懐古
ラタトクス工業の作戦は京都を半包囲することだ。
まずは、比叡山で戦闘が始まった。
すでに夜が深く寒い。
【近江神宮 ラタトクス工業臨時前線基地】
「比叡山のレジスタンスの救出作戦ね。よろしく。」
無線で指示を出している。
90体ものマシーンを一度に投入する作戦である。
この時代の戦争でオペレーターの数が少なくて済むのは、実際の細かい作戦のフォローはイグドラシルの戦闘倫理アドバイザーがまとめてるからである。
が、本来、各マシーンにつくはずが、これほどの人数の戦闘倫理アドバイザーを要求され、センターはパンクしていたらしい。
世界で各地で混乱が起きているから、仕方ないと言えば仕方ない。
だから、作戦に実際に最初の作戦で投入できたのは、140体のうち90体程度である。
ルルイエはテントで8名ほどのラタトクス工業の社員と作戦にとりかかっていた。マリナもいた。
社員の一人が文句を言っている。
「完全な作戦のために、140体もマシーンを集めて使えるのが90体って、時間的な猶予を柳生に与えるだけなんじゃないか。」
「柳生を制圧したら、次は本丸の梅田のナハト王との戦いになるんだ、時間はかかるさ、地道にやるしかないよ。」
マリナはストーブの前でナイフの整備をして暇を潰している。
イグドラシルから非倫理認定されている身である。
マシーンでの戦闘行為はできないのだ。
ルルイエがマリナに話しかける。
「退屈?」
「いえ、気になることがあって。」
「君に似た傭兵達のこと?」
マリナはうなづく。
少し、昔を思いだしている。
4年前のプラハの実験施設でマリナのシリーズは作られた。
コンセプトは人間である。
イグドラシルに接続できること、社会に溶け込めること。
人間である必要がある。
最初に作られたのがマリナである。
遺伝子をいじられて、薬品を投与された。
マシーンに乗りやすいように、小さな女の子の体に設定された。
白兵戦でも、無類の強さを持つように訓練される。
研究所の人はマリナに優しかった。
実験動物のようにも見える内容ではあったが、倫理的な世界なのである、マリナの人権についてもちゃんと考慮された。
しかし、戦争を目的にするのはどうなのだろうか。
マリナは最初に生み出されたモデルであり、戦闘訓練の教育を受けた。
その訓練教官は戦闘の達人だったらしい。名前は日本人のような名前だったことを覚えている。
全ての材料が整った時、最強の兵士が完成したのだ。
マリナは戦争に赴いて、白兵戦、斥候、スパイ、マシーンでの戦闘、全てにおいてパーフェクトである。
しかも、マリナには仕事量に対して十分な休暇、レジャー、食事が提供されて、ストレスも少ない。
次第にUDAと連合の戦力バランスにも影響するようになっていく。
次に研究所はマリナのような存在を量産することを考えた。
戦闘の達人の日本人はすでにどっかに行ってしまったから、マリナが後輩を教えることになる。
これにより、マリナを軸とした傭兵部隊が完成した。
花達の会の前身である。
たしかに、マリナの後輩達も戦闘能力は高かったが、マリナには遠く及ばない。
これについて様々な議論がなされた。
最終的にはマリナが奇跡の産物とされる。
ということで戦闘の達人、雑賀故我の教育が大きく影響していることには誰も行きつかなかった。
研究者は自分たちの知識の範囲でしか原因を見つけられないからだ。
ある日の作戦から帰ると、赤い封筒が届いている。
内容は、
『ラタトクス工業は貴方を非倫理的な存在として、イグドラシルから30日後に排除します。』
というものであった。
後輩達には特にお咎めはない。実力差を元に判断されたのだろう。
研究所は大いに悲しんだ。
しかし、マリナが身内にいると自分達までラタトクス工業に非倫理認定される可能性がある。
色々な議論の上、働かない人を置くわけにはいかない、自分で仕事を探してね。
そう言って退職金と、仮住まいを手配して関係を切られたのだ。
後で聞いた話であるが、研究所の最大成果はマリナだった。
その最大成果が使えないとなると、研究所は将来的には不採算であると解散させられた。
そのあたりの経緯はマリナが元研究員とご飯を食べに行った時に聞いた。
それから、マリナは喫茶店でバイトをしていた。
人を殺したり、殺されたりする危険がない分は気楽である。
と思っていたが、人間関係については戦場以上に殺伐としていた。
挨拶をしても返事をしないし、シフトは簡単に押し付けられるし、そろそろ仕事を変えようかなと考えていた。
戦争は敵を倒せばいいが、身内の喫茶店店員を武力で倒すのは難しい。
そこに現れたのは女性の技師レイジーだった。
長くなったので懐古は続く




