労働はなぜ苦しいか
【比叡山 山頂付近】
マリナはハヌマンと僚機の連携でファントムを二体破壊した。
戦闘倫理アドバイザーのライムは唖然としている。
「ファントムを人間が操縦するマシーンが破壊した事例はほとんどありません。ルルイエさんあなたは何者なのですか?」
コクピットの映像を見るとマリナがルルイエの上に座っている。
「な、なぜそこに?」
マリナが誤魔化すための笑顔で答える。
「コクピットが揺れるから、この場所が安定する。」
すでにレバーから手を離している。
「それよりも、彼女達の救出を急ぎたい。」
【比叡山 山林 花達の会】
オリヴィエはずっと、ファントムが攻撃を仕掛けてこないことに不思議に感じている。
すでに300メートルは移動している。その間、ファントムは攻撃の意思を見せないのだ。
「なぜ、あのドローンは攻撃してこない。」
ろくでもないのだ、機械の考えることは、常に効率である。
シルキーは撤退をしながら、少しずつ距離を取ろうとしたが、このまま、ドローンを味方の場所まで引き込んでいいのか。
行方知れずのアザレのことも気掛かりである。
「攻撃を仕掛けてみるか。」
シルキーはほぼ無傷で健在である。
一体くらいであれば倒せる可能性があるのではないか。
このまま引き連れて味方の元に連れて行くか、損失覚悟で破壊するか。
しかし、すぐにファントムが何を思って攻撃してこなかったかを理解した。
もう一体のファントムが現れたのだ。都子を倒した個体だ、
この機会を待っていたのだろう。
裏を返せば、花達の会が全力で抗戦すればファントム側にも損害が出るという判断をしたのだろう。
ファントムは何のことはない、確実に花達の会を壊滅する時間を味方のファントムを呼びながら待っていたのだ。
オリヴィエは、すぐに攻撃が始まることを予感した。
「みんな準備、まずは一体を処理する。」
あとから現れたファントムが尻尾のブレードで飛びかかってくる。
随伴していたマリーゴールドが吹き飛ぶ。
即死だっただろう。マリーゴールドはオリヴィエとは深く長い付き合いだった。そんな友が一瞬でいなくなった。
また、ファントムは距離を取るのだ。
あのファントムが飛びかかるたびに一人の命が消えていく。
ファントムは二体同時には仕掛けない。
先程のマリナの戦闘方法を学習しているからだ。
たぶん、オリヴィエはこのまま自分たちの部隊が全面するのだろう。
そう感じていた。
「なぜ・・・」
また、一人吹き飛ばされた。随伴兵から死んでいく。
確実に一人ずつ。
次に死ぬのは自分かもしれない。
オリヴィエは少しでも自分の部隊を活かすことが責務である。
しかし、やれることはあるのだろうか。
「なぜ・・マリ・・は来ない。」
そう思った時、ファントムはオリヴィエめがけて飛びかかった。
死んだと思ったそのとき、痛みも何もなかった。
案外死ぬ時はこんなおだやかな感じなのかもしれない。
オリヴィエはマリナの後発として研究所に作られて、人よりも優秀で、それなのにこんな生きるか死ぬかわからない戦場にいて、研究所が解散した時には自由が提供された。
どんな仕事をしてもよかったのだ。
なぜか危険な傭兵の道を選んだんだっけ。
自分達の存在意義を世界に示すため?人工的に作られた人間と、人工的に作られたドローン、この戦力差を見るに自分達の存在意義は本当にあるのか。
マリナが喫茶店で仕事をしていると聞いた時、驚いた。
たくさんのマリナしかできない選択肢の中から安い給金で戦争から遠のいたのだ。
先日、ラタトクス工業のブリーフィングにマリナを見た時は、どっちなのかと思った。
自分達と同じで結局戦争が一番合っていたのか、それとも、戦争の世界にしかいられない自分達を助けに来たのか。
