無駄死
【三条通り】
ファントムは民家の2階ごと宗千佳を攻撃したが、
宗千佳はすでに逆側へとすり抜けていた。
樽井は手元の通信端末でセミオートでファントムを操作している。
人間が操作するようになると反応は大幅に低下している。
宗千佳は気にせずに、烏丸通りに向かい走り出している。
樽井が作ってくれた警備の隙をついて一気にテレビ局まで抜けるのだ。
街中に放送が鳴り響く。
『これより少し後から、柳生宗家による新政権放送を開始します。皆さんは自宅の端末または、このスピーカーからの放送をお聞きください。』
放送が始まってしまう。
この放送が完了するまでは、少なくとも、父克久、柳生宗家がそこにはいる。
だから今突っ込んでいくのが最適なのだ。
前には警備のマシーンが2体立ちはだかった。
後ろから切り返したファントムが追いかけてくる。
マシーン達はその手で宗千佳を捕まえようとする。
しかし、宗千佳はスラリと避けて、ごめん、と言った。
樽井のファントムが勢いのあまりにマシーンに激突する。
マシーンが意図せず開けた道を、再び宗千佳は走り出した。
その時、宗千佳は民家の中にいる誰かに手振りで何かを示す。
【三条 民家内】
三条の民家に花達の会のカモミールは潜んでいる。
マリナから、援護をするように言われたからだ。
樽井をライフルで狙い撃ちにしようとしている。
「仲間達の仇でもあるから、撃たせてもらう。」
スコープの先に宗千佳が見えた。
ハンドサインで、「う、つ、な」そう示している。
「なんでこっちの位置がわかるのよ。」
【三条 久我天根サイド】
天根は見た。
「すげぇ、ファントムを闘牛のように引き回して、突破口を開けているのか。」
そう言いながら、雷蔵とともに周りに潜む柳生忍軍を始末していく。
「あそこまでできるようになれとは言ってないぞ。あの女が何か入れ知恵をしたな。」
あの女とは燕雀朱美のことである。
【三条通り 柳生宗千佳】
「テレビ局が見えた!」
鉄格子のバリケードが張られている。
しかし、宗千佳は問題としない、バリケードごとタクティカルナイフで切り離す。
まだ樽井はおいかけてくる、なんども避けては喰らいつく。
この執念こそは凄まじい。
スピーカーより、放送が続いている。
この声は柳生宗家である。
『京都の皆さんには、ご不安とご不便をかけている。それをまずはお詫びしたい。』
宗千佳に三名が銃を向けてきたが、すぐに物陰に隠れて、相手にすらしない。
テレビ局内に侵入した。
テレビ局内はマスコミ関係者と柳生の兵士で溢れていたが、宗千佳がが突っ込んできたため蜘蛛の子を散らすようにどっかへ逃げていく。
『まず我々の理念を知っていただきたく、今日の放送をしています。」
宗千佳はスタジオの会見会場の案内が3階と書いてあったの見て、階段に向かった。
しかし、目の前に最強の男がいるのだ。
柳生二十三衆筆頭、倉間である。
すでに抜刀していたのだ。
宗千佳はタクティカルナイフで倉間の斬撃を受ける。
これまでの柳生の人間とは明らかに格が違う相手である。
『そもそも人間というのは極限状況にあってこそ、成長することができ、その結果強さを得ることができます。今日、日本軍の手から京都を奪還できたのもその強さの結果であることは・・』
宗千佳は呼吸を整える。
慌てる心を落ち着ける。
今度は宗千佳から斬撃を加えるが、逆に肩に反撃を貰ってしまう。
まだ傷は浅い。間合いをとって警戒をした。
強い、柳生にもこのような男がいるなんて。
『そのような状況を忘れて人間はどうなりましたか?ラタトクス工業が産んだ仮初の平和は人を堕落させ結局は終わることのない戦乱という連合とUDAの不安を、戦いを呼んだのです。』
もっと、落ち着くのだ、そして柳生に対して怒るのだ、憤るのだ。
倉間は気づくと、防御態勢を取っていた。
倉間は複数の何かを投げた。投げナイフである。
宗千佳の足に一本が刺さる。
うっ、という声にならない痛みが響いた。
『我々は悲しみを乗り越えたかったのです。ラタトクス工業が起こした悲しみを。それこそが願いなのです。』
倉間が連続で攻撃しようときたのに合わせて、
足に刺さった投げナイフを投げ返すも、左に避けてかわされてしまう。
構わず宗千佳は切り掛かった、倉間は今度は右にかわして、一撃を加える。
この一撃は宗千佳は寸前でよく見切っていた。
『たくさんの犠牲がありました、我々柳生はその代償を支払ったのです。』
倉間は横一文字に宗千佳を切りつけて、そのギリギリを宗千佳は見切り、逆に切りつける。
再び、緊張する間合いである。
お互い一瞬が命を失う事を理解させる。
一度、二度、三度、切り結ぶ、その一撃一撃が全て命に直結している。
『その代償はかけがえない仲間でありました。その仲間達は柳生という武家の礎として喜んで命を差し出す仲間でありました。』
倉間は宗千佳の一撃を刀で十字に受けた。
「おい、なんだこれは。なぜお前はこんなにつよい?」
「強くなんてない、嫌味なら!」
遥かに倉間の方が強いではないか。
「なぜ柳生を裏切ってそんなに強いのだ。どこまで知っていたのだ。」
「何って、何よ?」
『柳生の同胞達は皆、その目的のために喜んで死すらも選んだのです。』
声にならない声である。倉間の声だ。
「俺たちはこんなくだらない演説のために命をかけてきたのか?」
倉間の目には涙が溜まっている。
放送は続く。
『我々は仲間として倫理維持軍に参加することもありました。それは結局はラタトクス工業の支配を強めるための無駄死にだったのです。』
倉間は完全に止まってしまった。
「無駄死に・・」
仲間達は自分の意思で行った事である。もちろん、ラタトクス工業の依頼ではあったが、その作戦内容に納得して死んだのだ。
スカンジナビア動乱、クェート防衛戦、東京の戦い、多くの仲間が死んだ。それは皆納得のいく死であるのか、本望であるのか。
柳生宗家は仲間を更に危険に晒している。
そこに、樽井が乗ったファントムが突っ込んできた。
ファントムの背面にひっかかっているだけの樽井にはもう、意識すらないようだ。
マスコミや兵士を巻き込むことを意に解さず、ファントムは宗千佳に向かい襲いかかる。
激しく赤く発光した。
宗千佳の肩をトンと叩き宗千佳をファントムの攻撃から救い、倉間は跳躍する。ファントムの上の樽井を簡単に、十字に切断した。
見事な血煙が起きた。
倉間はそこに立ちすくんでいる。
宗千佳は思わず声をかけた。
「あの?大丈夫?」
倉間は優しく接する宗千佳に激しく叱咤する。
「少し悲しんでいるだけだ・・・後ろを気にせず、お前は、お前のやることをやるのだ。」
『その死んだ仲間の志を無駄にしないためにも、我々は立っているのだ。』
内容のない、死んだ者達には意味すらない演説が響いていた。




