柳生忍軍
【比叡山 宿坊】
夜になり、京都の自警団の草太は警備のローテションを終えて、宿泊で休息している。
宿坊は比叡山のほぼ山頂にあり、多くの避難民をかかえていた。
避難民の大半は都子が避難誘導し、収容した。
宿坊の数も限りがあるので、テントも多くて張られた。
多くの人は比叡山坂本から滋賀に抜けたがここに留まることを選ぶ人もいた。
そういう人たちを都子や草太は守っている。
比叡山の僧たちは、柳生から守ってくれる自警団の存在はありがたかったから、避難民も受け入れている。
なにやら、宿坊の外が騒がしい。
やっと寝付けそうなのに、草太は外に出ていく。
「都子に会わせてほしい。」
ぐるりと自警団に囲まれていたのは、女の子と頭にウサギの耳をつけた変なやつだった。
自警団はすぐにそれが有名人の柳生宗千佳であると知る。
敵が来たのだ。
ウサギは言う。
「おい、アホか。すぐにかこまれて。」
宗千佳は自分の有名さを知らないのだろうか。
草太が声をかける。
「宗千佳さん。」
「草太くん。」
草太の知り合いだったとしても、自警団の囲みは解けていない。
「都子はここにいるの?早く伝えないと。」
「何を?」
その言葉が先かどうか、比叡山の山頂の電気が一斉に落ちたのだ。
各自が持つ灯りのみが山を照らしている。
【比叡山 山林】
柳生の部隊は山林に潜んでいた。
樽井という男だ、その男は柳生の軍勢を率いている。
ルート30を封じられて、柳生は攻めあぐねていたが、直接柳生の歩兵を送り込んだ。
歩兵部隊の名前は柳生忍軍という。
樽井は比叡山の宿坊付近の人間の数を確認し、火を放つように指示をした。
【比叡山 宿坊付近】
火が上がる。
それも、四方から、いつのまにか八方と広がっていく。
草太は事態に困惑している。
宗千佳は早く避難をさせろと伝えた。
その瞬間である、民衆の中に人の首が投げ込まれた。ひとつ、ふたつ、みっつと。
一斉に、そう一斉に人々の心は恐怖に変わる。
凄まじい悲鳴であった。
草太も勿論同じである。
宗千佳は、その人の首が人形であることを知っている。
柳生忍軍の撹乱術である。
混乱する草太に、宗千佳は両肩を掴んで退却を求めた。
「まだ、都子さんが、ルート30で戦ってるんだ。」
少しだけ、時間差があって、小型のマシーンが現れる。
少しだけ人より大きいくらいの機銃をつけたマシーン。
柳生忍軍の風起である。ほとんど人と変わらないにしても、人間相手には有効な機械である。
軽量化と機動力を優先している。強化ガラスが正面にはあるが、気密性は低いマシーンである。
風起は赤く発光しており、イグドラシルの倫理の理からは離れていることを示している。
柳生はこれだけ大規模に山に火を放ち避難民もろとも処理しようというのか。
風魔はできれば殴殺陣で大量殺人をしたくないと止める手段を考えていた。明らかに柳生忍軍よりも実力が上の風魔がそうである。
宗千佳の父はこれほど残忍な指示をしたのか。
あらゆる方向から悲鳴が上がる。
柳生忍軍の動きは実は規則的で、陽動を行い、人の動きを確認し、要人をまずは殺す。
比叡山の都子に協力をしていた、高僧と、草太達レジスタンスが最優先目標だろう。
風起は民間人無差別に発砲を始めた。
宗千佳は草太の体を押して、風起のドライバーに抜き打ちで切り掛かり、簡単に殺害する。
草太は躊躇いのない判断と、その美しい刀の円の軌跡に見惚れてしまった。
「何やってるの、早く。」
火や首は人の心を破壊する。恐怖が広がっていく。
周りにはさらに複数の風起がいた。
宗千佳はわかっている、これが最初の攻撃で更には重装備の敵が投入されると。