色々なことを考えて、オリヴィエは大きな音を聞いた。
目の前にはマシーンハヌマンがファントムの攻撃を受けていたのだ。
オリヴィエは膝の力が抜けた。
なぜか、その目の前のハヌマンのパイロットがマリナと確信してしまったからだ。
林からラタトクス工業のマシーン達が現れ一斉にファントムに攻撃を仕掛けた。
ファントムは身を捻りながらも器用に攻撃を避けたのだ。
「オリヴィエ聞こえる?このハヌマンは強力だけど、あのドローンの軽快さに対抗するにはシルキーの方が向いている。こちらの部隊がフォローするから、連携して。」
マリナはコクピットを開いて操縦をルルイエに任した。
二人羽織ではファントムの動きに何度もついてはいけない。
オリヴィエは自分に向けた通信に歓喜した。
あの鬼マリナが自分に声をかけている。
コクピットから飛び出したマリナは無言のまま、オリヴィエのシルキーの背面に乗り込み戦隊体勢を取ったのだ。
「カモミール!!体勢を立て直して。」
マリナは周りを見渡し、花達の会の損失を察した。
ファントムは警戒している、すぐに攻撃をしてこなくない。
少しの時間睨み合いがあった。
まあこれだ、何かあるのだろう。
最悪である。さらに茂みからファントムが追加された。
合計3体のファントムが攻撃の機会を狙っている。
「オリヴィエ、何体でも作戦は同じ、こちらに引き付けて、あとはやる。」
マリナはシルキーの背面から機銃でファントムに攻撃を加える。
ファントムは軽量と自立操作により被弾を前提としていない。
機銃でもそれなりのダメージを与えることができるだろう。
もう少し前の世代のドローンきはショットガンでの制圧が推奨された時期もある。
重さが1トン未満のファントムであっても、尻尾のブレードと、1トンが高速で飛んでくるのだから、破壊力という意味では申し分ない。
ファントムが飛びかかる隙間を無くすように、マリナ達はファントムを制圧していく。
オリヴィエの指揮ではできなかったことである。
ルルイエ達の部隊は単純に遠間から攻撃を加えていただけだったが、練度を意識してマリナは攻撃のリズムをとっている。
戦えてはいる、先程と比べて戦えてはいるが、ファントムに対して決定打を与えることはできない。
マリナが現れたことでラタトクス工業も、花達の会も綺麗に連携して戦えている。
オリヴィエはマリナの存在に驚きつつも、このままではいずれやられると、警告した。
マリナは無表情である。しかし、感傷深く伝えるのだ。
「私には喫茶店の仕事はやっぱりダメね、人間関係がしんどかった。お客さんも、店員もいい人たちも多かったけど、少し違うのよね。」
「何の話?」
マリナは喋りながらも止めずに撃ち続けている。
射撃音はある程度インカムのノイキャンでかき消されたが、何を言っているかはオリヴィエには理解できない。
「嫌いなやつは弾丸を撃ち込んで追い払う、どこもこんな世界だったらよかったのに。」
喫茶店の仕事を馬鹿にしているわけではない。
それだけ、客商売はつらいのだ。
しかし、戦場で一般人には死の危険がある戦場のほうがつらいのは言うまでもない。
「何の話?」
ファントムに攻撃の隙は与えることなく連携が非常に綺麗にできている。
マリナはあまり考えては話してなかったが、本当に言いたかったのは気の合う人がいる職場はいいね、ということだったのだろう。
「自発的に考えてみんな協力し合って戦えてる。だからもう少し頑張って粘ろう。そうしたらきっとなんとかなる。」
ドローンにはできない協調と希望を持つことでファントムに対抗する、それがマリナの答えである。
「そんな楽観的な。」
「まだ、私には別に仲間がいるから、最後の詰めは彼女がやってくれるでしょ。」
だんだんと朝が近づいている。




