対抗戦
【明大バサラカルラ 事務所】
談迷子は赤リロであると指摘した。
赤リロとは、格闘ゲームギルティギアのバージョンの一つで、バグや、システムのバランスが乱れたゲームである。
赤リロが稼働した時はすぐに客離れが起きた。
インターネットが全盛期の時代、熱狂的なプレイヤーが多く、大きく話題になり、メーカーはすぐに更新バージョンの青リロと言われるバージョンを配布して、緊急対応を行った。
これは、ゲームセンターのゲームがネットワークで不具合を更新できない時期の象徴的な事件である。
プレイヤーの評価で新バージョンが配布されることはこの時代はほぼ稀である。
談迷子は過去にこの事件の経緯をアーカイブしていた。
ラジャは自分しか知らないであろう情報に慌てる。
「他にはあるか?」
「使えないボスキャラが使えるものがある、あれは海賊版ですよね。これもよくはない。」
うっという声を出す。
ラジャはわかる人が来てくれて嬉しくなってしまう。
「言うように、何世紀も前のゲーム基盤を再生して使うのは技術的には可能だが、基盤自体が失われていることが多いんだ。海賊版なんかは、製品より後に出回るし、ロックが甘く、基盤が新しいことがあって再生が容易なんだよ。」
「知っていて海賊版を?」
「・・・すまないとは思っている。」
談迷子の膝にフェンリルが乗ってきた。
「まぁ、私は構いませんけどね。ゲームのバランスなんてものは顧客の楽しみとは関係ありませんから。ライセンス違反に関しては同意しかねますけど。」
これは真理である。ゲームセンターが流行した時代はゲームというものそのものが未知のものである。
各自100円玉を入れて、わずかな時間で敵を倒す方法を独自に研究し、バランスなんてそれほど問題にならないのだ。
理不尽な戦法が流行る頃には続編が販売されるので、常にカオスな環境が維持される。
許容できない理不尽なハメ技やバグ技を使えば物理的に粛清される。
格闘ゲームが衰退したのは、インターネットが全盛期となりゲームバランスという言葉が一般に普及したからと、攻略情報がばらまかれたからである。
個性的なプレイヤーの動きがインターネットの情報で画一になっていった。
それはプレイヤーの教養というよりも、インターネットの情報を読み込み習得することがゲーム参加への最低ラインになったからだ。
その敷居の高さと自由度の低さによりゲーム離れが加速していく。
その後にはインターネットの回線速度が上がり、家庭用の機械が進化すると家庭でのゲームが一般化してゲームセンターに人は来なくなった。
これが談迷子の調査資料のあらましである。
「データマイニングの技師として他に何か本家モンテと違うところを教えてほしい。」
「良い線はいってるわ。できればもう少しゲームの幅を広げた方がいい、特にミニゲーム主体とか誰でも楽しめるゲームね。」
「例えば?」
ラジャは前のめりになる。
「タントアールは基本として、がんばれギンくん、上海、キングオブモンスターズあたりを入れると急に全盛期のゲームセンターらしくなるわ。」
提案のゲームは基盤が少ないゲームばかりである。
特にがんばれギンくんは超プレミア価格で高騰している。
「アキバが今でもあれば買えたかもしれんな。」
東京は戦争によってクレーターと化している。
大阪の地下がこれほど発達し、人気なのは東京が戦争で破壊されシェルターに住むという発想であった。
「ご希望であれば、お譲りしましょうか。」
「が、がんばれギンくんの基盤をか?」
談迷子の一族はゲームを含めてデータに関する版権物は巨大な物理倉庫に集めている。特にゲームは価値が高騰するので抑えてあるのだ。
他には音楽のディスクや、演劇の映像、様々である。
談迷子は、がんばれギンくんの基盤をなんと20枚保持している。
談迷子はうなづく。
「報酬は?」
「梅田エリアに抜けたいの。」
ラジャは頭を抱える。
「それはダメだ。植田の旦那が許さない。ナハト王のスパイが入るかもしれないからな。」
「地上への道を開けてくれるのでもいい。」
「地上は危険だ、ナハト王を狙って日本軍の砲撃が絶え間なく続いている。そんなのところに女子を放てるかよ。おい、なぜ、そこまで梅田に行きたい?時間を置けば、落ち着いてまた開通するだろう。」
「母が、梅田にいて、早く会わないといけなくて。」
真剣な目をしている談迷子を見て、ラジャは少し心に来た。
今時母のために危険を犯す者がいるとは。こんな地の底までと。
「だめだ。危険な真似はだめだ。その母のためにも、だ。無茶はよせ、いずれにせよ、関所の通行は上が決めたことだ。部外者を通すことはできないのだよ。」
「じゃあ、身内なら通れる?」
「そりゃあ、身内であれば。」
談迷子は指差す。関所のポスターと同じだ。
対戦ゲーム大会対抗戦開催
開催場所 駅前第三ビル地下、ゲームセンターカウンタック
「あのチームメンバーとして一時的に入れてくれないかしら。」
「俺のガイルに負けるような実力なのにか?」
このゲーム対抗戦は実質権力争いなのである。
負けると勢力や縄張りを変えられる。
昔は抗争によって行われたが、今はこのように平和に行われた。
「手段を選ばなければ、どんな相手でも私の情報で勝てます。」
ラジャは少し悩んだ。
「確かに今度の対抗戦、植田直属のチームは、オスシをチームに入れると言っていたな。外部から入れるのもありなのか。」
会場の駅前ビルまで行けば、ほぼ目的地も同じである。
母がいるのは、更に北側だが、これほど都合の良いこともない。
「オスシ?」
「守りの神と言われる男だ。鉄壁の守りと正確な反撃を見せる男だ。オスシと当たるやつはみんな捨て駒だよ。」
「じゃあ、私でも問題はないと?」
「そうだが。」
「何?」
「メンバーの面子もあるからな、代表の一人とゲームで対決して勝てば代表にしてやるよ。」
是非もない提案であった。
このゲームセンターの話が一般的に面白いかとても不安ですがあと何話か続きます。