恐らくこの後は大連の黒い赤く発光するマシーンが投入される。
もはや、比叡山は恐怖につつまれている。
安全とは思っていなかったが、人の首がそれを伝染させる。
「草太、草太!」
草太はハッとする。
その間もウサギは拳銃で風起と柳生忍軍に対応している。
「おい、流石に敵が多いぞ。」
宗千佳は慌てず静かに確認するのだ。
「都子はどこにいるの?」
「ルート30の中腹にいる。」
宗千佳はわかったといい、行動を悩んでいる。
このまま山頂で柳生忍軍を好きにすると、比叡山が壊滅し、たくさん死ぬ。
しかし、都子を放ってはいけないない。
その時、スピーカーで声が響く。
「こちら柳生である、投降せよ、投降せよ。人に危害を加えるのは武家のやり方に反する。だから、投降をするものは京都市内に降りてほしい。坂本(滋賀)に降りるやつは天意に反したとして全員殺す。」
宗千佳は誰の仕業か気づいた。
樽井である。陰湿な男だ。
傭兵という仕事をする上でやりたくない仕事はある。
それを出世のために喜んでやってるのが樽井だ。
比叡山が炎に包まれていく。
憎しみをもっても、周りには大量の風起が集まってきている。
「ウサギさん、八雲を呼んで。」
茂みの中に隠していたのだろう。
オートモードでマシーンが現れた。
柳生の蔵にあった四足歩行のマシーン、八雲である。
古いマシーン。燕雀朱美の朱雀と同系統のマシーンである。
複座である。
宗千佳がメイン、ウサギがオペレーターとして、乗り込む。
「戦闘倫理アドバイザーのフランです、よろしくお願いします。作戦がまだ届いていませんが。」
「比叡山を焼いているやつらの排除を行います。」
「わかりました。戦闘哲学をお願いします。」
「伝統に従った戦闘を。」
「ホーラは戦闘を許可しました。それにしても、とても懐かしいマシーンになっていますね。風起とは戦力差がありすぎます。あまり相手を殺しすぎないようにしてください。倫理的な戦いを。」
瞬間である、八雲は風起の一体を噛み潰している。
「下手だな、間合いが深すぎる。」
ウサギはコンパネを操作しながら宗千佳にダメ出しをする。
「ありがとう、気づいたらどんどんいって欲しい。」
ウサギは嫌味ではなく、宗千佳に確認するように語りかける。
「覚悟を決めたとはいえ同胞をこれだけ簡単に殺すなんて。寝つきが悪くなるよ。」
フランは会話に割り込む。
「いいました、殺しすぎないでと、オーバーキルはイグドラシルの・・」
宗千佳は素直である。それが美点なのだろう。
風起から複数のミサイルが宗千佳を襲う。
しかし、八雲はその大きな体に反して高く飛び上がり、誘導したミサイルは行き場をなくした。
山林に紛れて姿を消したからだ。
柳生忍軍は自分たちの騒音で八雲の場所がわからなくなっていた。
山頂付近の風起は素早く破壊されていく。
しかし、それよりも速く、比叡山に灯された包囲の火は強さを増している。
八雲のコクピットを開けて宗千佳は聞く。
「草太くん、連携して。」
草太は自警団を集めて、武器を持たせた。
【比叡山 山林】
樽井は遠くから様子を見ていたが、現れたマシーンに驚愕していた。
八雲が起動していることにである。
柳生庄の蔵にある博物館に寄贈してもおかしくない骨董品である。
燕雀朱美のマシーンと同じく脱法マシーンの一つ。
どのようにしても起動できなかったマシーンだ。
柳生の開祖の師匠の愛洲移香斎久忠の伝説には蜘蛛が登場する。
八蜘蛛として、八雲、柳生の元フラッグシップである。
柳生の蔵にいつからあったかわからない、古代のマシーン。
しかも、機動性がこの山林でも一切落ちない。
樽井は作戦を変更せざるを得ないのだ。




