外伝 回顧録 4
ドラッケンを調べても何も出ないだろう。
イワンと華山道士連の男はそう考えている。
しかし、レイジーはイグドラシル接続へのブラックボックスにエネルギー受信ログがあるのを知っている。
そのログは受信感度を直接の調べるものではないが、プロトコルのシーケンスが記録されるから、その記録時間でおおよそのエネルギー受信状態を確認できる。
レイジーはルルイエに報告書をまとめていた。
マリナも同室にいる。
マリナは心配そうだ。
「今回誘ってもらって戦争とかじゃないクリーンな試合でお金をもらって嬉しいんだけど。」
レイジーは振り向く。
「ん?」
「危険なことなら手を引きたい。」
レイジーは久我流である。そもそも危険に対しては敏感だ。
マリナが言うほど危険なのか。
「あなたも戦場では、何度も戦ってきたのでしょう?」
首を振る。
「戦ってきた、そのたびに仲間も死んだし、怪我した。一度怪我をすると完璧に元のように動けるってことはないから、つらくて。」
「自分が心配じゃなくて、周りが心配ってこと?」
レイジーは久我流だから心配されることはなかったから、新鮮な気持ちだ。
報告書を再び打ち始める。
「そうじゃなくて・・」
「じゃあ、お互い守りましょう、わかったわ。危険な事は高い給金でもしないようにするから。」
レイジーはマリナの気持ちをきっとわかってはいない。
マリナは自分の実力を考えるとどうしても守る側なのだ。
【スタジアム】
バトルロワイアルは取り壊し予定の旧市街で行われる。
7平方キロもある敷地で1時間半戦ってポイントが一番高い選手、または最後まで生き残った選手が優勝する。
参加選手のメインどころを実況が紹介していく。
『一番の優勝候補は久我流の銀次だ!久我流のエースがゲスト選手として参加してくれた。マシーンはもちろん愛機のトリプルフィールズだ。』
銀色の騎士のようなマシーン。数々の戦場で名の知れた機体だ。
フランは実況を聞きながら、ゲッという声を出す。
レイジーだけじゃなく、銀次まで出ているのか。
「おい、フラン、フランソワーズ!」
「何ですか?」
「優勝する必要はないんだぞ。違法接続がわかればいい。」
銀次のブックメーカーオッズは1.2倍だった。
フランは4.2倍。
「・・・全部」
「は?」
「あんたのところの今期予算全部私に賭けなさい。」
フランは自分が低評価なのを怒っている。しかも、久我流の銀次と比較されてである。
「落ち着け、倫理的じゃないぞ。」
「今日は戦場倫理アドバイザーの仕事で来ているわけじゃないんです。一人の闘士としてきています。」
「調査は?」
『人気の順にお伝えしております。チームライジングのマリナ。戦場の傭兵で有名は花達の会のリーダーをしていた実績があり、このトーナメントリーグでは全勝です。愛機のハヌマンと共に参戦です。』
人気の順と聞いてフランは血管がはじけそうである。
『次に期待するのはラタトクス工業からの交流選手、フランソワーズだ。こちらは先日の展示試合と同じく、キャバリエにて参戦。』
残りのマシーンの紹介もあったが、ここでは省略しておく。
【オーナー室】
「最後の盛り上がりはあのフランと、銀次の一騎打ちにさせろ、それが一番良さそうだ。それでリックジャガーに優勝させる。」
イワンは倍率の良いリックジャガーに賭けているのだ。
道士連の男はわかったとうなづいた。
そのようになるよう部下に指示を出した。
「気になるレポートがあの女からラタトクス工業へ送信されてるぞ。」
「結局、消すしかないな、ラタトクス工業側はまだわかっていないから、レイジーと言ったか、あの調査している技師を消せ。」
【バトルロイアル 主戦場】
観客席はスタジアムに設置されていて、正面の大きなモニターと、来場客だけ自分の端末で戦況の確認と、各所に設置してあるドローンの映像を確認することができる。
ルルイエはスタジアムの選手側の司令室にいる。
「フラン、わかってるんだろうな、目的は勝つことじゃないぞ。二つの目的があるんだ、わかってるな。」
「わかってますよ、ギャンギャンとうるさい。」
フランは段々と素が出てきている。
こんな観光地に来て、パイロットやらされて、しかも、客からの期待値が低いとなれば。
「おい、じゃあ、目的を言ってみてくれ。」
「勝利と優勝でしょう!」
フランは近くにいたマシーンに飛び掛かる。
瞬間的に、首を跳ね飛ばして動きを無効化させる。
ヒィーっと、敵のドライバーの悲鳴が聞こえた。
基本的にはレギュレーションの範囲で安全な試合のはずが、動きの違う一体が混じっているからだ。
ルルイエはマッドマーダーになったフランについては諦めることにした。
試合前に届いたレイジーからの報告書に目を通している。
『マシーンに残っていたログからです、時刻調整のプロトコルが動いていました。20秒毎に時刻調整をしていましたが、戦闘が終わる一瞬だけログが存在しませんでした。その時間帯のログが消されているということを示唆しています。また、左股関節部が損傷していました、急な負荷がかかったからでしょう。これはエネルギーダウン特有の症状になります。継続調査の必要あり。 レイジー』
ルルイエはレポートを自分達の仲間の技師にまわした。
スタジアムから歓声が上がった。
マリナと銀次の戦いが始まったのだ。
銀次のトリプルフィールズは細身のマシーンでいかにも、素手の戦いには向いていない。
基本的にマシーンの素手での戦いは被弾前提だからである。
観客の予想とは別だったのは被弾前提のはずなのに、双方とも攻撃が当たらないのだ。
別次元の戦闘をしていることに観客席が沸いている。
しかし、それの他にも別次元の戦いをしているマシーンが一体。
「私のオッズより低いマシーンは全員かかってこい!その評価が正しいことを証明してやる。」
フランは人には倫理を薦めるが、自分の評価に対しては厳しい。
「もう、完全に現役時代に戻ってるな。精神性が。」
フランは退役軍人である、
多数の戦場で数多の敵を倒してきた。更には高い戦術眼をもっている。その両面でラタトクス工業が戦闘倫理アドバイザーとして雇ったのだ。
マリナと銀次が鍔迫り合いしている裏で、フランは猛烈な勢いでポイントを稼いでいた。
「こんなやり方で違法接続なんてつかめるのかな。」




