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近未来梅田地下街紀行  作者: 川中太一
日本への旅路
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日本海を渡る 後編

【フェリー デッキ】


先ほど見えた影は魚ではない。大きくてよく知る物。

「まずいな、オーナーにつなげ。ライフルでマシーンの相手はできない。」


【フェリー オーナー室】


船内電話が鳴る。

「あら、ぼっちゃん久しぶりに声を聞けて嬉しいわ。」


「俺には名前がある。その呼び方はやめろ。」


「天根の名前をもらった時から違和感があるのよ、あなたはずっと貴方だから。」


自分から話をしておいて、面倒になり本題を切り出す。

「急ぎだ、小型ボート以外にマシーンも海賊は用意している。」


「あら、海賊行為なんて非倫理的なんじゃない。」


「赤い光も僅かに見えた。大連事変と同じマシーンだろう。」


大連事変では、正式な手続きを経ずにエネルギー供給を可能にするテクノロジーで多くの被害がでた。

設計図が出回ったから、誰でも扱えるようになったのだ。

「それにしても、速すぎる、もとから出回っていたんじゃないか。この船にはマシーンか、何か火力のある兵器は積んでないのか。」


「はいはい、事情はわかった。そのマシーンは私が引き受けるから、船内の安全を優先して。」


電話を切った。

それにしてもこの女、嬉しそうである。


【三等客室】


宗千佳と海賊と老夫婦はお互いの状況を測っている。


拳銃を構えたまま宗千佳は微動だにしない。

淡々と相手に話をする。

「老夫婦を解放すれば、逃してあげる。外の様子を見たでしょう。もう一隻のボートもすぐに破壊される。」


海賊は黙ったままだ、外の状況は気にしているようだ。


気にせず宗千佳は続ける。

「もし、貴方がここにいる誰かに危害を加えたら確実に殺す。貴方が発砲しようとしても殺す。柳生の名に誓って。」


「ヤギュウ?」


「知っているの?」

日本では高名な一族であるが、海賊まで知っていることに驚いた。


船体が大きく揺れた。

先ほど天根が見た影である。

海の中にいたマシーンがフェリーに取りついたのだ。

水中用マシーン、フロッグマン。


カエルの名前は水中と水上両方で運用できるからで、それなりの数が出回っている。

加えてフォルムもカエルに似ている。

形状にはファンも多いらしい。


しかし、水はイグドラシルのエネルギー波を大きく減衰するので、水中での活動時間は数分と短い。

外付けのアンテナを海面に出してエネルギー供給を受ける対策もあったが、それでもわずかに時間が伸びたにすぎない。


フロッグマンは赤く発行していた。


フェリー自体は非常に大きいから、すぐに船体は水平に戻った。


しかし、その瞬間に海賊は宗千佳に対して発砲したのだ。

弾はわずかにそれて、宗千佳は一気に間合いを詰めた。


海賊の拳銃を絡め取り、目にそっと手を添えて、靴の上から足の指を踏み潰した。

海賊が膝から崩れ落ちる。


そのあとの拘束は警備がやってくれた。


いつからいたのだろう、天根の声が聞こえる。

「発砲したら殺すんじゃなかったのか。」


「柳生は故意に人を殺すことはしないの。」

活人剣という言葉がある。殺人剣の比較されるが、殺人剣は技量が足りないから殺してしまう。活かすも殺すも自在であれば、殺す必要もないのだ。


「なんか昔そういう話を聞いたな。」


宗千佳は少し気に入らなかった。もし、老夫婦に危険があったら、天根が介入しようとしたのだろう。


大きな声が聞こえる

『わたしはフロッグマンのパイロットだ、こちらの要件に従わない場合、この船自体を破壊する。』


「ねぇ、あれどうするの?」


「多分、心配ない。」


【フェリー 後方荷物搬入口】


搬入口は閉まっていたから、フェリーの倉庫は暗かった。

「イグドラシルへの戦闘申請をお願いします。」


「承知しました。戦闘倫理オペレーターのミメイと申します。戦闘哲学をお願いします。」


「よろしくね。燕雀朱美の戦闘哲学は、久我流の名に恥じない誇りのある結末を。です。」


「ありがとうございます。戦いの神ホーラは貴方の戦闘を承認しました。」


搬入口が開くと、次第に燕雀朱美のマシーンが姿を現す。

人型ではなかった。

鳥の形をしている。空の色をしている。まるで孔雀を彷彿とさせる羽根は機械とは思えなかった。


ミメイは驚く。

「こんなマシーンがまだ残っているなんて。」


「もの持ちはいい方なの。」


【フェリー 外通路】


船のアナウンスが流れる。

『今から船が大きく揺れます。近くのもので体を固定してください。』


「何があるの?」


天根と宗千佳は近くの手すりにしがみついている。

「そりゃ、あのフロッグマンを潰すんだろう。」


「どうやって。」


「野蛮な方法だと思うぞ。・・きたぞ。」


何がきたのか、後方から発進した燕雀朱美のマシーンが空高く飛翔する。


「まだ、持っていたのか。」


「何よ、あれは。」


「槇島博士のコンセプトマシーンの一つ、朱雀だ。いわゆる脱法マシーン。」


不思議であった、機械なのにまるで、浮いているように飛んでいる。


見えないくらいの距離を一瞬で離れていった。

