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近未来梅田地下街紀行  作者: 川中太一
日本への旅路
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必死

少年と二人になった。宗千佳は警戒している。


「君の名前は?」


「太郎・・・」


「なぜ、ここに?」


大体要約はこうだった。ここから下にある宿坊の子供で、山菜を収穫していたところ、大男に因縁をつけられて、ここまで逃げてきた。

あの大男は変人で有名で、思わず逃げてしまったと。


「両親が心配しているかもね」


「うん・・天川に帰らないと・・」


宗千佳は望郷している。自分の両親は柳生庄のみんな元気であろうか。

なぜこんな山奥に自分はいるのだろう。

両親はなぜ、自分に大連での計画を伝えなかったのだろうか。

子供を危険にしないため?自らの戦力不足?


大連でテロを起こした時に、計画に組み込まれたら自分は従ってたのだろうか。

柳生の名の下に罪のない人を傷つけたのだろうか。

それは確かめる必要がある。


もし、柳生という名前を汚すのであれば、汚す者がいるのであれば是正する必要がある。


--

突然だった。


宗千佳の目の前に立っていた男がいた。

大男でも、天根でも、ウサギでもない。

いや、兎の面をつけている。


山の中に知らない男、面をつけた男、異質なのである。

恐怖を感じたのだ。


静かである。緊張による静かさか。

宗千佳は太郎を後ろに隠れるように言った。


武器を持っていない。刀もない、銃もない。

しかし、後ろには子供がいる。


「私になにか用?」


兎の面に話しかけたが返事はない。

それどころか、腰の牛刀を抜いたのだ。


宗千佳はここ最近強い人を見てきた、誰一人として自分より弱い人はいなかった。

この面の男も達人であろう。


背中で宗千佳は太郎が震えているように感じたから、守る必要がある。


高く構えた位置から牛刀が、振り下ろされる。間合いを取って宗千佳はかわす。

ブンブンと振り回すようにくりだされるのだ。

あまり下がると太郎の危険になる。


倒すにはどうすればいいのか。素手で対抗できるのか。

太郎を連れて逃げることはできるだろうか。

天根が助けに来てくれるのだろうか。

どういう技が有効かということが頭の中でぐるぐる回る。


昔、聞いたことがある。誰だったか、誰に言われたのか。

確か剣術の試合であった。勝った。優勝した。

しかし、本気ではないから負けたと言っているやつがいた。

実戦なら負けないと。


それを負け惜しみとかではなく、宗千佳は真摯に真面目に受け取った。

試合と実戦の何が違うのだろうか。


後ろには太郎がいた。

確かに実戦は違うのかもしれない。宗千佳はずっと柳生のために修行してきた。

働いてきた。そこに本気さはあったのか、言われたからやっているのではないか。今は子供を守らなければならない。周りを崖に囲まれて、これが窮地なのだ。


次の牛刀の攻撃をかわして、手刀で牛刀を握る手を叩いた。

次の瞬間には兎の面の男のハイキックが宗千佳を捉える。

かろうじてガードをしたが、少しくらってしまう。

ガードをしたのにとんでもない威力だ。

意識を失いそうである。

このままでは、太郎に危害が加わる。


今の一撃は本気なのか、手刀で本当に倒せると思っていたのか。

本気でやらないと、自分も太郎も死ぬんだぞ。


なぜか燕雀朱美の言葉が頭をよぎる。

『そもそも、剣術、術や技なんて抜け殻みたいなものなのよ。』


技が抜け殻になる。


その言葉に感じ入った。

宗千佳は少し息を吸うと、綺麗に勝つことを諦める。


次の兎面の踏み込みは深い。

宗千佳は牛刀が体に触れる前に顔面に真っ直ぐに一撃を喰らわせた。

避ける気もなく、拳と顔面をまっすぐに繋いで最短で放つ。


それでも牛刀の勢いは止まらず、宗千佳の右頬に刃が食い込む。

不思議と痛みはない。


二、三センチ刃が食い込むも、先に当たった宗千佳の拳から、兎の面の男の力が緩み、すかさず宗千佳は膝を崩して馬乗りになった。

まるで子供の喧嘩のように。


兎面の男は体重を移動させても小さな宗千佳を全く動かせない。見事に制御している。


頬から多量の血を流しながら、牛刀を確保する。

そして、動かないようにためらないなく刃を突き立てようとしたら、兎面の男は葉っぱになって消えた。


消えたのか、逃げたのか。数十秒は心が動かない。

残心が途切れることはなかった。先に動いたのは太郎だった。


「血が、治療しないと。」


勝てた・・

その場に座り込んでしまう。


宗千佳は興奮していた、その状態を恥じて、何度か深呼吸する。

少しずつ、少しずつ平時と平静を取り返す。

自分が思っていた強さではないが、少しだけ強くなれたと感じたのだ。

柳生に縛られていた宗千佳が、自分の中から得たものだ。


太郎はさらに怯えているようだ。

気づくと大男、天根、ウサギがいた。

こんなに近くにいたのか。


大男は大きな声を出す。

「ガキ!おまえここにいたんか!」


なぜか天根もびっくりしている。

「ら、雷蔵さん?なんでここに。」


「そうか、この結界はお前ら関連か、なら納得するしかないか。」

大男と天根は知り合いであった。


天根の関心は旧知の雷蔵よりも、顔から血を流している宗千佳に向いている。

「おいしっかりしろ、ウサギ、治療を」

珍しく慌てている。


ウサギはテープを貼って宗千佳の止血をした、医療キットは本格的なものを携行しているようだ。

ウサギの全ての処置は完璧である。

医者の心得があることは誰が見てもわかる。


「吉野についたら、ちゃんとした医者に見せた方がいいな、再生医療を使えば傷は残らんだろう。」


天根はほっとした。

「お前も人の役に立つことはあるんだな。」


「なんだ、おまえ女子の顔に傷がって落ち込んでたのか、そういうフェミニストの部分があるんだな。クズのくせに。」


無言でウサギの耳に電撃を加える。


次に天根は太郎の近くに行く。

「お前も面のやつらの仲間だな。」

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