの理念は救うことではなく人類の文化を守り育てることにある。倫理はそのためにのみ存在する。」


ボロのコートの男は話を戻そうと言う。

「雑賀という男が、並以下ということはない。言くように1.2倍のエネルギーが正常稼働していたなら。それ以上の何かがいたことになる。止めれる可能性はいくつかある。久我幻魔のチーム、ヤルタ機関、例の緊急停止プログラムの可能性もある。だから、間違えのないよう、予定通り、進めるべきだ。そのために長い時間をかけて巨人まで作ったのだろう。」


久我幻魔の話が出るたびに、ボロのコートの男の唇は震えていた。何か因縁があるようだ。


静かにドアが開いた。先程の若者と老人だ。

遅れたわけではなかったようだ。雑談が続いて意思決定をする会議に成ったのだ。


少し音がした、爆発音のような。破裂音のような。


青い髪の子供は言う。

「予定通りではない。本来、雑賀のマシーンは拿捕される予定ではなかった。そのために、計画が早熟である。先ほど連合がこの工業地帯に空爆を始めた。」


会議室の人間はこの話を聞いても冷静であった。

老人は言う。

「ここがまだ攻撃を受けていないのはなぜだ?」


青い髪の子供が淡々と答える

「おそらく、無差別に攻撃を仕掛けている。焼け野原にしてでも我々を炙り出す気だ。」


青ざめた顔をした老人がいた。

「民間人を巻き込んで、無差別空爆だと・・・」

老人の頭に、かって自分の街が焼夷弾で焼け野原になった光景がフラッシュバックする。

怒りではなく、悲しみでもない感情である。


ボロのコートの男が端末を確認している。

「倫理的な相手ではないから、このように攻撃していると連合は宣言しているな。つまんねぇなぁ。結局、言い訳したらOKみたいな、殺してもいいようなシステムが倫理的なのかよ。俺の仲間はそういう仕組みに殺されたんだよ。ひひひ」

笑ったように聞こえたが、それも震えていたのだろう。


和服の男は口を開く。

「我々の部隊はまだ、出せる状況にない。コピー機と違い通常のマシーンだからだ。連合のマシーンが乗り込んできたら、迎え撃つのはナハト王子なお任せてして良いか?」


ナハト王子と呼ばれたのはスーツの男だ。

構わないと言う。


続けて、和服の男は計画もここで実施してしまおうと。

老人の巨人を起動させて、連合のマシーンを蹴散らす案でもある。


しかし、老人は不満なのだ。

あれほど超弩級ロボについて熱く語ったのに起動には不満なのか。

巨人は問題なく起動するだろう。連合を蹴散らすことができるだろう。それは老人にはわかっていた。


若者は老人にどうしたの?と気を使うのであった。

老人は、超弩級ロボの存在意義について、誰一人としてこの場の人間が理解していないことが不満だったのだ。

超弩級ロボ製作者にとっては当たり前のことであり、先程の若者との会話の同じ理由であったが、それは後々分かることになるだろう。


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