本当に鳥のように。


「どっかいったよ」


「見てな、すぐに終わる。」


フロッグマンのパイロットは再びスピーカーで喚き出す。

『はやくしろ、なにしてやがる。乗客を潰すぞ。』


その後、刹那である。音はなかった、しかし、フロッグマンの姿は消えていた。

海中に落下したのだ。


フロッグマンのパイロットは何が起きたか観測することはできない。

燕雀朱美の朱雀が通り過ぎてフロッグマンを海に落としたのだ。


「影しか見えなかった。」


「影だけでも見えたら大したものさ。」


「なんで衝撃波とか音がないの?」


「そりゃあ、それが魔法使いたる所以だろうな。」


【フェリー レストラン】


宗千佳と燕雀朱美はレストランにいた。


「あの子は来ないのね。」


「寝たいから、と言っていました。」


「そう。」


宗千佳は海賊を鎮圧したことで、燕雀朱美から食事に誘われていた。


「あの天根さんとはどういう関係なのですか?」


「姉のようなものね、少し小うるさいからすぐに逃げられるわ。」


落ち着いた表情を見せる。

宗千佳は久我流の関係者かどうかを気にしていた。

他流であることがわかってしまえば聞けない事もある。

「人質になっていた夫婦を助けてもらったこと感謝するわ。もし何かあったらと思うと、本当に感謝しかないわ。」


「いえ、結局は久我天根がバックアップしていたようです。」


「なぜ、それがいけないの?」


「それは・・・」


「あの子からきいたの、何か悩んでるみたいだから、話を聞いてあげてくれって。」


「なんでそんなこと。」


少し笑って言う。

「それが今回の報酬だって。あとは貴方が泣き虫だから、泣かれると厄介だからだって。」


そのとおりだった。自分の無力さから泣くことしかできない。

「そうです。私は泣くことでしか自分を表現できないのです。」


素直な答えである。強がりもせず。

少し視線を逸らして震えながら聞く。

「何が違うんでしょうか。私と貴方たちは。」


今まで出会ったおかしな強さを持った人間たちのことを話す。


「あら、久我幻魔にも会ったのね。キョウジ君にも。」


久我天根がキョウジの先生であることについても聞いた。

「そうね、あの子についている男のキョウジを見た時には驚いたわ。まさか、子供の面倒をみるなんてね。どこにでもいる普通の子で、いつも、久我天根に戦い方を教えてもらおうとして。」


「だから強くなった?」


「それがね、天根は子供が戦争のやり方なんて知ろうとするんじゃないと、ちっとも教えなかったの。それを見かけた先代の久我幻魔が教えてやろうかって、言ったのよ。」


「それで久我幻魔に習ったの?」


燕雀朱美は首を横に振る。

「キョウジは天根から教えて欲しいって言って、断ったの。世界で一番強い久我幻魔に言われて、だよ。」

おかしそうに笑う。


宗千佳は聞き直す。結論を急ぎたいのだ。

「じゃあ、なぜ強いの?」


「その相談が、それが今回の海賊退治の報酬なのよね。というのなら答えましょう。でも本当は自分で解釈して欲しいからヒントだけ。」


ヒントでもほしい。柳生という名家に生まれて、伝統と言われるものを受け継いで、技を鍛錬してきたのだ。


「柳生の人だから、剣術はもちろんやっているね?」


「そりゃぁ」


「ではヒントです。刀はなぜ両手でもつのでしょうか。」


何の話だろうか。両手で持つものと習ったから、当たり前のこととして。

片手では振り回しにくいから?


「両手の方が力を出せるから?」


「ふふふ、答えは自分で考えなさい。これが答えだとおもったら、それが答えでいいわ、今度会ったら教えてね。」


宗千佳は浮かない顔をしている。

「宗千佳さん、貴方は自分と、その強いと思う人達は何が違うと感じているの?」


あまり言いたくない言葉だったが。

「実戦経験の違いでしょうか。久我流は常に最前線で戦っていますから。」


なるほど、と燕雀朱美は言う、食後のコーヒーを飲んで、デザートには何を言うかを考えている。

「ある意味ではそうね、でも、違うとは思う。」


「なぜ?」


「例えば戦場なんて世界にはたくさんあるし、あったじゃない。日本で言えば関ヶ原の合戦とかもそうね。何万人の人間が実戦経験を積んだわ。でも、何万人の達人が生まれたわけではない。」


根拠はあるのだろうか。

燕雀朱美は話を続けながら、頭の中を整理しているのだろう。


「関ヶ原の合戦では柳生は参加していないでしょう。それなのに柳生家は江戸の剣術指南役になったわけだから、戦場以外に強さを見出していたのよ。」


だんだんと説明が難しくなってきた。

さらに悩みながら説明を続けた。

「うーん、そもそも、剣術、術や技なんて抜け殻みたいなものなのよ。」


「というと?」


燕雀朱美は語るのが好きなのだろう。ハッと気づいて止めてしまう。

「あっと、だめね、全部教えてしまうと、あなたのためにならないから、いけないから、これがヒント二つ目ね。」


わからない話をされたが、わからないということ自体が至らない理由なのであろうと解釈した、

たわいのない話をそれから少しだけして、その日は寝た。

フェリーからはすでに日本が見えていた。

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