大きな機械
三谷は中将から誰よりも早く違法兵器を破壊しろと指示を受けた。
上海での違法兵器を倒したキョウジを三谷は連れ出した。
まず、三谷はキョウジの所属する警備会社に連絡することにした。
彼が何者かを理解する必要がある。
連絡手段を調べると、ラタトクス工業への登録から音声通話の連絡先のみ見つかった。
もしもし・・
「はい、SYBKです。ご用件をどうぞ。」
機械音声であった。すでに嫌な予感がする。
「私は連合の軍人で、白洲キョウジという、貴社の社員について問い合わせがしたい。」
「ご連絡ありがとうございます。社員の個人情報についてはご回答ができません。」
「代表の方はいらっしゃいますか?お話がしたくて」
「ご連絡ありがとうございます。弊社では代表や社員への売り込み等はお断りしております。」
ブチッと通話を切る。情報社会がいくら進んでも、相手が会話をする気がなければ無意味である。
会社住所を尋ねることにした。
ラタトクス工業への接続申請に住所の記載があった。
日本の住所である。
京都烏丸御池上る上空800km
太陽同期軌道上 SYBK株式会社宇宙ステーション管理部
代表者指名 九我天根
宇宙に登記されている。
三谷はキョウジを輸送艦の個室に連れてきていた。
キョウジの罪はイグドラシルへの倫理規定違反である。
本来は軍はラタトクス工業に引き渡すべきだが、必要に応じて軍での尋問は可能である。
まだキョウジは子供に見える。とりあえず何か食わしたら話をするだろうか。
「なんで連れてきたの?」
キョウジから三谷に声をかける。
「困ってるんだ、事件の捜査をしていて、犯人はお前が殺しちまって。」
何から聞けばいいのだろうか。
「お前さんは何故、あの場にいた?」
「会社はずっと、あの男を追っていて。位置が送られてきたんだ。」
説明は単純明快であった。
「あの男とは誰だ?」
キョウジは死んだのが誰かなのか知らないことが不思議であったようだ。
「雑賀故我だよ?」
キョウジはSYBKの情報を端末で見るように言った。
そんなやりとりをしてると、厨房から食事が届く。
食べていろと指示をする。
確かに雑賀故我について書いてるな。
巨悪の犯罪者 雑賀故我 情報提供求む
顔写真 全身写真が掲載されている、たしかに上海で死んだ男だな
犯した犯罪 国家転覆 外患誘致 反倫理的な研究
全て事細かに書いてある。
なんだこりゃ
趣味は競馬とある。
馬を走らせて1着を競う競技は貴族みたいな趣味だな。と感じた。
すでに、キョウジは来た食事を食べ終わっていて、三谷の様子を伺っている。
「調べたが、この雑賀故我というのを何故、警備会社が追ってるんだ?」
「雑賀故我をそのままにすると、世界が悪くなっていくから。雑賀故我を管理して成長することがSYBKの理念でもあるし。」
理解できない。
「わからないことだらけだ、その雑賀故我とは何者だ?」
「解説を読んだ?あったでしょ。写真、趣味、犯罪歴が全て書いてあるよ。」
尋問をするつもりが、尋問したい内容が全て公開されている。
手間は省けるが、何かそれはそれで気持ち悪い。
しかし、公開しているからといって、本当に全てが公開されているという保証もない。
「書いていない。今回の事件の内容はアップデートされていない。雑賀とやらの今回の目的はなんだ?」
「俺たちの社長久我天根を殺すことだよ。仲が悪いんだ。」
三谷は聞きたいことが聞けているのかどうかわからない。
そんなやりとりをしていると、個室に一人の女性?が入ってくる。
男性かもしれない。長い黒髪の中性的な人間である。
「キョウジ君どうもこんにちは」
ニカッと笑いかける。馴れ馴れしいやつだ。
三谷はその女性?を紹介する。
「こいつはシャオミという、情報屋みたいなもんだ。」
キョウジは軽く頭を下げる。子供の割に礼儀正しい。
いい子だねー、とシャオミは心地よく受けた。
「何かわかったのか?」
「凄いことが、わかったよ。三谷は中将から軍の資産を好きなだけ経費として使っていいって言われたんだよね。楽しみだなー」
