ゲームの聖地
時間軸は久我天根、柳生宗千佳が鳥羽に上陸する少し前のことである。
【福島 地下 関所】
福島の地下の関所は通行料金を普段は徴収している。
しかし、入り口には現在閉鎖中との記載があり、談迷子が係の人に聞いても、ナハト王が暴れているうちは通せない。
そう言う回答である。
係の人は気の良さそうな人だった。
談迷子は少し気になるものを見つけた。
「あのポスターは何です?」
ポスターに格闘ゲーム大会、対抗戦。とある。
「ほら、地下ってさやっぱり娯楽が少ないし、こう制約が多くなると、雰囲気を和ませるため、色々な催しをやってるわけ、今はあの格闘ゲームっていうのが流行ってるのよ。ラジャが経営しているゲームセンターがそこにあるから、寄ってみたら?」
「ラジャがそこにいるの?」
「なんだ、ラジャを探してるのか?関所の仕事もやることは今はないから、いるかもね。」
一本しかない道が塞がれているのだ。
特にここにいてもやることはない。
ラジャを訪問するため、教えてもらった施設、明大バサラカルラに向かうことにした。
少し手前の野田区画にあるようだ。先程は素通りした。
屋台からいい匂いがした。
少しお腹が空いたので、スイートコーンを買う。
汚染チェックをして、安心して食べるのだ。
チェックにわりと時間がかかる。
これでは屋台なのに、熱々で食べれない。
「次からは焼く前にチェックさせてもらおう。」
少しだけ反省となる。
15分ほど、歩いて向かった先は、複雑に地下空間が交差する、野田の地下だ。
南の方にも道が延びている。
福島に比べてやや薄暗い。
その少し先にあったのだ。
地下なのに何層かの構造になった建物。
地下なのに三階建てというのはおかしくないか?
トンネルの中にあるから妙に平べったい建物である。
入り口には黒服の男がいる。
パスポートを求められて、特に抵抗なく談迷子はスキャンをさせた。
入場料を払って入ると不思議な空間がある。
一階から入ると、モニターがついた筐体で人々が静かにゲームをしている。
モニターに向かって備え付けのレバーとボタンをガチャガチャしている。
しかも、今時、屋内でタバコを吸っているようだ。
談迷子は店を一階から3階まで順番に見ていく。
ゲームセンターってこういうことか?古いゲームがたくさん並んでいる。
筐体に硬貨をいれると少しの間だけゲームができるようだ。
カジノのように勝ったからと言ってお金がもらえるわけでもない、ただゲームを楽しむだけである。
通信端末でゲームなんてできるのに、なんでわざわざこんなことを。
一階は、飛行機で縦とか横に進むゲームやら、3Dのゲームが置いてある。
ニ階には、対戦ゲームのようだ、筐体が2台背中合わせで並んでいるのだ。
三階は乱雑に色んな筐体があるようだ。
談迷子は梅田の資料調査でこの光景に見覚えがある。
この構成をである。
通信端末を起動した。
「明大・・モンテか・・伝説のゲームセンター。」
どうも、昔あったゲームセンターを再現しているようだ。
なんと、筐体に使うのも、旧日本円の50円である。
硬貨は一階の受付で不可逆に交換できるようだ。
面白い試みではある。
二階でしばらくゲームを観察している。
絶え間なく、客が対戦ゲームを続けている。
色々と違和感があった。
格闘ゲームで連勝をしている男がいた、何人もの男達が乱入していく。
誰も、その男に勝てないのだ。
その男こそが、端末で確認したラジャである。
談迷子はラジャに裏側の筐体で乱入(対戦申し込み)を行った。
格闘ゲームはスーパーストリートファイターIIXと言われる物で、ラジャが使っているのは、その中のプレイヤーキャラのガイルである。
談迷子はキャラ選択に悩んでいるのか、色々なキャラにカーソルを合わせて、茶色のカラーのリュウを選んだ。
リュウは非常にスタンダードなキャラでゲームの主人公である。
ラジャは茶色のリュウを見た瞬間に表情を曇らせる。
リュウは、ややガイルに対してキャラ性能は有利か。
対戦が始まった、ガイルは飛び道具を放ちながら、ほとんどその場で動かない。
これは待ちガイルという戦法である。
素人では攻略は難しい。
プレイ人口が少ない現状では打破の方法を見つけるのは難しいだろう。
ジャンプすれば高性能な対空攻撃、その場にいれば飛び道具。
各技はガードしても若干のダメージを食らうので、待ちガイルを崩すのは困難とされる。
