柳生庄 旅の終わり
【柳生庄】
怪我の治療のため、吉野で2泊して、そこから、北上して一泊。
そしてようやくして、柳生庄が見えた。
風魔とのやりとりがあり、雷蔵と太郎が一行に加わっている。
風魔の願いはナハト王からの大阪の解放である。
しかも、半月以内に。それをしないと関西はほぼ壊滅する。
流石に無理があるのではないだろうか。
久我天根の当面の目的は京都にあるし、間に合うのだろうか。
大峰山脈で話を聞いてからすでに3日経過している。
風魔の結界内を通ったので、スムーズに移動することができた。太郎の案内も的確だったし、食料や必要品も随時提供された。
柳生庄は東大寺から東へ少し行ったところにある。
ただの田舎だが、柳生家が傭兵業を始めた時に拠点になっていた時期もある。
今はもう少し都会の方に拠点を移している。
先んじて、太郎が仲間に柳生庄の様子を探らせる。
とくにマシーンの配備や、軍隊が駐屯している様子はない。
宗千佳は実家の戸を叩く。
「誰かいませんか?」
実家の戸がガラガラと開いた。
「千佳ちゃん、どうしたの?大連で行方不明って噂だったけど。」
多恵という女性は柳生家の使用人である。
「多恵さん、色々あってやっと戻ってきました。」
宗千佳はいわば監禁状態だった、それが海を越えて、山を越えて自宅まで戻ってきたのだ。
まだ若い子にすると泣いてもおかしくはないだろう。
天根は口には出さないが、また泣いてるよ、と面倒そうにしている。
「状況が無茶苦茶で、、、みんなはどこいるの?」
「宗家がね、柳生を復興するか、なんかと言って、京都に駐屯しているとは聞いたけど、よくわからないの。ナハト王とかいうのも来てるでしょ、混乱してて。」
「都子は?連絡はあった?」
「千佳ちゃんの安否確認の連絡が一回あったけど、それきりだね・・」
天根は柳生庄自体には特に危険はなさそうだと判断して、割り込んだ。
「どうも、宗千佳さんのサポートをしているのですが、とりあえず歩きっぱなしで腹が空いてて、何か食べさせてもらえないでしょうか。」
宗千佳が泣き続けるのも面倒なのだろう。
雷蔵とウサギはまともな食事にありつけることに歓喜した。
【柳生 宗千佳実家】
一旦、お腹はいっぱいになった。
多恵は気を遣ってくれたようで、お腹に優しい料理から地鶏料理をたくさん料理してくれた。
天根の話を報酬を切り出した。
「報酬は振り込みでかまわんか?」
「ええ、構わない。」
「加えて武器を用意してくれないか。」
欲しい武器のリストを手渡す。
鳥羽上陸時に万一拿捕された際にいい訳ができなくなるから武器類は置いてきたのだ。それは燕雀朱美に迷惑がかるから。
「京都の柳生と敵対するためなら・・・」
「難しいか?」
「わからない。」
「そうか、じゃあ、報酬として蔵のものを勝手にもらっていくよ。それならいいだろ。蔵から勝手に盗まれたことにしておきな。」
「いいけど蔵になんてガラクタしかないよ。」
「じゃあ決まりだな。」
【柳生離れ 東蔵】
倉の中には動かないマシーンがあった。
天根はこれは意外だったようだ。
「八雲か、こんなところにあったのか。」
「これが目当てなんじゃないの?この蔵にはこれしかないよ、動かなくなったマシーンしか。」
まるで神を祀るようにマシーンが置いてあった。
「動かないマシーンね。」
ひょこっとウサギが割り込んだ。いつのまにいたのか。
聴診器を八雲の外壁にあてている。
「リアクションセルはまだ生きているように思えるけど。」
「修理できるのか?」
「これだけ古いからね、どうかな。でも、動きそうだけどね。」
「興味があればやってくれ。懐かしい知人の機体なんだ。」
天根は蔵の端でなにかをゴソゴソしている。
ガコッという音と共に室内に灯りがともる。
宗千佳が知らない仕組みだった。
「なにこれ、なんで知ってるの?」
「小さい時に遊び場だったからな。たまたま見つけたんだよ。柳生先代宗家はコレクションをここに隠していた。」
灯りは青く光り、地下への扉が開いた。
地下は思ったよりも広い。
「たぶん、八雲も本当は地下に収納したかったんだろう。」
地下にはショーケース内に様々な骨董品が並んでいる。
宝石、巻物、よくわからない壺、そして。
「あった、これだ。」
「何その刀は?」
「先代の久我幻魔が、柳生と賭けに負けて取られた品、火鐘兼鋼だ。」
鞘から抜いて状態を確かめる。
その表情は悲しさに包まれている。
その横にはワルサーp1があった。これも久我幻魔の持ち物である。
「さっき言った報酬だが、この二つで十分だ。あとはいらん。」
「思いでの品が欲しいっていうならいいけど。」
宗千佳は疑問に感じた。
「仕事としてあなたの会社に発注したのだから、それを自分のものにしたら横領にならない?」
ウッという声を天根を出したが、そもそも口約束で契約書がないから会社には黙ってることにした。
立派な横領だ。
その晩には天根と雷蔵は酒盛りもした。
ウサギは琴線に触れたのだろうか、八雲の状態を確認している。
天根が久我流のレイジーなら起動させれるんじゃないかと、煽ったことも要因である。
そして、その夜。
宗千佳は考えがまとまらずに寝れずにいた。やっと自分の家に戻ってきたのに。
