外伝 回顧録 3
ミックジャガーをルルイエは訪問した。
オーナーのイワンにはちゃんと許可をとっている。
証言はこうだ、タックルで攻撃しようとしたら壁に激突していた。
悪いパイロットではない、優秀なパイロットで、フランですら手こずった。
乗っていたマシーンドラッケンの供給元を聞くと、オーナーのイワンらしい。
夕食を食べながら、フランと状況を整理している。
ミラノのパスタは黒いのか。
不思議な味である、フランは緑色のパスタを食べている。
もっとも、黒いイカスミパスタも緑のジェノベーゼも絶品ではある。
フランがどんな高いものをふっかけてくるかと思えば庶民的なのだ。
「案外、普通の夕食だね。」
「倫理の根本は人の中のルールです。それが他者と交わり法律でカバーできない細かい規範を生み出すんです。」
「それは?」
「どこにいっても高級レストランでは味は同じでしょう。一流のシェフが作るのだから。外に出たら現地の人が食べるものを知り、文化を知る。これほど勉強になることもありません。」
「単純においしい物を食べてお腹いっぱいになるのではダメなのかね。」
「ダメです。」
話を仕事に戻した。
リックジャガーは何も知らないようだ。
マシーンドラッケンを調査もした。
キャバリエのメカニック達にまかしたが、違法接続の痕跡は見当たらない。
イワンの所属する商会は資金繰りに困っているようだ。
これだけ大きな大会を開いているから、金がなくなるのはある話だ。
そういう話をした時、声がした。
隣の席からだった、困った声が響く。
「全然わからない、イタリア語なんて、何を食べていいか。」
二人の女子がメニューを見て困っている。
レイジーとマリナであった。
ルルイエはフランが声をかけるのはすぐにわかった。
「もし、よければ。メニューの説明をしましょうか。」
フランは当たり前のように声をかける。
「どうもすみません、お願いできますか?」
そう言った目に入ったのは、黒いパスタと緑のパスタだった。
はたしてあれは美味しいのだろうか。
「どうする?やばいかも。」
「人が食べれているなら、大丈夫だと思う。」
二人はこそこそ言っていたが、結局はトマトベースのパスタをどれか聞いて、フランに注文を代行してもらった。
フランは少し経ってハッとした。目を細めてレイジーの顔を覗き込む。
「あなた、久我流のレイジー?メカニックの?」
レイジーも目を細める。
「あっ!あのときの女!最近見ないと思ったらこんなところにいて。」
「違法接続の主犯はあなただったのですね。それしかないとも今なら思います。」
ルルイエはどういうことか、と聞いた。
「17秒ルールは知ってますね?」
要約するとこうだ、イグドラシルに接続するパイロットは17秒毎に本人確認をする必要がある。
眼球、指紋、声色、いずれで構わないが、これだけ細かくチェックするのはレイジーが本人確認を他人になりすまして行い、人類初の違法接続をしたからだ。
レイジーが捕まらなかったのはそんなことは人間には不可能だという判断になったからだ。
レイジーはどうでも良さそうにしている。
「パスタについてはありがとう」
「いえいえ、どういたしまして。」
ルルイエはフランに聞いた。
「久我流の身分証明ができていて、優秀なメカニックであると?」
「世界最高峰でしょうね。倫理観以外は。」
「ちょうどいいんじゃないか。ねぇ、レイジーさんバイトしない?」
レイジーは無駄に働きたくないと、突っぱねる。
フランが横入りして。
「見たことがない挙動をするマシーンがあってその調査をしたいの手伝ってくれない?」
すこしだけ、パスタを啜ってから答えた。
「・・する」
マリナは小さな口で大盛りのパスタをみんなのペースに間に合うように頑張ってひたすら食べていた。
【ミラノ スタジアム】
リックジャガーが乗っていたドラッケンが横たわっている。
もちろんイワンの許可も取ってるし、ラタトクス工業の権限は監査という名目では絶大である。
レイジーは何かよくわからない部品を確認している。
「この部品は」
ルルイエが覗き込んだ。
「部品は?」
「よくわからないわね。」
よくわからない部品がよくわからなくて当たり前だ。
「わからないことがわかったということか。」
フランが口を挟む。
「レイジーさんがわからないなんてあり得ない、でもわからない、それでラタトクス工業のメカニックは問題ないと判断した部品ということでしょ。」
レイジーが指さしたのは、基板だった。
「この基板見てどう思う?」
「よくある基板だね。」
「加工が完璧なのよ。このクオリティでは普通は作らない、採算に合わないからね。」
目にレンズ付きのグラスをつけてまじまじと観察している。
「ダメね、ここじゃわからないと思う。ラボに持って帰ってもいい?」
「人のものだからね、どうかな。聞いてみるよ。」
無線でイワンの事務所に確認をとった。
流石に持って帰るのはダメだという回答だ。
マリナはレイジーの肩を軽くつついた。
「何よ」
「監視されている。誰かに。」
周りを見渡しても誰もいない。
周りに聞こえるように言う。
「パピプペトっと、わかりました。この機械には何もありません。」
ルルイエの肩にレイジーが軽くぶつかる。
そして静かに語りつける。
「やばいじゃん、あんたたち監視されてるよ。」




