表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
近未来梅田地下街紀行  作者: 川中太一
日本への旅路
PR
33/77

大峰山脈

【大峰山脈】


天根と宗千佳とウサギは大杉谷から吉野に向かって歩き出して、半日が過ぎた。少しずつあたりが暗くなってきている。


大峰山系は山深い。


この山中で敵に見つかるのは気にしなくていいだろう。誰もここには来ないだろう。

見渡す限りどこまでも山だ。

あまりの雄大な景色に吸い込まれそうな自然と表現する人もいる。


人が立ち入ることはないような深い山だが、道は不思議と整備されているように見える。

現地の人か、それとも修行僧か。


山中は和歌山から多くの行場があり、山伏や修行僧の憧れの地でもある。

いつの時代も山岳信仰の中心とされる。


加えて大きな自然の中と思えば、広く広がる杉からは、人が植樹した形跡も見られて、人の文化が大きく影響している。


人とすれ違う事はほとんどない。


ところどころの木に鈴がつけてある。

現地の人が迷わないように道を案内しているのだろう。



それにしても、山があまりにも深い、ここで怪我をしたらもう自力では帰れない。



「ねぇ?」


宗千佳は天根に語りかける。

「ねぇ、聞いてるの?」


天根は少し休憩しようと、岩に腰掛けた。

「で?なんだ?」


「今日はどこまで歩くの?ずっと、ずっと、ずっと、登りばっかりで。」


「嫌になったか?」


「気持ちの問題じゃなくて、身体の問題なの。そのうち歩けなくなる。」


どれだけ科学の力が進んでも人間の道は人間しか歩けない。

マシーンでは進めないような悪路である。

柳生忍軍の小型マシーン風起クラスであれば可能かもしれない。


天根は悩むところだ。

「まともな宿にありつけるのは吉野についてからだよ。早く進めばその分、まともな寝床にはなる。もう少し進みたかったが。」


鳥羽では寝袋と、3日は飲み食いできる分の物資は調達している。

宗千佳が弱気に見えるが、大きな荷物を持っても影響もしない、天根とウサギが異常なのだ。


先程まで鈴を鳴らしていた風の音が止んだ。


ウサギが何かに気付いたようだ。

天根はどうしたと聞く。


「虫がいないぞ。」


確かに先ほどまでは虫が多くいた。

今は見なくなった。このあたりは針葉樹林でもない。


天根はウサギに問う。

「何を言っている、虫がなにかあるのか?」


「ゴミにはわからんのか、これだけ虫がいないということは、誰かが何かをしている。」


「・・古風な。」


そのやりとりのあと、少し悩んで、天根はこれ以上動かずに、ここで野宿することを宗千佳に伝えた。

宗千佳は自分の希望通りになったが、天根達が感じた違和感については知らない。



完全に日が落ちて、あたりは暗闇になった。

ランタンひとつと、夕食を作るバーナーとカレーの香りが辺りを照らしている。

気候も良くそれなりに快適に寝れそうではある。


しかし、天根とウサギはずっと警戒しているようだ。

虫が何かと言っていたが。


先程とは変わり風に揺られて鈴の音が増している。


シャンシャンシャンと、リンリンリンと。

実は木によって、鈴によって少しずつ形状と音が違うようだ。


とてもうるさくて寝れないはずが、むしろ心地よさを感じる。


音が静かさを強調することなどあるのだろうか。

横になりながら故郷を思い出す。

田舎ではあり、何もないところ。少しずつだが、故郷に近づいている。

落ち着いて心が休まる。


・・・


気づくと天根の姿はなかった。

ウサギはすぐそこで気にせず寝ている。


ザザザと茂みの方から音がした。


山の中で会う生物は猪か熊か鹿か、ろくでもないのである。

その茂み近くにも鈴があった。

宗千佳は武器を何も持っていない。

何かに襲われたら・・・


「助けて・・・」


現れたのは男の子である。こんな山の中に男の子がいる。

宗千佳の後ろに回り込んだ。

何かに怯えているようだ。


いつのまにか起きていたウサギが言う。

「宗千佳、おい、そいつから離れろ。」


「何を言ってるの?」


「この子、怯えている。何かから追われているのよ。」


「それは別の問題だ。」


宗千佳は子供の肩に手を置いて。

「ねぇ、1人?どうしたの?」


聞いた宗千佳も、1人だった。上海に軟禁されて、日本に戻ることもできずにいたのだ。

だから、少し優しくなっていた。


「追われてて、大きな熊みたいな男に。」


「大丈夫だから、私こう見えても強いから。」


ウサギが言う。

「おい、熊が来たぞ。」


更に茂みから現れたのは巨大な熊ではなく、作務衣を着た大男だった。

「おい、お前またんかい!」


大男が大きな声を出すと、男の子はさらに怯えているようだ。

宗千佳は子供をなだめながら。


「この子は怖がっています。あなたは?」


「ええから、その子供を渡せ。」


ウサギを見ると、さっさと渡せとジェスチャーしている。どうも大男を見て青ざめているようだ。

知っている男なのだろうか。

「ダメです、この子は怯えてます。この状況では。」


大男は無理矢理でも引っ張っていこうと言う雰囲気である。

宗千佳の立ち振る舞いを見て何かに気づいたのか。

「ガキ!わざとここに逃げたな。たまたまこんな山奥に人がいるわけない。」


せめて武器があれば対抗できたのかもしれないが、何もない。

しかし・・・

宗千佳は大男の前に立ち塞がった。


男の子は口を開けた。

「このおっさんが、俺をいじめるんだ。何時間も追いかけてきて。」


「こんな山の中を何時間も逃げれられる子供がいるかよ。鈴を使った結界を張ってなにをしようとしている?お前のボスに会わせろ。問いただす。」


反面、大男は宗千佳を排除することを躊躇っているようだ。


子供を捕まえようとした大男を見て、宗千佳は仕掛けた。

前蹴りで、鳩尾に一撃を加える。

しかし、まったく大男には効いていないようだ。

「凶暴やな。」


次にこめかめに当身を加えた。しかし、これは防がれて、掴まれて、膝から宗千佳は崩れてしまう。

見事な繊細な立ち関節技である。

一瞬で勝敗は決した。


ウサギが見かねて割り込む。

「雷蔵さん、連れが失礼しました。その子供は渡しますからどうか離してくれませんか。」


「おまえ、天根のところのやつか。おお久しぶりだな!」

大男はニカッと笑ってどうでも良さそうに宗千佳を離した。


子供が何か呟くと。

周りの鈴の音が大きくなっていく。

その音は全体を飲み込むように、そうすると、宗千佳は子供と2人になっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