天元
【柳生烏丸御池本陣】
柳生宗家はラタトクス工業の攻撃を凌げていることには満足していた。
宗千佳の父柳、柳生克久はジリ貧ではないかと考えている。
ラタトクス工業の今回の攻撃を凌いでも、結局は継戦能力がないのだ。
敵はいくらでもマシーンを修理できるし、作れるのだ。
UDA、久我幻魔、日本軍残党もいて、四面攻撃である。
当初の目的の通り日本全てを抑えて水際で敵を叩くというのが道理である。
「今の状況は絶望的ではないのですか?」
「なぜ?」
「兵站が持ちません。多分後二週間くらいしか。」
これでも強気である。
樽井が無理をしてでも、ラタトクス工業を先に叩いたのもこれが理由である。
克久は続ける。
「樽井のファントムはラタトクス工業の遠距離攻撃で破壊されたとも聞きます。これは倫理上利用されないですが、それは倫理維持軍がそういう判断している段階だからです。」
ミサイルのような兵器が倫理的ではない、しかし、柳生が非倫理的な行動をすれば、それすら倫理の内になることは比叡山の戦いで証明されている。
「弱気だな。」
「そうです、だから何か安心できる言葉をください。」
柳生宗家に通信が入る。
「ああ、そうか、構わんよ。」
すぐに通信を切った。
「何かありましたか?」
「ナハト王が手配した、石山を攻撃した道士連の部隊が、大津を突破して、蹴上に合流した。ナハト王のいる梅田まで通してほしいと。」
「許可したのですか?」
「断る理由もないし、ナハト王には恩が売れるだろう。」
梅田は地下に巨大な工場を持つし、食料プラントも広大である。
だから、京都とは状況が違う。
日本が東京を失った際には、兵站が重視され、梅田の地下空間はさらに採掘された。
京都も同じ議論ができたが、結局は昔の街並みを破壊することに反対したのだ。
結果的に京都の人にすると、柳生の兵站を維持できなくできているから、悪くなかったのかもしれない。
「彼らと我々とは状況が違うのです。」
「同じだよ、華山道士連が裏切ったようにイグドラシルの支配から逃れたい人たちが我々の元へ集まってくる。」
華山道士連の方向が向いているのはナハト王である。
一時的な勝利が目をくらませているのだろうか。
「少なくとも、ナハト王からの支援を求めるか、我々も梅田に受け入れてもらうかを検討すべきです。
「それは難しいな、わざわざ京都を取って自治区にして、ナハト王に支援を求めるのは、支配者のすることではない。」
それ以上、克久は何も言えなかった。
割り込むように戸が開く音がした。
天元が入ってきた、柳生宗家がどこからか連れてきた男。
久我天根が雑賀故我であると考えている男。
「ラタトクス工業の大津が撤退してまだ不安ですかな。克久殿は。」
「今までどこにいた?」
「天敵に追われてまして、追い払うのに少し時間がかかりました。繰り返します、不安なのですか?」
「兵站が持たないと言っている。」
「時間を稼ぐのです。このイグドラシルに対抗できるということが世界に認識されれば、いくらでも支援者は現れるでしょう。」
戦争が長引けば、対抗する相手に対して支援者が現れるのは歴史上真実である。
列強と呼ばれる国も、国連の常任理事国と呼ばれる国も、皆それを恐れて短期決戦を望む。
しかし、それが長引くと、攻めきれない国に対して、敵対する国が参戦する、そうやって戦争は複雑化、長期化するのだ。
「時間って言っても・・・」
「ラタトクス工業の嵯峨野の部隊には、柳生の魔法使いをぶつけなさい。比叡山の方は中心人物がいるから、それは私が対処しましょう。」
克久は問う。
「中心人物とはだれか。」
「あなたの娘ですよ、宗千佳嬢。あなたがたでは一番見どころがある。総崩れのラタトクス工業を立て直して、このままルート30からここまで押し寄せてくるでしょう。」
「む、宗千佳が・・・」
「安心してください、生かして連れてきますよ、牢にでもいれておきますから。」
天元は表情一つ変えないのだ。
「くれぐれも、怪我をさせないように。」
「大丈夫でしょう。」
【鴨川沿 木屋町 見知らぬ部屋】
目が覚めた時には宗千佳は知らないところにいた。
攫われた事実さえ気付かなかった。
樽井を倒して、ルート30の柳生の黒いマシーンを何体か破壊した。
そして攻撃が止んだ後に、宿坊で休んでいたのだ。
攫われたことに、手練れのウサギもマリナも気づかなかったのだろう。
目の前には克久がいた。
「なぜ、上海にいなかった。」
頭がくらくらする。
克久は動揺する。
「大丈夫か、体は悪くないか。」
娘想いの父がそこにいた。
「なぜ、はこちらです、このような無謀なことを。
宗千佳は柳生が持たないことを知っている。
「無謀かな?京都近隣は支配していて、ラタトクス工業の大津の部隊も壊滅させることができた。が
「父は知らないのです。大連の戦いを。」
「何を?」
「久我幻魔に代表される人達はみんなとても強いのです。それに比べて今の柳生は信念も強さも何もない。」
「信念はわからないが、少なくも強くはあるな。繰り返すが京都は支配したのだ。」
今まで出会ってきた強い人たちとあまりにも父がかけ離れていて、宗千佳は落ち込んだ。




