二人羽織
【比叡山山頂 宿坊】
宗千佳とウサギが搭乗する八雲はファントムの存在を確認しているが、ファントムは八雲より先に比叡山の要人を殺してまわっているようだ。
「作戦の優先順位には入れてもらえないようね。」
フランは答える。
「あななたちはゲストですから、後回しなんでしょう。できるだけ人の救助をしましょう。」
「戦ってもらえなきゃ、追い回すだけで、近くにいる樽井を捕まえた方がいいのかもしれない。」
「なんで近くにいると?」
「前線にいたほうが、功績が高いと考える男なのよ。」
草太より連絡が入る。
「ルート30の都との連絡が途絶えた。なんとか助けに・・」
「フラン!ラタトクス工業のルルイエに繋げる?」
ルルイエはまだ、比叡山を少しずつ登っている最中だ。
『はい、どうしたの千佳ちゃん。まだかかるよ。』
「ドローンファントムが大量に人をたくさん殺している。あなたたちの、女の子達の部隊も優先的に攻撃目標なされてるみたい、救援しつつファントムの相手を頼めない?」
『比叡山の安全を確保できるからっていうから、大部隊を上げたのに、そりゃ話がちがう。』
何か向こう側から、ガタガタと音が聞こえる。
『わかったわ、花達の会はこちらで助ける。問題ない。』
それがマリナの声だとわかった。
宗千佳はこれだけ人を殺した樽井に対して嫌悪感を蓄積させている。
樽井を早々に始末する。そう作戦の変更をフランに伝える。
「樽井という人を殺す必要は感じられません。可能な限り確保でお願いします。」
ウサギはここでやっと割り込む。
「大体わかった、敵の攻撃パターンだ。樽井という男がファントムを起動させたのであれば、演算ユニットが近くにあるはずだ。ある程度の広場があるのであれば、ここだな。」
昔にあったスキー場の跡地である。
「なるほど、ルート30を迂回するために比叡山ケーブルを登ってきたのか。」
急な坂ではあるが、風起であれば可能だろう。
「結構な資材を持ってきてるはず、赤い光を媒介にするエネルギーの通信インフラが不安定なのは確認している。ファントムを起動するための演算はレイテンシが確保できる現地近くで行なっているはず。」
この分析ができたのは、ナハト王が公開した設計図を確認したからである。
作戦を立案する役目のフランはその分析力に驚いている。
「どこかで、貴方、見たことありますね?」
ウサギは特に悪びれもせず答える。
「初対面だ。」
宗千佳はさっさと行動したかった。
「じゃあ、やることが決まったら、やることをやりましょうか。時間がかかると犠牲が増えるから。」
【花達の会 比叡山山林】
「まだついてきてる。」
少しずつ、撤退している花達の会をドローンファントムは彼女達の疲労を待つように等間隔で間合いを取っている。
花達の会のローズは負傷していて、アザレは行方不明である。
副隊長のカモミールはオリヴィエに攻撃の許可をもらう。
「こちらから攻撃しないとそのうち殺される。」
不気味なのである。少しずつ間を詰めてくるわけではなく等間隔なのである。
まるで何かを待っているかのように。
【比叡山 山頂付近 ラタトクス工業部隊】
ラタトクス工業のマシーンは頂上付近に来て、ようやく、柳生忍軍の風起と戦闘になった。が、
流石にラタトクス工業の先行部隊の数は30体と多いため、戦闘らしい戦闘もなく、撤退していく。
「大きな戦闘にはならないのかね。」
少し安心したが、眼前に現れたのはドローンファントムである。
しかも、二体。
ルルイエは戦闘倫理アドバイザーライムに助言を求める。
「ライムさん対ドローンの戦術はわかります?」
「基本的には戦闘はお勧めしませんが、逃げられるものでもないです。攻撃は素早いですが、攻撃の際の隙を狙うしかありません。」
「我々のスキルレベルでできますかね。」
「先代の久我幻魔は現役時代に一度だけ戦闘した記録があります。人間でも、戦闘は成り立ちますよ。」
「久我幻魔って世界最高レベルで戦闘がやっと成り立つのかよ。」
2体のファントムに対して、ルルイエは攻撃を指示しようとしたが、マリナが止める。
「何体いても全滅するよ、私に任せて。」
マリナはルルイエの右手を握り、右足を踏んだ。
「ちょっと、何するんです、マリナさん。」
マリナがルルイエの足越しにフットペダルを踏むと、ルルイエ達が乗るマシーンハヌマンがファントム目指して走り出した。
「ちょっと、ちょっと」
ファントムは、ハヌマンめがけて、尻尾のブレードで切り付ける。
寸前でマリナが、ルルイエの右手の上からレバーを操作し、攻撃をかわすのだ。
「さっさと、僚機に攻撃指示を。」
ブレードで攻撃した後、ファントムは間合いを取り、ルルイエ達の僚機からの援護射撃をかわしていた。
マリナはイグドラシルから切断されている。
自分では操作できない、しかしルルイエという仲介機を使えば動かすことはできたのだ。
ライムの映像からは、マリナが怖がって腕に捕まっているように映っている。
そもそもこのような操作が人間には不可能だから、マリナが操作しているとは思わない。
「いちかばちかだけど、今ので癖がわかったわ。」
ルルイエが囮になって、僚機が支援攻撃する。それがマリナの対ドローン戦術であった。
ドローンファントムのヘイトは先程攻撃した僚機に向いている。
僚機の一体が、ファントムの突進とブレードで両断された。
「ルルイエ、僚機を少し下げさせて、ファントムの間合いの外に。」
ライムの情報によるとファントムの必殺の間合いは大体、50メートルである。
それをこえる距離を取ると一撃で倒される確率は大幅に落ちる。
また、ルルイエの右足をマリナは踏み込んで、ハヌマンを突っ込ませる。
「こ、今度こそ、し、死ぬ。」
今度はファントムは身をかわすことを優先してその場で大きく跳躍する。
その間にもう一体のファントムがフォローするようにハヌマンを強襲した。
この連携力こそがドローンの恐ろしさでもある。
ルルイエは、やられると感じた時には、マリナはルルイエの上に乗って、両手のレバーを操作しだしたのだ。
強襲してきたファントムの頭を踏み台にして首を破壊して、先に跳躍したファントムの足を掴んだ。
神業である。
大きさが違うから、足を掴まれたファントムは完全に動けなくなっていた。
「猿の王というのに相応しい機動性ね、このハヌマンは。」
これはライムに対して、マリナが操作したのではなく、ハヌマンの性能であることをアピールしたのだった。
首を破壊された踏み台にされたファントムは僚機の機銃により動作を停止した。




