ブービートラップ
【比叡山 山頂付近 柳生宗千佳サイド】
八雲は複座である。
昔は主流であったマシーンが単座式が主流になったのは戦闘倫理アドバイザーがオペレーターの役割を担うようになったからだ。
ウサギはオペレーターの役割で座っていたが、戦闘倫理アドバイザーのフランが大体をやってしまうので、少し暇である。
基本的には経験則でアドバイスをするくらいか。
宗千佳にするとそれでも十分に心強いものではあった。
「ファントムがこちらを狙って正確に追ってきてるね。多分捕捉されている。」
柳生忍軍の樽井が差し向けた一体である。
先にマリナが二体のファントムを撃破しているが、ほぼそれは奇跡に近いし、僚機がたくさんいたらできたのだ。
一対一で戦うものではない。
「ラタトクス工業への支援攻撃要請は受理された?」
本来はラタトクス工業は戦争へ不介入であるが、倫理維持部隊が出ているので、倫理の範囲内で支援攻撃はありえる。
「それはもちろん、着弾まで大体15分前後くらいですね。」
「ありがとう。じゃあ、この八雲も少し仕事をさせないとね。」
四足歩行のマシーン八雲は、獣のフォルムをしている。
四つ足に、四つ武器をもつマシーン。
樽井に先制攻撃をしたパルスキャノン。画素の一つである。
柳生庄にあった、古いマシーンであり、ラタトクス工業が定義する旧タイプの基準のマシーンとなる。
ファントムをどのように倒そうかと悩んでいると、意外な人間から通信が入る。
端末の表示は杏野都子とある。
『もしもし、比叡山に来ているの?』
「ええ、あなたはルート30を守ってるって聞いたけど。」
都子と宗千佳は戦争が始まる前から旧知である。
都子は京都でも有名な武道家である。
何かの際には顔を合わしていた。宗千佳が最も尊敬する人間である。
武道の技のキレは誰よりも凄まじかった。
しかし、高校に上がるくらいのころ、病気で足首から先をなくした。それ以降は武道からは遠ざかっている。
それでも、宗千佳とは親友として続けていた。
『守ってたが正しいね、結局変なドローンにやられたわ。それよりも貴方は柳生側でしょ、何してるの。』
フランは通信に割り込む。
「すみません、戦闘倫理アドバイザーのフランと申します。あなたはどうやって生き残ったんですか?単騎で戦ってたのでしょう。」
『あれは人間が操縦してないでしょう。だから、有効な策もあるんじゃないかって。』
「なんです?」
『簡単よ。』
都子は単純な作戦での成功を伝えた。
そしてファントムへの対抗策は決まった。
フランは言う。
「ファントムとは戦うことはお勧めしませんが、今の状況であれば直に追いつかれるでしょうね。ファントムは多分、今は完全自立モードで動いています。樽井という人がそれを続けてもらうことを祈りましょう。」
『指定のポイントで落ち合いましょう。』
宗千佳は心配して言う。
「無理しないでね。」
都子の足を気遣っての発言である。
【比叡山山頂 ファントムサイド】
ファントムは自立動作している。
目標をセットして追いかけて破壊する。
今回セットされた目標は柳生忍軍のコンテナに攻撃を仕掛けた者を追いかけて破壊することだ。
木々の動きと足跡から対象が逃げていることを把握している。
足跡はデータベースに照合してもヒットしない未知のマシーンである。
ファントムの機動力は人間を載せていない分優れている。
それでもなかなか追いつけない。
やっと、追跡しているマシーンの動きが鈍ってきた。
追跡しているマシーンから凄まじい光が放たれる。
これも八雲の兵装の一つのタクティカルグレネードの弾種の一つである。
一瞬であったが、見失うには十分な威力である。
ファントムは続けての攻撃を警戒したが、それはなかった。
再び足跡から追跡を開始する。
ついにはマシーンを発見した。
しかし、何かおかしい、マシーンは棒立ちである。
ファントムは一気に距離を詰めることはしなかった。
そのマシーンには首がないのだ。
【比叡山山頂 柳生宗千佳サイド】
10分前の話である。
都子はファントム戦について語っていた。
「あれはクマと変わらないって思ったのよ。」
「というと?」
「死んだフリをしただけ。簡単でしょ。ドローンの性質を見て、コクピットを開けれないようにうつ伏せに倒れて、マシーンのスイッチをオフにしたの。そうしたらドローンは倒したと認識して去っていったわ。」
「who is enemyね。確かにドローンには有効な手段ですね。」
who is enmyは自立兵器の問題点の一つである。敵の倒し方、何を敵とするか、死んだ者を更に破壊できるのか。ドローンの制御に細かく指示を出す必要がある。
人間が半自動にして制御することもできるが、それではマシーンとそれほど変わらない性能になる。
戦場は複雑である。適切な指示は多岐に渡り、並の技師ではできない。
「死んだフリなんて今時クマでも騙せないのに最新のマシーンが騙されるとはね。」
「人間ができることとドローンができることは違うのですよ。本来どちらも役割があるのです。」
『ちょっと、どういうことよ。』
「なに?」
『クマには死んだフリでしょう。』
宗千佳はそれ以上何も言わなかった。
人間は倫理観と他者との距離感と状況で物事を判断する。
ドローンに全ての倫理観を説明することは困難なのだ。
例えば、全ての生物を皆殺しにしろという指示を出せば単純ではあるが、そんなことは誰もしないし、死の定義を明確にするには死亡確認の方法、基準から教える必要がある。
これは技師の腕の見せ所といえる。
ずっと違法とされてきた兵器にそれほど正確に指示を出せる人はいない。
そして、10分後
ファントムの前に立っていたのは首が破壊された都子のタイタンであった。
八雲が先回りして、ここに立たせたのだ。
ファントムはマシーンの近くまで行き、タイタンが活動をしていないことを確認する。
不思議である、何のためにこんなことをしたのか。
ファントムは更に足跡が続いていることを確認した、時だった。
都子がタイタンに仕掛けた爆薬が炸裂した。
爆発の中には多数の針を含んだ物で、多数がファントムに突き刺さる。
宗千佳は八雲のプラズマキャノンで動きの止まったファントムを貫いた。
宗千佳はふぅ、と息を吐く。
「この倒し方を、ルルイエに連携してあげて。」
爆音が響き渡る。
柳生忍軍へのラタトクス工業からの砲撃が始まった。
『ねぇ、ねぇ!』
「なに?」
『ほら、やっぱりクマには死んだフリが効いたでしょう。』
宗千佳は無言になって死んだフリをした。