それは必要に応じて、役に立つ情報があればだ、と返した。しかしながら、あの空間には、ギーク、中将、そして三谷の3人しかいなかった。
それなのに、このシャオミと名乗る女性?はそこでの会話を知っていたのである。
不気味なものだ。
はやく情報を出せ、と三谷は急がせる。
何を急いでいるの?と切り返される。
「前回のイグドラシル関連の事件で、たくさん人が死んだ。多分、今回はもっと酷くなる。少しでも早く終わらせないと無茶苦茶になる。」
思っていたよりも真剣な顔を三谷はしていたので、シャオミはそれを逆撫でするようにゆっくりと喋る。
「その子の言ってることは本当だね、
SYBKは、S 雑賀 Y 故我 B ぶっ殺す K 株式会社。社是が、個人をぶっ殺すことなんだね。ずっと、雑賀故我の活動を伝えている。広報活動までしてね。だからキョウジ君は何も隠していないし、尋問をする必要もないんじゃないかな。」
キョウジはそれを聞いても特に反応はしない。
「人一人殺して、それも会社の言いなりか?」
三谷はずっと引っかかていたことを切り出した。
キョウジがメンタルを弱らせてたら聞かないだらうが。
キョウジはボソッと呟く。
「人が一人なら苦労はしないよ。」
そんなとき、三谷の端末から呼び出し音が鳴る。
ギークだった、今すぐチャンネルcのニュースを見ろと。
ニュースに接続し、音声と映像を確認する。
大連の市街地であった。
記者が喋っている。
「連合がUDAに所属する大連の工業地帯に大規模な攻撃をしかけています。見てください、街は火の海です。通常兵器でのこのような規模の空襲は数十年ぶりです。」
戦争になっている。逃げ惑う人、倫理的に管理された世界とは思えない光景だった。
「15分前に、連合の中将が作戦を宣言しています。映像流します。」
三谷は映像に見覚えがある中将の姿を確認した。
「UDAへ大規模攻撃を開始します。目的は倫理違反の兵器を大連の工場で生産しているという情報を得たからです。可能な限り非戦闘員には被害が出ないように注意を行なっています。ラタトクス工業には倫理違反としての申請を行なっており、この攻撃は倫理違反立証中立行動の範囲として認められる弟子でしょう。作戦は数時間以内には完了する見込みです。」
記者から質問が飛ぶ。作戦の目標は?どのような情報を得たのか?経済への影響は?
全てに対して無理なく回答したが、どれも形式的なやりとりだった。
三谷はこの映像を一通り見て、誰よりも早くとは
そういうことなのかと今更気づいた。
中将は自分にミッションを与えた。イグドラシルの不正接続を破壊しろと。中将自身が破壊できない理由があるのだろう。
理解するには情報が圧倒的に不足している。
手がかりとして、雑賀故我が搭乗していたマシーンはコピー製品で大連で生産されたものだというのはわかっている。
シャオミも自分の端末で映像を見ているようだ。
大変なことになったね、と三谷に言う。
「中将はそういうところがある。しかし、ちゃんと説明しないということはそれが一番だと考えたということだ。」
中将への信頼はあった。または上官を信じるように訓練されているのが軍属なのか。
シャオミは同じ映像の話をしているわけではないようだ。
これだよ、と三谷に映像を転送する。
映像は大連工業地帯の製鉄所に設置された高い位置の監視カメラのもので、酷い爆発と画面の乱れである。逃げ惑う作業員たち、燃える工場が見える。
映像の半分が黒いノイズになっていた。
「何が映っているかほぼわからんな。」
黒いノイズは動いているようだった。
遠ざかっている?黒いノイズは少し遠ざかり。
それは陰であることがわかった。
「影?巨大な何か?マシーン?」
しばらく見て、はっきりとわかった。巨大な影はマシーンだった。その影は動いている。
動く?歩く?それを確認できたところで映像は途切れた。
ビルのような大きさである。
シャオミは変わらずニコッとして。
「言うように無茶苦茶になったね。」




