崩壊する戦線
【近江神宮 ラタトクス工業 大津ライン駐屯地】
ルルイエは戦争の難しさを実感している。
何も予想通りにはならない。
大津と石山の防衛戦を挟撃されている。
マリナは相変わらず、できることもなさそうな顔をしている。
戦闘の素人が指揮をとっていればこういう結果にもなる。
元々のラタトクス工業の戦闘顧問は裏切った柳生か、大連で手痛い被害を受けたSASであった。
その作戦指揮の穴を埋めるため、大量のマシーンを用意して単純な勢力で押し込もうという算段だったが現実はこのザマである。
「唯一の希望は嵯峨野と、大原の攻め手がうまくいくことか。」
【大津ライン 前線 逢坂の関】
黒いマシーンが殺到している。
赤いチェーンソーを持った大連のマシーンである。
幸い逢坂の関は狭い空間だったから、遠間からの砲撃で少しの間だけラタトクス工業の部隊は防ぐことができている。
柳生の指揮を取っていたのが、柳生二十三人衆の浜崎である。
「このまま押し込んでもかなり時間はかかるか、樽井さん次第かな。」
そう浜崎は考えている。
【近江神宮 ラタトクス工業 大津ライン駐屯地】
石山ラインは崩壊寸前、大津ラインは安定しているが、石山ラインが崩れると挟撃される。
ルルイエの考えは簡易な防衛ラインを石山ライン、大津ラインを崩しながら湖西に敷くことである。
マリナはそういう検討をしているルルイエ達を見て、素人の発想であると、判断した。
その時に意外な人物のアカウントからコールがかかった。
柳生宗千佳と書いてある。
倒れているラタトクス工業の職員を横目にルルイエは応答する。
「何やってるの?そこにいたら挟撃されてみんな死ぬよ。」
「千佳ちゃん、どこにいるの?なんでホテルから逃げたの?ずっと心配してたんだよ。」
「千佳ちゃんて呼ぶな!柳生忍軍は直接そこを狙ってくる、すぐに刺客が現れる、早く撤退して。」
ルルイエは敵の勢力である宗千佳の言葉をどう信じるかを悩んでいる。
通信が終わる前に悲鳴があがる。
ラタトクス工業の職員の一人が首から血を流して倒れている。
樽井の放った柳生忍軍の仕業である。
どこにいたかはわからないが、そこには一人の柳生忍者が立っていた。
「みなさん、抵抗をしないようにお願いし・・」
言い終わる前にはマリナ、リーダーらしき男の腹に当て身を加えていた。
口から何らかの液体を吐いて、失神した。
マリナはこいつも戦闘の素人であるという発想になった。
柳生の力量については大体理解することができた。
ルルイエは呆然としている。
「千佳ちゃんの言うとおりのようだ。このまま湖西に撤退する。」
宗千佳は心得ている。
「馬鹿ですか、あなたは。三千院と嵯峨野の仲間を見殺しにするの?」
「じゃあ、どこに逃げたらいいの?」
「柳生忍軍のボスはこちらで排除するから、比叡山の山頂宿坊まで上がって来なさい。できるだけ急いで、さっさとね。」
マリナが割り込んできた。
「女の子の部隊がそっちに行ってなかった?」
「マリナ?マリナなのね。」
「女の子の部隊は?」
「シルキーに乗った部隊ね、少しだけ確認したけど、ファントムに追われてた。救援には向かうけど・・」
マリナは絶望的な顔をしている。
柳生宗千佳の協力が、あの無敵の花の会でも無理な状況で意味があるのか。
「ルルイエ、私も花達の会と一緒に柳生忍軍を排除して比叡山の安全を確保する。」
「マシーンに乗れないのにどうやって。」
マリナはマシーンなら排除されていたのである。
「ルルイエが操縦すればいい、どのみち比叡山に撤退するんでしょう。」
ルルイエは戦闘のプロではないが、マリナの表情は口答えできるものではない。
マリナは無言で天井裏に、刃物を突き立てる。
血が天井からしたたりおちる。
「このザルな警備で守りながら戦うなんて素人のやること。乾坤一擲、比叡山のルート30を軸に烏丸御池まで一気に抜くべきよ。」
その言葉を受けて、ルルイエは慌てて、撤退戦を開始するのだ。
【石山ライン ラタトクス工業】
石山ラインは戦力が充実していたので、なんとか華山道士連の攻撃を凌ぐことができている。
その中でのミハイルはルルイエからの作戦に驚く。
石山ライン、大津ラインの主導権を崩して、マシーンの大多数は比叡山に上げる。それ以外の非戦闘員は湖西に流して防衛ラインを立て直すと言うものだった。
湖西の防衛ラインははるか北の近江今津である。
ミハイルの部隊は撤退しながら、大津ラインと合流しながら、下がりながら戦う。
半数は比叡山に回せとのこと。
「華山道士連に背中を見せつつも撤退戦をするのか。」
撤退の作戦の開始は2時間後と伝えられた。
西からは華山道士連、東からは柳生の本隊、比叡山には柳生忍軍およびドローンファントム、
あまりにも絶望的な状況である。
この撤退戦は、その後の歴史の戦闘教義に残り伝えられることになる。