少し、刀の素振りでもしようと、近くの寺まで行くことにした。
その道中に天根が座り込んでいる。
どうも、酒を飲みすぎたようだ。夜風で酒を抜こうとしているのだろう。
「大丈夫?」
かなりきつそうではある。
「田舎の酒は美味いが、よく回るんだ。」
「そう」
「少し歩くか?ここは懐かしくてな。」
日は落ちていた。手のランタンが辺りを照らしている。
「何か話でも?」
「今後の話だ、依頼は柳生庄へ、連れて行くことだ。役割はここまでということだ。」
大きな話があって、世界が大変で、でも、宗千佳の目的は先に達成された。
柳生庄には危険は今のところないようだ。
「京都に柳生の本隊がいて、あなたはそれと戦うの?」
頭が痛いようだ。頭を抑えながら言う。
「いや、戦争はしない。」
「雑賀故我?」
そう、と天根は答える。
「知ってるか、戦争というのは結果をコントロールできないから、面倒なんだ。そんなものに干渉する気はない。」
「でも、ナハト王から大阪を解放するんでしょ、しなけりゃみんな死ぬって。」
「みんな死ぬ、は言い過ぎだな、生駒以西と言っていた。この柳生庄は大丈夫なんだろう。それに、風魔もそう上手く行くとは思ってないさ。」
「じゃあ、ナハト王には関わらない?」
「直接はないね。君の父親と宗家筋は雑賀故我にそそのかされて京都や大阪城に駐屯していて、ナハト王の東側を守っている。そこをUDAが攻撃しようとしているから、雑賀故我が排除されればUDAは京都を抜けれるだろう。俺1人がナハト王に挑むよりも上手く行く可能性は高いだろうね。」
「なるほど。」
少しだけ疑うとすると、天根は海賊であれ風魔であれ簡単に撃退してきた。本当にナハト王の討伐はできないのか。
天根はUDAには、キョウジも参加していることは知っていた。
だから最後は任せてしまおうと思っている。
「それに・・」
「?」
「あの太郎とかいう子供、あいつは風魔の別部隊だな。あいつはあいつで単独でナハト王の攻略をするだろう。今も色々やっているようだ。」
宗千佳はあの子供が?と言ったが、おまもな、と返される。
「見た目に騙されるな。」
天根は宗千佳と河原を歩いて行って、一刀石まで連れて行った。
一刀石は柳生の祖先が刀で縦に斬ったという巨岩である。縦に避けた岩がそこにはある。
あまりにも大きい。
「この岩を刀で切ったという伝説は信じるか?」
伝承である。伝説である。
「この岩を刀で切れる人がいるとでも?」
天根は近くの岩に腰をかけた。
頭が痛そうだ。
「あんまり人にどうこう言うのは柄じゃないんだ。偉そうだし、アドバイスなんてものはな、役に立つことは少ないし、後でいいことを言ったなんて恥ずかしいし。」
「はぁ」
「この岩が切れない根拠を言ってみろ。」
特に考えもなく答える。
「そりゃあ、見ればわかるよ。」
「じゃあ、神妙剣はどうだ?」
柳生の高名な技として神妙剣がある。
名前の通り神がかる技のことである。
「どうって」
「神を名乗る技を使うんだろ、そんな技なら、神を体得しているなら、岩を切ることくらいできるだろう。この岩が証拠だろう。」
天根が言いたいことは、神妙剣という人智を超えた技を稽古するのに、一刀石のような岩を斬った程度を否定するのは矛盾しているということだった。
「そもそもこういう教え方はダメなんだ、稽古というのは自分で気づくことに価値がある。でも、お前みたいに若いと人の言うことを素直に信じられないだろう。」
刀を貸してくれと宗千佳に言う。
天根は立ち上がり刀を抜いて鞘を横に置いた。
一刀石に向かい高く刀をかかげる。
袈裟がけに、斬りつけた。
「すまんな、観光名所のはずだが、しかし人がやったとは思わんだろうから。黙っててくれ。」
目の前の光景は信じられないものだった。不思議と天根ならできるのだろう。
そう感じて宗千佳を納得を得た。
一刀石はずるりと天根の切り込みに合わせて崩れたのだ。
神妙剣を柳生の実力を嘘ではないと証明したのだ。
続けていう。
「せっかく先祖が残してくれた話や、考え方なんだから、素直に信じてみてできるように稽古したらどうだ。多分、それが先祖の願いだよ。」
稽古についての姿勢について言っていた。
天根は宗千佳がずっと自分や柳生が弱いと思っているが、実際はそうではないということを伝えたかった。
「ありがとう」
宗千佳は素直に答えた。
「変な夜だ。懐かしい人を思い出して、酒を飲んで疲れてて、説教までしたら、流石に眠い。恩人の技を返せてよかったよ。」
そして、翌日
朝起きると、天根、雷蔵、太郎はいなくなっていた。
宗千佳が多恵に聞くと、早朝すでに出かけたという。
多恵にすると宗千佳が同行すると思ってないから、特に宗千佳を起こすことはない。
宗千佳は京都に、父のもとに行くべきかと悩んでいた、その手段が潰されたのだ。
京都に行っても自分は何もできないのはわかっている、天根について行ったら何かできるかもと思っていた。
天根はそういう発想になることを見抜いていたし、戦場に子供を連れて行くほど愚かでもない。
これからどうしようかなと、布団の片付けをしていると。
布団からウサギの耳がはみ出して動いていた。
それは宗千佳の旅が終わり、戦いがまだ終わらない事を告げていた。




