花達の戦い
天根は太郎に情報を確認させていた。
五条にいる都子の仲間のレジスタンスから得た天元(雑賀故我)の情報をである。
柳生の本部は二条城にあるようだ。
柳生宗家、柳生克久、天元全てがそこに集まっている。
何かをしようとしているようだ。
太郎はさらに比叡山の戦火についても伝える。
天根はそこに柳生庄に置いてきた宗千佳がいるとは思ってはいない。
このまま北上して、天元を始末すれば終わり、それだけを考えている。
【比叡山 ルート30】
夜であった。月と燃える山火事がはっきりとした視界を作っていた。
杏野都子は柳生忍軍の攻撃を受けていた。
今までの平場用のマシーンでの無理押しではない。
風起という小型の山間でも活動可能なマシーンを使い、都子を狙いながら攻撃してくる。
幸いは都子が敵を察知して本部に増援を求める前であったこと。
この状況で全滅するのが斥候の自分1人で良かったというネガティブな思考であった。
風起は半分は人間の体が露出しているほどに軽マシーンであり、攻撃は機銃か、ロケットランチャーを使う。
四方から攻撃が起きている。
「都子さん、撤退をしてください。防衛線もなにもありません、この数では。」
戦闘倫理アドバイザーのナミは通信先から撤退を推奨する。
都子のマシーン、自警団に配給されたオンボロマシーンでは勝ち目がないのだ。
今まで大量の柳生のマシーンを破壊できていたのは地形を活かしていただけなのだ。
「撤退したくても、どこにさ。アドバイザーならそれを提案してよ。」
「投降でも構いません。」
「あれだけ、柳生のマシーンを爆破したり、燃やしたり、積み上げたり、投降したりしたら、殺されるわ。なら」
「なら?」
「せめて、頂上の宿坊の被害を減らす。少しでもみんなが逃げる時間を稼ぐために、田舎者どもを道連れにしてやる。」
一人一殺と言う言葉がある。相手の命を一つより多く奪えば、都子は自分の命一つで、宿坊の人が守れるなら。
ナミはその言葉を聞いて、何も言えなかった。
狂気ではなく人としての優しさと理屈の上での結論だからだ。
しかし、人を守るためという選択肢にだけ倫理を見出し、風起の殲滅と、状況が変わった際に助かるように少しでもアドバイザーとして役割を果たそうとした。
戦争において、投降というのは殺し合いをして自分が負けると手をあげる、敵にとっては非常に都合のいいと行動と受け取られる制度だ。
UDAと連合の間であれば取り交わしがあったが、柳生とはそうではない。
都子の顔には死に対する恐怖はない。
風起が木の影に隠れたり、背後から現れたり、何体のマシーンがいるのだろうか。
柳生忍軍は無駄に痛ぶっているわけでない、都子の疲れを待っているのだろう。
少しだけ月がかげった。
その時、敵の囲みが弱くなったように感じた。
【比叡山 山林】
樽井は都子を排除すればルート30の道が開けて、頂上への攻撃は重装備のマシーンに任せればいいと考えている。
大きめの多脚のマシーンの上で状況を確認している。
一人の部下が何かを言っている。
「報告です。先ほどから攻撃を受けているようです。」
「攻撃ってどこからの部隊だ?」
「おそらく、近江神宮に駐屯するラタトクス工業の部隊だと思われます。」
樽井は賢い男だった。最適は何か。
「ラタトクス工業の指揮官を殺してこい。どうせ素人の寄せ集めだろうから、指揮官をやられればしばらくは何もできまい。」
裏腹に都子一人排除できない自部隊に苛立ちを感じている。
つまり、都子、頂上、山の裏側の近江神宮へ、樽井は三面作戦をしようとしている。これは指揮官としては落第である。
【比叡山 山林 別場所】
山林の柳生忍軍を排除しはじめていたのは、都子と協調するために行動していたラタトクス工業の傭兵組合、花達の会である。
マリナと同じ、言い方を選ばなければ改造人間、その集団である。
改造というのは遺伝子レベルで組み換えと、強靭な肉体になるように培養されたことを指す。
マリナと同じように作戦に有利なよう、女の子の姿をしている。マシーンに乗り込むには体が小さい方が適しているし、暗殺任務にも適している。
マリナと同じ性能を目指したが、マリナ以上は存在しない。
風起と同サイズのマシーン、シルキーに搭乗し、4体と随伴兵6名の計10名で構成された。
もともと、改造人間は30名はいたが、今は10名である。たくさん戦争で死んだし、普通の生活に戻って行った者もいる。
シルキーは搭乗者とは別に背面に人が乗る運用も可能なので、休憩と交代をしながら、山間部を進んでいる。
すでに、3体の風起と、8名の歩兵を排除していた。
風起ももちろん、赤い光をまとったマシーンである。
それでも気にせず、流れ作業のように包囲を切り取っていく。
「ねぇ、ここを突破できたら、京都じゃん?どうする?」
「どうするって、あ、敵」
暗闇に潜む柳生忍軍をライフルで仕留める。
まるで昼のように。
「美味しいものたくさんあるじゃん。おばんざいとか、京野菜とか。」
「これだけ、死体を見て、食べ物の話?うける。どんな食欲の化け物だよ。」
一人は笑っていう。
「食べ物興味ないの?昔、京都に行った子がなんでも美味しいって言ってたんだ。」
「あー、それ聞いたことある。でも、美味しいのはラーメンよ。あの独特の豚骨スープ。聞いたことない?すごくこいの。」
これはよくある誤りである。こってりスープの京都のラーメンは鶏ガラであり、それを極限までまた煮込む。
それほどの技巧を持つ京都はラーメン王国であるということだ。
「えー、楽しみ、何泊かしていこうよ、清水寺も見たいし、あ、右方向に敵。」
排除は進むがまだまだ序盤である。
大連で猛威を払った赤いチェーンソーをもったマシーンはまだ現れてもいない。
花達の会が口火となり、ラタトクス工業の倫理維持軍と柳生との戦いが始まったのだ。