談迷子は敗北してしまう。
それほど、格闘ゲーム自体をやったわけではない。
ギャラリー達は結果に当然と考えていたようだ。
そして席を立ったところ、わざわざラジャがこちらに向かってきて声がかかる。
「知っているな?」
「何をでしょうか?」
「とぼけるな、お前は伝説のコマンドを使ったな。茶色リュウ。お前、なぜそれを知っている。」
「?なんですか、本当に使いたいのは銀色の侍だったのですが、このバージョンにはいないみたいです。」
多分格闘ゲームを知らないとわからない挑発であった。
「銀色の侍だと、、やはり知っているな!とぼけるな、それは隠しキャラのアクマの出し方のはずだ。」
伝説の隠しキャラのアクマを出す方法である。
知っていればまさに最強のキャラクターなのだ。
ゲームを進めていると最後に現れる最強の隠しボスキャラ。
その出し方はあまりにも長い年月に失われていた。
談迷子は笑う。はっきりとアクマの出し方をラジャが知らないのだと確信した。
「知りませんね。」
そう言い放つのだ。
男の隣の黒服が耳打ちをする。先程パスポートをスキャンした時に談迷子の身辺を洗ったのだ。
誰だ?と聞き返すと、世界最高クラスのデータマイニングの技師であること聞く。
「あなたはデータマイニングの技師?」
「そうね。何かご入用?」
談迷子は丁寧に奥の事務所に通された。
【明大バサラカルラ 事務所】
事務所である。
なぜラジャが来ないかと聞くと、ガイルがまだ負けてない、捨てゲーはゲーマーとしての恥であるとのこと。
テーブルの上でフェンリルが寝ている。
コーヒーも出してくれた、もちろん汚染検査をしてゆっくりと飲んでいく。
壁にはたくさんのポスターがあって色んな写真が貼ってあった。
ゲームがよほど好きなのだろう。
明大モンテカルロは伝説のゲームセンターで、様々な強者がそこで鎬を削った。
とんでもなく昔の話だ。恐らくその聖地を現代に復活させたのだろう。
江戸時代を模した大きなジオラマを作ることがあるなら、こういう建物を復刻させるのはないことではないだろう。
しばらくして、ラジャがやってきた。
先程の黒服は仕事に戻ったのだろう、一人でやってきた。
「さきほどは不躾な態度をとった、正直、茶色リュウを見た時は興奮したんだ。」
「わかります、お客様の中には特別なメモリーを何よりも大切にしている方は多いです。だから、我々の仕事が成り立つのです。」
「データマイニングのか?」
談迷子はうなづくのだ。
「そうです、情報が必要な人がいれば私のアーカイブから情報を提供します。」
インターネットという文明があったが、どこかの政治家がスキャンダルを起こした際に世界中に無限にゴミデータを投下した。これは生成AIが自動的に撒き散らしたもので、ランダム性、データの作成量、全てが偽データを排除するより先に投入されていく。
そしてインターネットの信頼性は低下し、クローズドな承認性のネットワークに移行していったのだ。
汚染されたインターネット上のデータをゴミデータから切り離して正常なものかを検証する。
それがデータマイニングの仕事である。
料理のレシピ、音楽の譜面、プロパガンダのない歴史的記録は簡単に得られなければ貴重な記録なのである。
上海に大きなUDAの公共施設、国立電子記録館があり、談迷子はその近くに事務所を構えている。
ラジャもコーヒーを飲んだ後に談迷子に話を聞いた。
「このゲームセンターについてどう思った?」
「明大モンテカルロの再現でしょう。」
梅田に過去にあった格闘ゲーム全盛期のゲームセンターである。
格闘ゲームの聖地ともいう。
「そ、そこまでわかるのか。」
談迷子はコーヒーを口に含んで言うのだ。
「たくさんのゲームがありますが、あなたは満足していない。」
図星。
「なぜ、そう思う、ストリートファイター、ギルティギア、バーチャファイター、これだけ揃えているのだ。ファイティングバイパーズすらあるのだぞ。」
談迷子は溜息をつく。
「わかりますよ。」
「だから、何故?」
「では、聞きましょう、先程見させていただきました、例えば、例に挙げたギルティギアですが、、」
ラジャはその前振りに言葉を失っている。
気にせず談迷子は続けるのだ。
「赤リロですよね。」
ラジャは全てを見透かされている事を思い知った。




