日本海を渡る 中編
【2等客室】
船が出航してから3日目。
「ねぇ、ウサギさん、久我天根って弱いの?」
ウサギはうつ伏せでベットに倒れながら回答する。
「はぁ?何を言ってるの?」
ウサギはベットに横になりながら答える。
「だって、本人が弱いって。」
ウサギは天根が嫌がる事をどうやって実現するかを考えている。
「何言ってるの?見たでしょ、強さを。」
「久我天根が戦ってるのは見た事ないよ。」
「上海で雑賀故我を倒したマシーンの白洲キョウジのことよ。」
「それは?」
「あの子、キョウジは久我天根の弟子よ。正確には天根は技を盗まれたって言ってるけど。」
宗千佳は一瞬思考が止まった。
あの上海でのマシーンが・・
宗千佳が目撃した異常な強さの者たち
魔法使いビリー
魔法使いラーム
マリナ
談迷子
久我幻魔のチーム
そして、上海で雑賀故我を倒したパイロットのキョウジである。
全て自分より遥かに強いのだ。
【船上テラス】
久我天根はパラソルの下のデッキチェアでくつろいでる。
そこに宗千佳が顔を覗き込んで言うのだ。
「白州キョウジって名前は?」
「ああ、知っている。なぜ?」
「別に・・それ自体はいいんだけど。」
宗千佳はかすれたような声を出す。
聞きたいことがあるのだ。
しかし、それを聞くのはどうなのか。
「言いにくいことか?」
かすれた声で何かを言おうとしている。
全く聞き取れはしない。
「そうか、大体わかった。」
天根はそういうと、隣のデッキチェアに座るようにジェスチャーをする。
「海は好きか?」
意外な質問だった。多分、泣かれても困るから話を逸らそうとしている。
「普通かな・・」
そうか、と天根は答える。
「俺は海はあまり好きじゃないんだ、気づいたら街も山も谷も川も。」
「何の話?」
「中年っていうのはそうなんだ。若者はさ、あまり難しいこと考えるんじゃない。そうじゃないと中年みたいに陰鬱になる。」
フェリーのパラソルの下で昼間から寝ている男は陰鬱なのだろうか。
気づくとウサギが横にいた。
天根の耳元で囁いた。
「船のオーナーが厄介ごとを頼むって。」
「俺、一応社長なんだけど。でも、・・丁度いいかもね。」
【後方デッキ】
「なにあれ?」
野菜を満載した小型ボートが接近している。
「海賊さ。」
「海賊?」
小型ボートには六人は乗っている。
天根は拳銃を宗千佳に渡した。
「治安が悪くなるとああいう輩も出てくるんだ。」
フェリーの警備からスピーカーを天根は受け取った。
「速やかに離れろ、こちらには武装警備がある。」
イグドラシルからのエネルギー供給を受けたボートは速い、過去には足の遅いタンカーが海賊のターゲットであったが、このようなフェリーも対象になっている。
カジノ船であるから、金もある。
宗千佳は何をしろと言われていない。
成り行きを見守るしかないが、渡された拳銃は荒事があることを表している。
「あんな小型ボートで取り付けるわけがないのに・・」
天根が警備に伝える、全員を部屋に戻せ、従わないやつがいたら射撃しろ、と。
逆方向からも一隻接近と警備から連絡が入る。
ウサギは天根に耳打ちする。
「準備が良すぎる。客室に仲間が潜んでいるぞ。」
「長物があればいいんだが。警備は基本的にはマニュアル通りでいいとオーナーに指示して、武器があれば回してもらうように言え。」
警備が小型ボートをマシンガンで何度か狙うが、全く当たらない。
威嚇にしても海とデッキで距離がありすぎる。
けたたましい警告音が響き渡る。
『お客様職員各位、海賊の襲撃に遭っています。警備が排除中です。お客様はカーテンを閉めて、ステイキャビンにてお願いいたします。』
宗千佳は状況がわかっていなかった。
「私はこの拳銃で何を?」
「撃ちたいやつがいれば撃てばいい。」
身を守るため、客を守るため、海賊を倒すため、好きにしろということだ。
「柳生の用心棒代は高いぞ。」
宗千佳は何かを察したように、下層の客室へと向かう。
天根は表情を変えた。
「へぇ、泣き虫のわりに、わりとわかってるんじゃないか。おい、警備は何人かあの子についていけ、潜入している賊の場所まで案内してくれるはずだ。」
天根は警備からライフルを受け取った。
古いモデルで、あまり整備がなされていない。
ところどころが錆びている。
小型ボートを狙撃する、狙いは適当である。
全然当たらない。
「おい、ウサギ!サポートしろ。」
ウサギが逃げようとしたところ、頭を鷲掴みにする。
「おい、良い子の頭に何をする。」
ウサギの頭に刺さった耳は三つの役割がある。
一つはセンサーである。音と電波を基本に様々な情報を観測する。
一つは悪さをしたときに電流を流せること。
一つはウサギが悪巧みを他者に持ちかけた時に、そんな姿では誰も相手にしないというもの。
「や、やめろ人にセンサーで触られるとゾワゾワするんだ。ライフルを渡せばこちらで撃ち込んでやる。」
「馬鹿に武器を渡せるかよ。」
例えば電波を受信するのにただの金属棒がアンテナになるように、ウサギの頭、正確には顔面を鷲掴み(アイアンクロー)することで、感覚を拡張することができる。
これは、魔法使いに近い特性であった。
天根は頭を掴んだ腕とライフルを持つ手を交差して、構える。偏差を感覚で修正して、次とその次の弾道で正確に海賊を貫いていった。
ウサギはもがいている。
「おい、本当に頭を掴んで意味あるのか、これ。」
天根は面白いから、アイアンクローをやめない。
小型ボートの一隻は沈黙した。その船の下には大きな影がいた。
【三等客室前 廊下】
「入ってくるなら多分この階層ね。」
たくさんの乗客が避難をはじめていた。
さきほどから取りつこうとしている、小型ボートの位置から大体のこのあたりをつけていたのだ。
天根もわかっている、あらかじめ潜入している賊の仲間がフェリーの中から、梯子を下ろして海賊を中に入れる算段と。
さきほどの放送で寝ていられる客はいない。
「客室の人感センサーのモニタリングはできる?」
警備はできますといい、コントロールルームに問い合わせて情報を得ていた。
人がいるか、いないか、はわかるが、何人いるかはわからない。
「センサーが切れている部屋はどこだ。」
あたりをつけた客室の中で一室だけ反応がなかった。
船外からドン、という音がする。
天根がライフルで小型ボートのエンジンを破壊した音だった。もう一隻のボートはまだ諦めずにフェリーに取りつこうとしている。
宗千佳は空室のドアをトントンとノックする。
反応はないし、ドアは施錠されている。
警備にゆっくりと鍵を回せと指示をした。
それでも音はするものである、カチンッと鍵の音がして、ゆっくりとドアを開けた。
手を挙げた老夫婦が立っている。
「撃たないで・・・」
その後ろに拳銃を持った男が老夫婦の夫人の頭を狙っていた。
男の足元には工具と、縄梯子が用意されている。
すぐに宗千佳は状況を察した。
古典的でな方法ではある。が人質というのはいつの世も有効でもある。
「その夫婦から離れなさい。」
「離れるのはそっちだ、部屋から出ていけ!」
海賊はわかっていない、宗千佳は他人のためには強いのだ。




