無相の相を相として
【木屋町 民家】
宗千佳は座敷牢を出て、窓から外を眺めた。
柳生の兵士たちが見張っている。
マリナが置いていった通信端末を見ると。柳生の放送がこの後、30分後に始まると告知されている。
大型タクティカルナイフを腰に巻き付けて、決意めいた顔をする。
「すぐに止めないと・・。」
【烏丸御池 テレビ局】
「撮影場所を告知するなんて、この場所にラタトクス工業が遠距離攻撃してくるかも知れません。」
柳生克久の抗議を柳生宗家は意に介さない。
「たくさんのマスメディアを呼んでいるのだ。ラタトクス工業は巻き添えにはできんよ。ここでいかに世界にアピールできるかが今後の我々の戦局を決定づけるのだ。」
警備に関しては万全である。柳生の高弟のほとんどが配備されて、不審者は入ることができないだろう。
「本当に警備は完璧なのですか?」
「それはお前の仕事だろう。私は放送に忙しいのだ。」
部下から通信が克久に入った。
その内容は宗千佳が脱走したというものだ。
【木屋町】
『千佳ちゃんを見つけたって?』
「ええ、牢に閉じ込められていたから、今から助ける」
電鋸をマリナは手に持って、宗千佳を助けるために座敷牢がある民家の近くまで来ていた。
何か民家で騒いでいる。座敷牢の部屋の扉を開けれないように細工した。
柳生の兵士がそれを破ろうとしているような声だった。
まずい、急がないと。
しかし、次の光景を見た時には電鋸を落としてしまう。
宗千佳が窓から飛び出したのだ。
身を隠すわけではなく、2階の庇部分に立って、辺りを見回している。
方向を確認して、烏丸御池の方向に駆け出した。
そのすぐ後に、兵士たちが窓から顔を出す。
「逃げたぞ、すぐに追え!」
木屋町付近は大量の柳生の兵士で囲まれている。
『千佳ちゃんはどうなったの?』
「走ってるね、柳生の本陣に向かって」
『はぁ?』
マリナはタクティカルナイフを渡したことは後悔していた。
すぐに宗千佳を探すために街に潜伏していた花達の会に宗千佳をフォローするように伝えた。
【木屋町 宗千佳サイド】
木屋町から、烏丸御池のテレビ局までは、約30分はかかるだろう。
木屋町の古い木造建築の上を宗千佳は走っている。
「あそこにいたぞ、撃て!」
兵士の声が聞こえる。克久の娘といえ、比叡山では同胞を殺し、温情で座敷牢に入れていたのに、刃物を持って脱走したのだ。
もう、何も宗千佳を庇えるものはいなかった。
民家の天井を走る宗千佳を小銃が狙ったが、すぐに姿を見失ってしまう。
狙うにしても角度が良くない。
宗千佳は旅館の中庭に降り立った。
そこには、柳生二十三人衆の一人、立川とその仲間の兵士がたまたま駐屯していた。
「あれ?宗千佳さん、なぜここに?」
立川が状況を判断するより先に、宗千佳は鳩尾に蹴りを入れて、立川を気絶させる。
「その立川は裏切り者だ、縛っておけ!」
そう命じると、兵士たちはざわついたが、状況を整理する前に宗千佳は民家の屋根に飛びついて、駆け出していく。
【木屋町 久我天根サイド】
「おいおい、まじか。あいつ一人で突っ込んでいくぞ。」
久我天根は宗千佳を牢獄から助けようとしていたが、民家の屋根をテレビ局に向けて走っていくのを見て驚嘆した。
同行している太郎は天根に支持を仰ぐ。
「柳生は天元に操られているだけだ。俺たちの目的はあくまで天元だ。でも、少しだけ協力してやってくれないか。」
太郎は首を縦に振り、風魔一族を動かしだした。
「素直に助けてやればいいのに、わからんの。」
雷蔵は天根の行動には一貫性がないことも知っている。
少し経って、街の各所で爆発が起きた。花達の会と、風魔の仕業である。
【柳生本陣 柳生忍軍詰所】
「や、やめてください、そんな風にはこのファントムはできておりません。」
先日、比叡山で敗北した樽井であった。
諌めているのは技師の男。
ファントムの背中にしがみつき、なにやら端末を操作している。
「黙れ!あの娘に復讐できるチャンスはもうないかも知れない。分家よりも、本家の血筋が劣ってるなど認めるわけにはいかない。」
「そうであっても、ファントムは無人機なのです、人を乗せるようにはできていません。」
「コンテナは遠距離攻撃で狙い撃ちされるのだ、人が直接乗り込んで支持を出せばそのような不足はなくなるのだ。こいつに乗り込んで比叡山のあの娘を殺してやる。」
宗千佳を捕らえた情報は樽井には渡されてはいなかった。
そこに兵士が入ってきた。
「木屋町に柳生宗千佳が逃走中。見つけた場合は捕えるようにと。」
樽井は心底心が躍った。
ファントムは樽井を背中に乗せたまま。
メンテナンスを完了しないまま発進した。その樽井の表情を見るに、もう狂っていたのだろう。
【寺町通 柳生宗千佳サイド】
このまま六角通りを越えて三条通りから、一気にテレビ局まで到達する、そう宗千佳は考えている。
そこにたまたま角を曲がったところに男がいた。
柳生二十三衆の一人、前田である。
出会い頭である。
前田は問答をしない、手に持った拳銃を宗千佳に撃ち込む。
宗千佳は静かにタクティカルナイフを抜いて、拳銃を叩き割った。
6メートル以内であれば刃物は拳銃に対抗できるとされる。
すぐにそれを計算して、間合いを詰めたのだ。
前田にトドメをさすこともせず、宗千佳は気にせず、三条通に向かうのだ。
【六角通 柳生宗千佳サイド】
大きな爆発の音があがる。
風魔と花達の会の撹乱である。
柳生の兵士たちが一瞬そちらに気を取られた隙に宗千佳は検閲を駆け抜けた。
そして三条通りに到達する。
【三条通り 柳生宗千佳サイド】
兵士たちが集まってきた。
一斉に宗千佳に拳銃を発砲する。
それを見ていた京都市民が声を上げた。
「女の子に、よってたかって拳銃で打ち込むなんて、武家のやることかよ。」
「無闇に私達の街を壊さないで!」
テレビ局に向かうマスコミがその様子を撮影していた。
柳生二十三人衆の人、皆瀬は撃つのをやめさせた。
もちろん、この民主の声は風魔が作り出したものだ。
皆瀬は宗千佳に呼びかける。
「宗千佳さん、あなたが武家であれば戦いの機会をもらいたい。」
宗千佳はピタリと止まった。
「急いでいるの、早く来なさい。」
この様子はマスコミが撮影している。
これは時間稼ぎでもある、兵士を集めるための、なぜ宗千佳は不利になるにも関わらず、なぜそれに乗ったのか。
決闘を申し込まれたという理由だけである。
宗千佳はタクティカルナイフを正面に構えた。
皆瀬は、六尺棒を構えた。刃物を宗千佳が持ってるとはいえ、圧倒的に皆瀬が有利である。
宗千佳は気付き出していた。
牢を切ること、そして自らが切られること、それは同義である。
であれば、牢が切れない自分を知ることは、自らを切られないことと同義である。
このよくわからないことも、今の宗千佳の中では整理されつつある。
皆瀬はまっすぐに宗千佳の鳩尾にめざして、六尺棒を打ち込んだ。
信じられないことが起きた。
宗千佳はタクティカルナイフを体の真ん中に置いて、六尺棒の攻撃を横にそらしたのだ。体は動くわけでもなく、ただ目の前にナイフを差し出しただけだ。
そして、ナイフの角度を変えて、刃で六尺棒を下に叩き落とす。よくある巻き落としである。
皆瀬は唖然とした。その技のキレは自分が知る水準のものではないからだ。
考えがまとまる前に顔面に拳の一撃をくらい、皆瀬は昏倒し膝から崩れ落ちた。
宗千佳は少しだけ息を吐いた。
しかし、その時には兵士に取り囲まれていたのだ。
マスコミを意識して、兵士たちは銃は使わないが、数からすると宗千佳が捕まるのは時間の問題である。
宗千佳は少しまずいと呟いた。
無駄に決闘なんて受けなければよかったのに。
そんな時、三条通りの向こうから何かがやってくる。
樽井を背中に引っ掛けたファントムが突進してきたのだ。
宗千佳はヒラリとかわしたのだ。
兵士たちは驚いて、回避する、何名か巻き込まれただろうか、兵士たちは狼狽している。
宗千佳は慌てず、言い放った。
「怪我人の手当を急げ。」
兵士たちは、我に帰り怪我人の救助を始めたのだ。
樽井の声が聞こえる。
「今度は、強力な八雲もいないし、支援攻撃もない、遠距離攻撃は操作している私ごと殺すことになり、倫理的じゃないからね。今こそ殺してあげるよ。」
宗千佳はバカのおかげで囲みが壊れたことに感謝する。
すかさず民家の屋根に登って撒こうかとしたが、ファントムのブレードが民家の屋根ごと吹き飛ばすのだ。
マスコミはその様子の撮影を続けていた。




